【第47号】梵天なくして仏教なし

梵天なくして仏教なし

さて、年初より天部についてお伝えしているかわら版。天部は仏教に帰依したインドの神様です。今月は、天部の中の最高神、梵天です。梵とはサンスクリット語(インドの古い言語)で「偉大な」「神聖な」という意味です。

梵天はお釈迦様(釈尊)が仏教を広めるのに大きな役割を果たしました。

釈尊が悟りを開いた時、その内容があまりに深遠であるために、人々に広めることは難しいと考えたそうです。その様子を天上から見ていた梵天は「あなたがその悟りを人々に広めなければ世界は滅んでしまう」と根気よく釈尊を勧請(説得)しました。

梵天の勧請を聞き入れた釈尊が五人の弟子に初めて語った説法のことを初転法輪(しょてんほうりん)と呼びます。そして釈尊を含めた六人で最初の仏教教団が誕生しました。この一連の逸話は、梵天勧請(ぼんてんかんじょう)と言う説話に記されています。

梵天と帝釈天は仏教守護の両雄

梵天は帝釈天と二体一対で祀られることが多く、両者を合わせて梵釈と呼びます。

一月号でご紹介しました京都東寺講堂の立体曼荼羅の配置をみると、梵天と帝釈天の重要性がよく分かります。

立体曼荼羅には、弘法大師の指導によって、五仏(五智如来)、五菩薩、五明王、四天王に、梵天と帝釈天を加えた二十一体の仏像が配置されています。

如来・菩薩・明王で表される密教世界の四隅を守るのが天部の四天王。東の持国天(じこくてん)、西の広目天(こうもくてん)、南の増長天(ぞうちょうてん)、北の多聞天(たもんてん)。これに、インド古代神話の創造主ブラフマンが元になった梵天(ぼんてん)と、戦闘神インドラが元になった帝釈天(たいしゃくてん)を加えた六尊が守りを固めています。強そうですね。

梵天は緩やかな衣服をまとい、手には鏡や香炉を持ちます。四面四臂(しめんしひ=顔が四つ、腕が四本)の像が多く、世界を見渡す最高神として世界全体に目配りしている姿を表します。 東寺梵天坐像は正面の顔の額に第三の眼を持ち、さらに千里眼を利かせます。梵釈が並んで立つ場合には、右に帝釈天、左に梵天が定位置です。

梵鐘の梵は梵天の梵

さて、お寺の釣鐘(つりがね)の正式名称は梵鐘(ぼんしょう)。梵鐘の梵は梵天の梵。神聖で偉大な鐘という意味です。

もちろん、覚王山日泰寺にも梵鐘があります。現在の梵鐘は二代目。初代は高さ四・五メートル、重さ七十五トンの大梵鐘でしたが、第二次世界大戦末期の金属供出でなくなってしまいました。残念ですね。

現在の梵鐘は、昭和五十九年、タイ国王ラーマ九世から日泰寺にタイの国宝釈迦如来像とタイ語で「釈迦牟尼佛」と書かれた勅額が贈られた記念に作られました。梵鐘の壁面には勅額を書き写した文字が記されています。是非一度ご覧ください。

次回は執金剛神

愛知県で最も有名な梵天像は瀧山寺(岡崎市)の梵天立像。四面四臂像で、やはり帝釈天立像と一対になっています。この梵釈立像を作ったのは鎌倉時代の有名な仏師(仏像の彫り師)である運慶。愛知県にも重要な仏教美術があるんですね。

さて、来月のかわら版では執金剛神についてお伝えします。とても力強い二人一組の像です。乞うご期待。