皆さん、こんにちは。夏本番です。コロナ禍で今ひとつ晴れ晴れしませんが、暑さに気をつけて、ご自愛ください。
昨年からお伝えしている 三河新四国八十八ヶ所霊場場いよいよ結願です。
山崎弁栄上人
さて、結願寺に向かいます。八十五・八十六番から北へ約二キロメートル。深称寺から約一・三キロメートル。大浜上町の交差点を越え、天王交差点手前を右折して住宅街に入ると八十八番、浄土宗の天王山法城寺。八十七番は本堂内の天王殿です。結願を法城寺とするため、天王堂が八十七番になっています。
一八九四年、九重味淋創業家(石川家)縁戚の資産家、石川市太郎が私財を投じて作った説教場が当寺の始まりです。
開山の山崎弁栄上人一八五九?一九二〇年)について触れておきます。
弁栄上人は下総国手賀沼鷲野谷(現柏市)の熱心な浄土門徒の農家に生誕。幼い頃から近所の真言宗の寺で仏画を習っていたそうです。十二歳の時に阿弥陀三尊を夕日の中に感得し、二十歳で出家しました。
その後は上京して増上寺や駒込吉祥寺学林(現駒澤大学)で研鑽を積み、筑波山中で念仏修行、浄土宗本校(現大正大学)設立を勧進、インド仏跡巡拝を行うなど、真摯に仏道に邁進しました。
西洋楽器を積極的に布教に活用しました。仏教の教えを広めるため、賛仏歌を作詞作曲し、当時は目新しい楽器だった手風琴を自分で演奏し、全国を行脚したそうです。絵画や米粒絵も描く万能者です。
その山崎弁栄上人が開山ですから、法城寺には上人縁の寺宝も多く、その影響が色濃く残る寺院です。凛とした静寂を感じる素晴らしい境内。弁栄上人の遺徳を偲びつつ、合掌して結願です。
ご本尊(八十七番) 火防大師
ご本尊(八十八番) 阿弥陀如来
ご詠歌 今までは 親とたのみし大師ずえ めぐりて納む 法城の寺
当麻寺の三尊像
八十三・八十四番の約五十メートル先、北隣にあるのが八十五番、華慶山林泉寺。曹洞宗のお寺です。
一四五七年創建。寺宝として伝わる三尊仏(釈迦、、文殊、普賢)の掛け軸は、もともと奈良当麻寺にあった七百五十年前の源慶作。
当麻寺は奈良県葛城市にある名刹。開基は聖徳太子の異母弟麻呂古王と伝わります。奈良時代末期、平安時代初期建立の二基の三重塔(東塔、西塔)があり、近世以前建立の東西両塔が残る日本唯一の寺としても知られています。
その当麻寺にあった源慶作の掛け軸。源慶は平安時代後期から鎌倉時代前期の仏師で、運慶の弟子です。
林泉寺境内は禅寺の雰囲気を感じさせる静寂が漂います。八十六番は山門を入ってすぐの弘法堂です。
ご本尊(八十五番) 聖観世音
ご本尊(八十六番) 大聖歓喜天 大師像
ご詠歌 衣浦の 海をはるかに見渡して 法の林に 泉湧く寺
旧三河新四国
紙上遍路、お疲れ様でした。一六二六年(寛永二年) に浦野上人 が開創した元祖三河新四国、一九二七年(昭和二年)に再興された旧三河新四国先人の努力があってこそ、一九七〇年(昭和四十年)に三度(みたび)誕生したのが現在の三河新四国です。
元祖三河新四国の札所の全貌は調べきれませんでしたが、旧三河新四国はわかります。
再興の契機となった善通寺誕生院貫主から贈られた直傳證 は、現在も雲龍寺(豊田市)本堂に掲げられています。雲龍寺は旧三河新四国では七十六番、現在の三河新四国では十九番・二十番です。
旧三河新四国の札所は、一番薬証寺蒲郡)から、西尾、碧南、高浜、刈谷、知立、豊田を経て、八十八番香積寺(足助)を巡拝します。
菊女は大浜の熊野権現 に日参、毎夜はだしでお百度参り、熱心に夫の無事と放免を祈願しました。夫の両親を支え、夫の留守を守り、写経に打ち込みました。そして、毎日のように写経と夫への手紙を竹筒に納めて海に投じました。
ほとんどの札所が旧三河鉄道沿線に位置し、海沿いの温泉景勝地蒲郡から紅葉で名高い香嵐渓を結ぶ沿線振興策だったようです。駆け足でお遍路しましょう。
スタートの蒲郡は、東三河新四国、三河海岸大師など、複数の弘法霊場が交錯する地域です。中でも五番無量寺は、三河新四国(六十一番・六十二番)、参河国准四国(五十四番)、東三河新四国(十七番)、三河海岸大師(四番)も兼ねる五冠王です。
碧南に入ると、やはり大浜地区に札所が集中しています。大浜から北上すると知立の遍照院。旧三河新四国では五十七番ですが、現在の三河新四国では開創霊場(零番)です。
さらに北上して猿投へ。大悲殿東昌院は旧三河新四国では奥の院、現在の三河新四国では十七番・十八番です。もともとは三河三の宮である猿投神社別当寺の白鳳寺。神仏分離令、廃仏毀釈によって廃寺となった後、復興されました。
旧三河新四国は浄土宗系寺院が過半を占め、中でも多いのが西山深草派(三十一ヶ寺)。徳川家康が三河一向一揆と対峙した際、一向宗の中でも家康方についたお寺が浄土宗に改宗した経緯が影響しているようです。
次に多い曹洞宗十八ヶ寺)のほか、全部で十六宗派の寺院で構成されています。
札所石柱が残っているお寺も多く、探しながら散策するのは楽しいことです。
三河新四国の宗派とご本尊
紙上遍路の結願、おめでとうございました。来月は、三河新四国の宗派とご本尊について整理してみます。乞ご期待。