政治経済レポート:OKマガジン(Vol.31)2002.8.22

元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。

猛暑も一服した感じですね。来週はASEP(アジア欧州議員会議)に出席するため、フィリピンに出張してきます。9月に入ると、今度はワシントンに出張です。閉会中もなかなか時間に余裕のできない毎日です。

1.日本外交の構造問題(1)メンタリティ

冒頭でご紹介しましたASEPというのは、ASEM(アジア欧州会議)の国会議員バージョンです。そもそも、このASEMというのは、APEC(アジア太平洋経済協力、1989年スタート)に対抗して1996年に始まったものです。

どうしてAPECとASEMが「対抗」する必要があるのでしょうか。APECはアジアと米国が中心になって経済関係や外交関係を構築していく組織です。要は、米国がアジアを取り込むためのものと考えていいでしょう。APECの動きを眺めて、欧州諸国が「これではまずい」と思ってアジア諸国に設立を呼び掛けたのがASEMという訳です。もう、お分かり頂けたと思いますが、APECとASEMを舞台に、米国と欧州がアジアの囲い込み競争を行っているという構図です。

米国と欧州の動機はともかく、アジアが欧米諸国と緊密な関係を築き、均衡のとれた経済発展、国際平和や地球環境の保全に一丸となって取り組んでいくことはいいことだと思います。

先日(20日)、及び今日(22日)、外務省の皆さんに事前レクチャーをして頂きました。たいへん勉強になりました。その際、担当課長から「日本はアジアの中で利害対立しがちです。なぜなら、日本は先進国の立場ですから・・・」という説明がありました。この何気ない発言に日本外交の構造問題のひとつが現れています。

日本、いや日本人、いやいや、外務省の皆さんは、「日本は先進国の一員であって、質的にアジア諸国とはちょっと違う」という潜在意識があるのではないでしょうか。アジアの一国でありながら、気持ちは欧米先進国という日本外交のメンタリティが、日本をヌエのような存在にしていると思います。そういうメンタリティでは、ASEMでもAPECでも、日本は欧米でもないし、アジアでもないという存在にならざるを得ません。まさしくヌエとしか言いようがありません。

別にアジア諸国の主張に一方的に肩入れしろというのではありません。厳然たる事実として、私たちはアジアに位置し、アジア人の顔をしており、決して欧米人ではないということを認識することの必要性を申し上げています。「質的にアジア諸国とはちょっと違う」という潜在意識は選民思想につながります。そういう気持ちが心のどこかにあると、日本国外務省の人達は、きっとアジア諸国の外交関係者から心の底では嫌われていると思います。

2.日本外交の構造問題(2)リーダーシップ

外務省担当者の説明の中で、「日本はアジアの中でリーダーシップを発揮していかなくてはならない」という発言もありました。そのとおりだと思います。但し、「日本は質的にレベルが上だから」という意識でのリーダーシップではいけませんね。

ここでもう少しASEM、ASEPのお話をさせて頂きます。欧州諸国は、ご承知のとおり既にEU(欧州連合)として統合され、欧州議会のほかに、欧州理事会(閣僚会議)、欧州委員会(行政機構)などが整備されています。欧州中央銀行も既に発足し、通貨統合まで行われました。日本で言えば、日銀がなくなって、「円」という通貨単位が消滅したということです。スゴイことですね。

このため、ASEMやASEPに臨む欧州側のスタンスは既に明確に意思統一が図られており、アジア側との会議に臨む体制は万全と言っていいでしょう。

一方、アジア側の体制はどうでしょうか。もちろん、EUのような地域統合が行われている訳でもありませんし、アジア諸国全体の協議機関が存在する訳でもありません。要は、まだバラバラの状態です。こうした中で、外務省の皆さんがおっしゃる「日本のリーダーシップ」とはどのようなものでしょうか。

今回のASEP開催に向けて、日本が率先して準備会合を主催し、アジア諸国間の調整役を買ってでること、面倒くさくて汗をかく仕事を厭わずに行うこと、そして、会議成功の功績は開催国(今回はフィリピン)に譲り、アジア諸国の縁の下の力持ちとなっていくこと、こういう行動こそが「日本のリーダーシップ」というものではないでしょうか。

驚くべきことに、今回の会議に向けて、アジア諸国の準備会合は一切行われていないそうです。外務省の皆さんは全く何も事前の根回しや縁の下の力持ち的な活動は行っていないそうです。これでどうしてリーダーシップを発揮できるというのでしょうか。日本がアジアの中の先進国として尊敬されるのでしょうか。

