政治経済レポート:OKマガジン(Vol.40)2003.1.4

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです

平成15年になりました。皆様、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます(喪中のため、新年の挨拶は控えさせて頂きます)。1月4日午後1時、今年初出勤の議員会館705号室からOKマガジン40号をお送りしています。昨日は、地元で高校同期の同窓会(卒業25周年)に出席し、たいへん楽しい時間を過ごさせて頂きました。皆、それぞれの分野、それぞれの立場で奮闘しています。僕たちの世代が頑張らなくては日本はよくなりません。皆さん、ともに頑張りましょう!!もちろん、先輩・後輩世代の皆さんのご奮闘も期待申し上げます。

1.法人事業税の課税権拡大は税源移譲か:「公約」と「口約」と「膏薬」

「新年早々、漢字が多くて堅い話題は疲れるな」と思われた読者の皆さん、申し訳ありません。今年もこの路線にお付き合い頂ければ幸いです。

今日の日経新聞1面に、「法人事業税、地方の課税権を拡大」「外形課税導入機に、標準税率の1.2倍まで」という記事が出ていました。来年度(平成16年度)から、法人事業税(都道府県税)に外形標準課税を導入するのに伴い、地方自治体の税率に対する裁量権と課税権を拡大するという話です。地方税収の安定化を企図する小泉首相の意向だそうです。

「地方への税源移譲」は小泉首相の重要な「公約」のひとつです。「なるほど、公約を実行するのか」と思われた皆さん、それは違います。税源移譲、財源移譲は「国の持っている税源、財源を地方に移譲する」ということです。地方自治体に標準税率の1.2倍までの課税権を認める(地方自治体の課税権を強化する)という話は、単なる増税に過ぎません。

「国ベースの予算(歳出)の無駄を廃し、不必要になった税源、財源を地方に移譲し、地方自体体の財政健全化と地方分権を促進する」というのが「小泉公約」の本来の内容です。地方自治体の課税権強化という政策は、単に、国民に不人気な増税を地方自治体に押し付けるということに過ぎません。これでは、地方自治体の首長の皆さんは、たまったものではありません。

「公約」の内容を言葉巧みに変質させるのは小泉首相お得意の「口約」です。しかし、辞書によれば、「口約」とは「口約束」であり、「約束」であることには変わりありません。「口約」であっても守ってもらわなくては困ります。さて、平成15年、小泉首相につける「膏薬」はあるでしょうか。

2.国の予算改革が先決:事業別シェア不変の平成15年度予算案

国の予算の無駄を廃するためには、従来の予算内容を見直し、限られた財源を優先順位の高い政策課題に有効に使わなくてはなりません。当たり前の話です。

しかし、毎年のように予算編成の時期になると、「事業別シェア不変」という新聞報道やTVニュースのタイトルが飛び交います。昨年の通常国会、臨時国会で、小泉首相は「改革を加速させる」と「口約」していましたので、「どんな平成15年度予算案が出てくるのだろうか」と期待していました。しかし、残念ながら、結果はまた「事業別シェア不変」です。

とくに重要なのは、公共投資予算の内容です。総額は8兆9017億円、前年度当初比マイナス3.7%です。減額予算の下で、雇用や民間需要拡大に寄与する事業への重点配分を「口約」として掲げましたが、結局、事業別シェアは前年度とほとんど変わりありませんでした。

公共投資総額に占める重点4分野(都市再生、環境、科学技術、少子高齢化対策)への配分は8割近くに及びます。一見、「口約」どおりに重点配分したように見えますが、都市近郊の河川工事などを「都市再生」事業に分類するなど、看板の掛け替えに過ぎないものがかなり見受けられます。そうしたトリックを含んだうえで、主な公共事業別シェアは以下のようになっています。

事業平成14年度(%)平成15年度案(%)
道路26.425.7
農業関連11.010.9
住宅都市環境17.318.5
治山・治水15.115.0
下水道17.317.0
港湾・空港・鉄道7.07.1
その他5.95.8

昨年12月20日、予算案について記者団から質問された小泉首相は、「放漫財政との批判はあっても、緊縮財政との批判は誤りだ」と発言しています。驚くべきことです。何と、小泉さんは事実を正確に認識しているのです。さすがですね。そのとおり!!平成15年度予算は、引き続き「内容的に」放漫財政予算なのです(マスコミの皆さんには、こうした発言こそ大きく取り扱い、その後のフォローもしてほしいものです)。

予算の実態が上記のような数字の額面どおりではないことが、日本の政治経済の重要な問題点のひとつです。予算制度の改革、予算内容の改革、これが構造改革の本質を示すひとつの側面です。分かってますか、小泉さん!!20日から始まる通常国会では、国民の皆さんを代表して、実態についてシッカリと検証させて頂きます。

