皆さん、こんにちは。今年もかわら版をご愛読頂きましてありがとうございました。来月からは足かけ七年目。今後ともどうぞよろしくお願いします。さて、覚王山周辺の名刹をご紹介してきました今年のかわら版。今月は曹洞宗の万祈山(ばんしょうさん)松林寺です。
丸山村の鎮守寺
松林寺は日泰寺の南西、広小路を渡った住宅街の中にあります。近接する丸山神明社は承久三年(1221年)以前の創建であり、松林寺周辺は中世から集落があった地域のようです。
松林寺自身は元亀二年(1571年)に丸山村の鎮守寺として創建。
本堂は嘉永六年(1853年)建立。千種区内で最古の木造建築物のひとつと言われています。
本堂の西側には弘法大師や三十三観音を祀ったお堂があります。また、境内の無縁塚には延宝とか元禄という元号が刻まれた墓石があり、丸山村と松林寺の歴史を偲ばせます。
ご本尊はお薬師様
禅宗に属する曹洞宗の宗旨の祖(父=高祖)道元(注)は、お釈迦様が菩提樹の下で座して瞑想する中で悟りを開いたことを禅の原点としました。そのため、曹洞宗のご本尊は釈迦牟尼仏(釈迦如来)とするお寺が多いですが、松林寺のご本尊は薬師如来です。
(注)10月号でもご紹介しましたが、曹洞宗では道元を「宗旨(宗派の教義)の祖」「父=高祖」、瑩山を「宗門(教団)の祖」「母=太祖」と呼び、永平寺と総持寺がそれぞれの本山となっています。
お薬師様(薬師如来)は病気を治してくださることから、別名医王如来。ほかにも衣食充足などの現世利益を施してくれるお薬師様がご本尊になっていることが、松林寺が村人によって建立された鎮守寺であることの裏づけとなっているようです。
薬師如来は左手に薬壺(やっこ)を持っているのが特徴。脇侍の日光菩薩、月光菩薩や十二神将を従えています。松林寺には両脇侍に加え、十二神将のひとり、毘沙門天が祀られています。
丸山神明社の秋葉常夜灯
ところで、丸山神明社には天保5年(1834年)村中安全と彫られたこの界隈では珍しい秋葉常夜灯があります。
常夜灯は秋葉信仰から生まれた風習です。秋葉山は秋葉大権現という防火の神様がいるご神体山(静岡県浜松市)。初めて社が建ったのは和銅2年(709年)。秋葉山に通じる街道は秋葉道とか秋葉路と呼ばれ、道標と信仰の象徴として燃えにくい石造りの常夜灯が建てられるようになりました。
秋葉信仰は徳川綱吉の治世以降に全国に広がり、秋葉講の開設や常夜灯建立が行われました。
秋葉山には神仏習合の聖地として秋葉神社と秋葉寺がありましたが、明治維新の廃仏毀釈の影響もあって秋葉寺は廃寺。ご本尊の秋葉大権現は静岡県袋井市の可睡斎(かすいさい)という曹洞宗のお寺に祀られています。
そういえば、日泰寺参道にも二十年前ぐらいまで、秋葉常夜灯のような灯篭がたくさんありましたね。
尾張四観音を結ぶ四観音道
松林寺の西側には四観音道(しかんのんみち)の一部である笠寺道が通っていました。
四観音は荒子・甚目寺・竜泉寺・笠寺の尾張四観音。いずれの観音も創建から千数百年以上を経た古刹。徳川家康が名古屋城築城に際し、城の鬼門の方角にある四観音を鎮護寺に定め、それぞれを結ぶ道として四観音道ができました。
来年は弘法大師の生涯
さて、来年のかわら版では弘法大師の生涯をご紹介します。乞う、ご期待。それでは皆さん、良い年をお迎えください。