皆さん、こんにちは。3月です。春本番ですね。でもまだまだ寒い日もあります。くれぐれもご自愛ください。

かわら版では日常会話の中に含まれている仏教用語をご紹介しています。知らず知らずのうちに使っている仏教用語。それだけ日本人の生活に溶け込んでいるということです。

「三月にはなったけど、まだ寒い日が続くので油断して風邪ひかないように」という注意喚起の意味で使われる「油断」という言葉。これも実は仏教用語です。

「涅槃経」というお経に「油断」の語源となる逸話が語られています。その昔、インドの乱暴な王様が臣下に油を一杯に注いだ鉢を持たせ「もし鉢を傾けて一滴でも油をこぼしたら命を断つ」と命じました。物騒な話ですが、「油をこぼしたら命を断たれてしまう」というくらいの緊張感、真剣さをもって修行しなさいという教えです。

この逸話には「怠るな」と同時に「中道」という教えも含まれています。「鉢を傾けたら油がこぼれる」の「傾ける」に意味があります。油をこぼさないためには、どちらか一方に極端に傾けるのではなく、真ん中の状態を保つことが大切です。この「傾かない」姿勢を「中道」と言い、ブッダは「油断」を戒め「中道」を諭しました。

「傾ける」という言葉は、仏教における重要なポイントです。単に器の傾きだけを指しているのではありません。「傾ける」という言葉には、生き方を傾けてはいけないという意味が含まれているのです。

シャークヤ国の王子として生まれたお釈迦様は29歳の時に出家し、厳しい修行をしましたがなかなか覚れません。宮殿での贅沢な暮らしと苦行の両極端な生活を振り返り、「楽」でも「苦」でもない「中道」という考えに行き着きました。

つまり、極端な生き方に固執して行動や思考が傾くことがないように、人間としてのバランスを欠いてはいけないということです。

極端なことに自分の心を傾かせないように生きることが大切と教えます。どれだけ意識していても、人間という生き物は知らず知らずのうちにどこかに傾いてしまうようです。思考も行動も、偏らないよう、折々に自省して生活していくことが大切です。

比叡山延暦寺の「不滅の法灯」とは、点灯以来一度も消えることなく燃え続けている根本中道の中の蝋燭の炎を指します。最澄さんが比叡山山中に根本中堂を建立し、延暦寺を創建。自ら薬師如来を彫り、ご本尊としました。「不滅の法灯」はご本尊の前に点灯され、以来1200年間、一度も消えることなく燃え続けています。油を絶やさないように気をつけていないと炎が消えます。ここから「油断」という言葉が生まれたという説もあります。

余談ですが古語「寛(ゆた)に」の音が変化して「油断」になったという説も聞きました。万葉集に登場する「ゆたにゆたに(悠々と漂い動くさま)」という表現が「注意を怠る」と言う意味に変化したとされています。「ゆた=のんびり」と言う言葉は今も四国土佐地方の方言に残っています。お客様に「ごゆっくりしてください」の意味で「ごゆだんなさりませ」と言うそうです。

四国と言えば空海さん。「油断」の語源に関係があるかもしれませんね。ではまた来月。