皆さん、こんにちは。十月になりました。秋本番です。朝晩冷え込む日、日中も肌寒い日も増えてきます。くれぐれもご自愛ください。
かわら版では日常会話の中に含まれている仏教用語をご紹介しています。知らず知らずのうちに使っている仏教用語。それだけ日本人の生活に溶け込んでいるということです。
肌寒くなると布団が恋しくなりますねぇ。実はこの「布団」も語源は仏教由来です。
古くは「蒲団」と書き、座禅の時に敷く敷物のことです。中に蒲(がま)を詰め、蒲の葉で編んだものもありました。仏教用語というよりは、仏教用具を表す言葉です。ちなみに「蒲」とは秋田の食べ物である「きりたんぽ」のような姿をした植物のことです。
「団」は丸いものを指しますので、「蒲」で作られた「団」、文字通り「蒲団」です。
「ふとん」と読むのは唐音(とうおん)だからです。禅宗とともに宋の時代の中国から入ってきました。「唐音」の「唐」は「唐土(もろこし)」、つまり中国を指します。
寝るための「ふとん」以外に四角い「座蒲団(ざぶとん)」もあります。仏教用具だった丸い「蒲団」は、いつの間にか寝具や四角い「座蒲団」となりました。寝具を「ふとん」と呼ぶようになるのは、江戸時代になってからです。それまでは「しとね(しきぶとん)」「ふすま(かけぶとん)」と呼んでいたそうです。
日本の文献に初めて「蒲団」という言葉が現れたのは平安時代前期です。「金剛般若経集験記」に「蒲団」が登場し、「ワラフタ」と読み、座具を指していました。仏具の下に置く敷物の役割だったようです。
鎌倉時代の道元の「正法眼蔵」には「坐禅の時は蒲団を敷くべし」と記されています。座禅の際にお尻の下に敷く小さい円型の座具として使われ始めました。宋に渡った道元が座具としての「蒲団」を持ち込んだようです。
「蒲団」が寝具を指す言葉として文献上に現われるのは安土桃山時代の「多聞院日記」が最初です。当時は「蒲団」は座具と寝具の両方を指していたようです。
一方、十二世紀に中国で栽培されるようになった綿が室町時代末期に日本に伝来。そして、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて全国各地で生産され始めました。
綿の普及とともに、木綿(もめん)を「蒲団」の中に詰めるようになり、「蒲団」が徐々に寝具を指す言葉へと変わっていきます。やがて中綿だけでなく、外側の布地にも木綿が使われ、寝具としての「蒲団」が普及します。綿栽培と「蒲団」の普及は深く関係しているのですね。江戸時代中頃には「蒲団」は完全に寝具を指す言葉に転じます。
十七世紀になると明(中国)では「布団」という漢字が使われるようになり、これも日本に入ってきます。江戸時代後期には「布団」という漢字が文献上に現われます。「蒲団」よりも「布団」と書く方が主流となりました。
日本語の日常用語に浸透している仏教用語は主に「心のもちかた」「心のありよう」を表す言葉と、「もの」を表す言葉に分かれます。かわら版でご紹介している言葉の多くは前者ですが、今日は後者でした。過去にご紹介した「玄関」なども後者ですね。毎日仏教由来の「布団」の上で寝ていることを忘れずに、今日も精進しましょう(笑)。ではまた来月。