【第59号】台観寺 法華経の「空」と「久遠実成」

皆さん、こんにちは。新緑が目にまぶしい季節になりました。覚王山周辺の寺社仏閣、名刹を紹介しています今年のかわら版。今月号は台観寺(たいかんじ)です。

*文中( )内の数字は参照号

行基作の阿弥陀如来

台観寺は日泰寺本堂の東、姫が池通を渡った先、三月号(五十七号)でご紹介した大龍寺の隣にあります。ご本尊は光と長寿の仏様である阿弥陀如来(三十九号)。行基作と言われています。

このご本尊、もとは三重県桑名郡の円明寺にあったそうですが、お寺が水害で流失。ご本尊を守っていた名古屋在住の堀栄七氏が大正八年に覚王山に本堂を建立。ご本尊を収めました。堀栄七氏の法名は台観。寺号はこれに因んで台観寺になりました。

弘法大師作の大黒天

台観寺は、弘法大師作の大黒天像が祀られていることでも有名です。大黒天は七福神の一人(四十五号)。財福神とも呼ばれ、財産の神様として広く知られていますが、知恵の神様という一面もあるそうです。

甲冑に身を固め、左手に宝棒、右手に知恵袋を持っています。台観寺の大黒天は知恵さずけのなごや大黒として親しまれております。よく考えてみれば知恵も人間にとっては財産みたいなもの。そういう意味かもしれませんね。

法華経の「華」は蓮の花

台観寺は覚王山周辺には数少ない天台宗のお寺。天台宗の開祖は伝教大師最澄。真言宗の開祖、弘法大師空海と同じ時代に活躍。最澄、空海は日本仏教の両巨頭です。

最澄、空海は偶然にも同じ遣唐使船に乗って唐(中国)に留学。帰国後にそれぞれ天台宗、真言宗を開きました。

天台宗の経典は法華経。仏教の経典はもともとサンスクリット語という言葉で書かれていました。法華の語源はサッダルマ(=正しい教え)プンダリーカ(白い蓮の花)。蓮の花は「咲いたときから実を結んでいる」ことから、人は誰でも生まれながらにして仏性(ぶっしょう=実=慈悲の心)を備えているという考え方を表現しているそうです。

法華経は正法蓮華経、妙法蓮華経、添品妙法蓮華経の総称。南無妙法蓮華経というお題目を唱えることで仏性に従った日常生活を目指します。

「空」と「久遠実成」

ちょっと難しくなってきましたが、もう少し勉強してみます。法華経は全部で二十八品(ほん)の文章から成り立っています。前半十四品を迹門(しゃくもん)、後半十四品を本門(ほんもん)と呼びます。

迹門のテーマは「空」(くう)。全てのものは縁起によって成り立っているに過ぎず、色も形もない「空」の存在。そうした本当の知恵を学び、物ごとにこだわらない生き方を説いています。 本門のテーマは「久遠実成」(くおんじつじょう)。お釈迦様は悟りを開いたのではなく、もともと仏であったという教え。人は生まれながらにして仏性を持っているということと関係がありそうですね。

聖徳太子と法華経

日本への仏教伝来は西暦五三八年。そして、日本書記には六○六年に聖徳太子が法華経の講義を行っていたと記されていますので、ずいぶん古くから親しまれた経典のようです。

来月は桃厳寺

さて、来月も四月号(五十八号)に続いて覚王山縁(ゆかり)の戦国武将、織田信長公に関わりの深いお寺をご紹介します。本山にある曹洞宗のお寺、桃厳寺です。乞うご期待。