【第38号】応病与薬の薬師如来

皆さんこんにちは。六月から如来をご紹介しております弘法さんかわら版。今月は薬師如来についてお伝えします。

応病与薬の薬師如来

薬師というのは「医者の長」という意味であり、薬師如来は別名医王如来と言います。如来は物を手に持たないのが一般的ですが、薬師如来は例外。左手に薬壺(やっこ)を持っています。

薬壺は応病与薬という仏教の教えを象徴しています。医者が病に苦しむ人に薬を与えるように、仏は悩める衆生(しゅじょう)に教えを説いて救います。しかも、病気の種類にあった薬を処方するように、ひとり一人の個性にあった教えを授けます。これを対機説法あるいは随機説法と言います。

十二の大願と偏袒右肩

薬師如来像のもう一つの特徴は衲衣(のうえ=衣服)から右肩を出している姿です。偏袒右肩(へんだんうけん)と言い、薬師如来の十二の大願と関係があります。

薬師如来が修業中の身(つまり菩薩)だった頃、修行が成就して如来になることができたら、十二の人助けを行う誓いを立てました。飢えた人に食べ物を与える、着る物のない人に衣服を与えるといった現世利益を中心とした人助けであり、偏袒右肩の姿には「いつでもご用を伺います」という意味があるそうです。

とりわけ、病気を治す、寿命をのばすことは万人の願いであり、その象徴として薬壺をもつ薬師如来像が盛んに作られて信仰されました。

浄瑠璃世界の仏

東西南北の仏国土(ぶっこくど)には四方仏(しほうぶつ)がいらっしゃいます。西は阿弥陀如来、南は釈迦如来、北は弥勒仏、そして東は薬師如来です。東は浄瑠璃(じょうるり)世界と言われることから、薬師如来の正式な名前も薬師瑠璃光如来と言います。

薬師如来には脇侍(わきじ)として日光菩薩、月光菩薩、守護神として十二神将が仕え、薬師如来を信仰する人々を昼夜を分かたず救ってくれます。

十八番札所恩山寺

薬師如来は四国霊場の中で最も多いご本尊。二十一箇所もあります。そのひとつ、第十八番札所で修行中だった弘法大師のもとを、ある時、お母様が訪ねてきました。しかし、お寺は女人禁制。そこで大師は女人解禁の秘法を修めてお母様を寺にお招きしました。以来、この札所は母養山恩山寺(ぼようざんおんざんじ)と呼ばれるようになり、このお寺で出家した大師のお母様の髪の毛が納められています。

覚王山の恩山寺

日本最小の四国霊場の「写し」、ここ覚王山八十八箇所霊場の恩山寺は多くの札所がひしめくB地区にあり、高野山安養院(あんにょういん)から取り寄せた弘法大師御尊像が祀られています。安養院は高野山の宿坊で、古くは戦国武将の毛利元就一族が菩提所としていました。

過日、札所のお接待さんにお話を伺ったところ、「親やご先祖を大切にすることが一番」とのお言葉を頂戴し、恩山寺の縁起話に通じる教えを賜りました。合掌。

覚王山の恩山寺は、日泰寺本堂東側の階段を下りて左に入ったところにあります。本堂参拝の帰りに立ち寄られてはいかがでしょうか。

如来編の最後は阿弥陀如来

さて、来月は如来編の最終回。阿弥陀如来をご紹介します。人々を極楽浄土に導くありがたい如来です。十月号からは明王編です。乞うご期待。