3.雇用対策の適否:再就職支援は「企業」ではなく「個人」へ

予算内容のチェックという観点から、先の臨時国会で成立した平成14年度補正予算に盛り込まれた雇用対策の適否が気になります。

その対策の正式名称は「雇用再生集中支援事業」と言います。予算総額は800億円です。今後の不良債権処理の影響を受けて離職するサラリーマンの再就職を支援するために、当該離職者を採用した「企業」に助成金(1人当たり60万円)を支給すること、あるいはリストラを迫られた「企業」に対し社員の再就職支援活動のための助成金(1人当たり上限30万円)を支給すること、などがその骨子です。

より手厚い雇用対策が必要であることは、僕も認めます。しかし、問題は「対策の中身=制度の仕組み」です。「雇用再生集中支援事業」は、離職者(失業者)を送り出す「企業」と受け入れる「企業」の双方を支援して、再就職を促進するというものです。一見、合理的なように思えますが、いくつかの問題点があります。

第1に、支援対象の「離職者の送り出し元企業」が「雇用調整企業」と認定された「企業」に限られていることです。そもそも、制度適用の検討対象となる「企業」は、主要12行(都銀、信託銀行)がメインバンクとなっている建設、流通等の特定業種、特定企業に限定されています。それらの中から、さらに「認定企業」を選ぶ仕組みになっています。

しかし、不良債権処理に伴う影響は、金融機関から直接的に債権放棄等を受ける「大手企業」ばかりではなく、その「下請け企業」や「取引先企業」にも及びます。むしろ、「大手企業」から取引条件の変更等(手形サイトの短期化、掛債権の現金化等)を要求される「中堅・中小企業」により大きな影響が出ると思います。そうした先に対しては、今回の制度は十分な目配りができていません。

第2に、助成を受けた「大手企業」のその後の動きをフォローできないことです。例えば、助成金は正しく使われるのでしょうか。あるいは、離職者を受け入れた企業が、その後、当該離職者を解雇した場合はどうなるのでしょうか。厚生労働省は「そうした点はフォローします」と言うかもしれません。しかし、そのために、またさらに行政コストがかかってしまいます。

このように考えると、雇用対策は「企業」ではなく「個人」を対象に行うべきではないでしょうか。具体的には、離職者間で不公平の生じない雇用保険の給付期間延長を基本とすべきです。

雇用対策資金として過去に地方自治体等に配分されたものも有効活用する必要があります。例えば、平成13年度補正予算に盛り込まれた「緊急地域雇用特別助成金」は3500億円もありましたが、まだかなり余っているようです(メルマガ14号、2001年11月18日付け参照)。使い道に困った自治体が、随分無駄なことを行っているという話も耳にします。こうした資金や今回の財源を有効活用して離職者「個人」を支援する方が合理的な雇用対策だと思います。昨年末には雇用保険料率の再引き上げが議論になっていましたが、これらの資金を有効活用すれば、そもそも料率引き上げは必要ありません。

雇用対策は「企業」ではなく「個人」を対象にすべきではないか、雇用対策資金が無駄遣いされていないか、この2点を中心に、20日からの国会では雇用対策についてもシッカリと議論させて頂きます。

4.労働生産性と財政支出の有効性:「デフレ下の経済成長」の2つのポイント

日本で雇用対策の議論が行われている一方で、米国では労働生産性の伸びが顕著になっています。昨年12月4日に米国労働省が発表した第3四半期の労働生産性の伸びは、前年比プラス5.6%増と1973年第3四半期以来、約30年振りの高い伸び率となりました。もう少し過去から遡って見ても、一昨年第2四半期から上昇に転じ、あの9月11日を含む第3四半期以降、急速に伸びを高めています。

とくに根拠のある話ではありませんが、個人的には、労働生産性の急進は911テロが影響していると思います。ITバブル崩壊や911テロを通して、米国経済(=米国の勤労者)が「勤勉さ」を取り戻したような気がします。「危機」が「勤勉さ」を呼び戻したと言えます。一方、日本は、ここ数年の経済危機や最近の有事問題(イラク問題や北朝鮮問題等)が、むしろ「無力感」や「脱力感」に繋がっているような気がします。「危機」が「無力感」を呼び込んでいると言えます。もちろん政治の責任(経済政策の無策や政治腐敗等)が大きく影響していると思いますが、今こそ国民全員が、良い意味での「緊張感」と「やる気」を醸成することが必要です。

ちょっと脱線しましたが、労働生産性の動向は「デフレ下の経済成長」を達成するための重要なポイントのひとつです。「デフレ下の経済成長」を実現することが日本の課題であることは、前号、前々号のメルマガでもお伝えしました。そのための民間部門の責務は、「労働生産性の向上」です。

一方、公的部門の責務は、「国民の税金=民間部門の資金」を必要以上に吸収したり、無駄に使わないことです。これも過去のメルマガで何度もお伝えしています。公的部門の責務は「財政支出の有効性」を高めることです。

民間部門と公的部門が「労働生産性」と「財政支出の有効性」を各々高めること、このことに国民一丸となって取り組まなくてはなりません。それができない経営者や政治家・官僚に、日本の将来を委ねる訳にはいきません。

こうした点を肝に銘じ、今年も職務に精励致します。どうぞよろしくお願い致します。

(了)