皆さん、こんにちは。早いもので十一月。すっかり寒くなってきました。風邪をひかぬように、くれぐれもご自愛ください。
かわら版では日常会話の中に含まれている仏教用語をご紹介しています。知らず知らずのうちに使っている仏教用語。それだけ日本人の生活に溶け込んでいるということです。
一昨年はロシアとウクライナ、昨年はイスラエルとパレスチナ。世界は紛争続きです。国際社会のルールを守らない国は世界から「つまはじき」にされますねぇ。と言って使った「つまはじき」。漢字では「爪弾き」と書き、人を嫌って除け者にすることを意味します。
「爪弾き」という言葉は仏教語の「弾指(だんし、たんじ)」という厄除けの仕草に由来します。「弾指」は文字通り指で弾く動作です。やり方は、右手の人差し指の爪の面を親指の腹に当て、それから力強く人差し指を伸ばすように弾きます。上達するとパチンという心地よい音が出ます。
古来、インドでは許可や歓喜の気持ちを表す場合もあるそうですが、一般的には軽蔑、嫌悪、非難などの意味を込めています。そこから転じて「除け者にする」ことを表現するようになりました。
また、厄除け的な役割も果たしているそうです。位牌を処分したり、壊れた墓石を改修したりすると時に、いわゆる「魂抜き」の目的で「弾指」を行います。その際には、左手で金剛拳という印を結んで腰に当て、右手で「弾指」します。
僧侶が家や部屋に入る時の合図、魔除けとしても行います。魔を払い除くために僧侶が日常的に行いました。何か処分したいものや、汚れたものに向かっても行いました。その動作がやがて衆生(人々)に広がり、誰かを仲間はずれにするような行為と「弾指」が融合して「爪弾き」という言葉が登場しました。
「弾指」という行為のルーツを辿ると、紀元前五世紀頃の原始仏教にまで遡ります。その頃のインドでの修行は原野やジャングルのような森林の中で行われていました。夜を過ごすのも樹木の下や洞窟の中。虎などの野生動物や、毒クモ、サソリ等の有毒昆虫、病原体等々、命にかかわる危険がいっぱいです。中でも一番恐れられたのはコブラ等の毒蛇。
修行者の多くが落命しています。
経典や古文書によれば、蛇は指先を弾く「弾指」の音を嫌がるらしく、修行者は森林や洞窟等で休む際に「弾指」して危険を回避しました。
余談ですが毒蛇にとっての天敵は孔雀。孔雀はムカデ、サソリなどを食べますが、蛇はとりわけ大好物。インドの修行者たちは孔雀が生息する場所を見つけると安心して瞑想にふけったそうです。孔雀が仏教の守護神となり、孔雀明王が誕生した背景が理解できます。
「弾指」を行った直後の手のかたちは人差し指で差しているかたちです。だから人を指差す行為は良くないものともされます。もともとは指差す行為は禁忌には当たっていなかったものの、人差し指で人を指差すことで体調を崩させる「ガンド」という欧州魔術の仕草と混交し、指差すことが忌避されるようになったという説もあります。
最近の子供は「爪弾き」という言葉は使うのでしょうか。ではまた来週。