日本外交のこうした構造問題の責任を、外務省の皆さんだけに負わせるつもりはありません。政治家である僕達も当然共同責任を負います。しかし、外務省はそういうことをするのが「仕事」ではないでしょうか。その対価として給料をもらっているのではないでしょうか。もし「仕事」をシッカリとすることもなく、特権意識と在外公館での優雅な生活だけが行動インセンティブになっているようならば、残念ながら外務省は解体が必要です。

3.日本外交の構造問題(3)縄張り意識

ところで、今回のASEPは冒頭でお示ししましたように、「アジア欧州議員会議」です。したがって、あくまで議会の仕事です。つまり、衆参両院の事務局の仕事です。

日本は、ご承知のとおり三権分立の下で運営されています。三権とは、立法、司法、行政です。両院事務局は立法府で、外務省は行政府です。外務省の皆さんからすると、「今回の会議の準備は立法府の仕事だ。自分たちの担当ではない」という意識があるのかもしれません。極めて合理的な意識です。さすがに頭がイイ。

しかし、その頭のヨサ、合理性が、霞ヶ関の縄張り意識につながっているのです。決して頭がイイ訳ではなくて、頭が硬いと言うべきでしょう。外務省は日本外交全般の舞台裏を支えることが「仕事」です。ASEMやASEPの準備をすることは、明らかに外務省の仕事だと考えます。

中には、「いや、そうは言っても三権分立は必要だ。立法府の外交に口出しはできない」という頭のイイ、いや頭の硬い外務官僚もいるかもしれません。百歩譲ってそれを認めたとしましょう。そうであるならば、議会の事務局幹部に外務省の出向者を配置する必要はありません。まるで、議会までも行政府へのポスト供給組織になっています。これが官僚国家、官僚支配と言われる所以(ゆえん)です。

(参考)辞書によると、「硬い:外力に弱い、こわばっている」、「固い:強く、しっかりしていて、変形しにくい」、「堅い:中身が詰まっている、信用できる」という違いがあるそうです。同じ「カタイ」でも「堅い」になってほしいですね。

4.日本外交の構造問題(4)役割分担

僕が上記3.のように申し上げるのは、国内政治には与野党対立はあっても、外交には与野党対立があってはならないと思うからです。

もちろん、外交政策に関しても与野党の意見の違いはあると思います。しかし、それを国内で調整したうえで、国際会議や外交交渉の場に出ていく時には、日本としての統一された意思、戦略がなくてはならないと考えます。

外務省の役割は、そうした段階に至るまでの事前調整や情報収集を行うことです。外交交渉を山登りに喩えれば、外務省の皆さんは8合目まで登ることをサポートするシェルパ(山岳案内人)です。8合目までパーティ(登山チーム=政治家や外交交渉責任者)を無事に登らせたうえで、その後の登頂ルートの選択肢や問題・障害、チームとしての要検討事項を提示し、あとは8合目でキャンプを張ってパーティのアタック(登頂=外交交渉)をサポートすることです。

ところが、シェルパの役割を忘れ、十分なサポートをしなかったり、サポートしようにも十分なスキル(専門知識)がないという状態では、「仕事」をしているとは到底言えません。最近の登山(外交交渉)は高度な専門知識(経済、科学技術、文化、安保等々の分野の専門知識)を要するだけに、他のシェルパ(外務省以外の官庁や民間組織等)に助けてもらうことも止むを得ないと思います。しかし、本来のシェルパ(外務省)が縄張り意識に固執し、難しい仕事や汗をかく仕事は他のシェルパに丸投げするとともに、宴会、儀式等のロジ周りだけに終始し、しかも間違った選民思想を抱くようならば、そんなシェルパに支えられるパーティは遭難することは必至です。

パーティの成否の結果が、パーティのオーナー(スポンサー)である国民全員に影響することは、言うまでもありません。

おまけに、鈴木宗男議員の事件で明らかになったように、一部のシェルパがまるで自分がアタッカーかオーナーになったかのように錯覚しているようです(断定はしませんが、そういうシェルパがいるみたいですね)。

適切な役割分担と責任ある仕事振り。こんな当たり前のことが、今、日本外交に求められている最も重要な構造改革です。

5.外務省職員行動規範

外務省改革の一環として、標題のような7箇条の規範が決まったそうです。その第1条は「国民全体の奉仕者という原点の自覚と責任をもって行動する」となっています。外務省の皆さん、肝に銘じてください。

だいぶ辛口のことばかり書いたような気がしますが、日本外交の体たらくの責任を外務省だけに押しつけるつもりはありません。政治家も含めて、多くの関係者の反省が必要です。僕自身、議員生活2年目は外交問題にも積極的に取り組んでいくつもりです。まずは今回のASEPの会議で、現地のシェルパの皆さんにもサポートして頂きながら、しっかりと仕事をしたいと思います。どうぞ、よろしくお願い致します。

(了)