政治経済レポート:OKマガジン(Vol.91)2005.2.25

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


ライブドアによるニッポン放送株取得問題が盛り上がっています。週末にもいろいろな動きがあるかもしれませんが、とりあえず現時点(25日夕方)の状況に基づいて考えてみます。論点は、「時間外取引」と「外資の放送参入」の2点。ふたつの論点は峻別して考えることが必要です。

1.法の隙間

「時間外取引による株取得は問題」というのが、ライブドア批判をしている人たちの主張です。観念的な是非は別にして、「時間外取引」が違法でないことは明らかです。現在の法律には抵触していません。

ある企業の株を短期間に大量に取得することを計画する先は、公開買い付け制度(TOB)を利用することが求められていますが、その一方、「時間外取引」は禁止されていません。ライブドアは、この法の隙間を活用したのです。

今回の一件は日本の特質を見事にクローズアップしました。日本の特質は、行政の裁量権が極めて大きいことです。そのことが、行政指導や天下り問題にもつながっています。

それはなぜでしょうか。法律が全ての事象に関して隙間なく網の目をかけることは困難です。必ず、「法の隙間」ができます。その際、「法律で禁止されていないことは自由にやっていい」というのが欧米社会、とくに米国です。一方、「法律にやっていいと書いてないことは行政のお伺いを立てなければならない」というのが日本社会。このことが、行政の裁量権の大きさと優越性を生み出しました。

米国は禁止規定、つまり、基本的に国民の自由を認めつつ、公共の利益など、合理的な理由に基づいて権利を制限します。一方、日本は許可規定、つまり、国民の行動は箸の上げ下ろしまでお上(オカミ)のご意向に従うという構造です。

こうした日本の特質は官主導の経済成長につながり、一時期は成功したと言えます。しかし、その後は変化への対応の遅さにつながり、低迷の原因になっています。さて、今回の一件、どのように考えるべきでしょうか。

ところで、素朴な疑問ですが、「時間外取引」が「法の隙間」であるとすれば、今までそれを放置していた行政の責任、すなわち不作為責任はどうなるのでしょうか。また、少しマニアックな疑問ですが、時間をかけてゆっくり株を取得する場合はTOBの対象になりません。買収という意味では同じ行為ですが、「短期間」と「長期間」をどのような考え方で線引きするのでしょうか。けっこう難しい問題です。

2.ハンムラビ法典

「目には目を、歯には歯を」という言葉があります。ハンムラビ法典の有名な一節です。23日、ニッポン放送がフジテレビを相手先として新株予約権の大量発行を決めたことで、「目には目を、歯には歯を」の状態になりました。これで、ニッポン放送とフジテレビは、「法の隙間」問題で、ライブドアを批判することはできません。

新株予約権は実に4720万株、現在の資本金を2.4倍にする大増資です。一般的には、発行目的は通常の企業活動のための資金調達であることが求められます。しかし、今回の大増資はライブドアの持ち株比率を下げることが目的と報道されています。既存の株主の権利を侵害し、商法違反だという人もいます。言わば、「法の隙間」を突いた行動であり、「時間外取引」と相打ちです。

ライブドアは新株予約権発行の差し止めを求める仮処分を裁判所に申請します。さて、どうなるでしょうか。

こういう展開になると、去年のUFJと三菱東京の統合の一件が思い出されます。UFJが住友信託との統合の約束を反故(ほご)にしたことから、住友信託が東京地裁にUFJと三菱東京の統合の差し止めを請求して提訴しました。ご興味がある方は、過去のメルマガ(Vol.77、2004.7.25)をご参照ください。

東京地裁は住友信託に軍配をあげましたが、UFJが控訴、高裁はUFJに軍配をあげました。さて、今回はどうなるでしょうか。僕の予測では、東京地裁がライブドアの請求を認め、それを不服としたニッポン放送が控訴。結局、東京高裁はニッポン放送の主張を認めるという昨年と似たような展開になると思います。

その間に、当然、政府の非公式な介入が行われることが想定されます。そうなれば、日本社会の透明性、公正性に対する信頼は低下を余儀なくされるでしょう。司法には公正中立な判断を求めたいものです。

ところで、「目には目を、歯には歯を」の本来の意味は、「やられた以上のことをやってはいけない」という禁止規定です。「やっていい」という許可規定ではありません。ニッポン放送の新株予約権大量発行による「大増資」は、禁止規定に抵触していないでしょうか。「時間外取引」と「大増資」、どちらがより非常識でしょうか。

3.目的と手段

もうひとつの論点は、「外資の放送参入」です。もちろん、ライブドア自体は日本企業です。ところが、ライブドアには外資(今回はリーマン)が資金提供しています。その結果、リーマンはライブドアの株を大量に取得し得る立場にあることから、間接的な外資支配だと言われているのです。

さて、このメルマガでいつもお伝えしていますように、どんな政策にも「目的」があります。そして、「目的」に適した「手段」が選択されなければなりません。

放送への外資参入規制の「目的」は何でしょうか。基本的には、放送の内容が国益に反することを避けるということです。それ自体は理解できます。

しかし、それではコマーシャルのスポンサーはどうなるのでしょうか。放送局はスポンサーの意向を気にして番組を制作します。実際にスポンサーの意向に沿って番組の内容を変更することは日常茶飯事のようです。では、スポンサーからも外資を締め出すのでしょうか。コマーシャルが相当減りそうですね。

放送局に資金提供している銀行はどうでしょうか。銀行には外資参入規制はありません。それもそのはず。長銀を二束三文で外資に売り渡し、ボロ儲けをさせたのはほかならぬ日本政府自身です。そのうえ、その過程で巨額の公的資金(=国民の税金)を外資に渡しています。

銀行から融資を受けている企業は、銀行の意向を無視できないものです。では、どうするのでしょうか。今後、放送局は外資が出資している銀行からは融資を受けないということでしょうか。出資だけではありません。外資と業務提携している場合も同じです。放送局が取引できる銀行は意外に少ないかもしれません。

間接的な影響はどう考えるのでしょうか。放送局の「既存の株主」の株主(ややこしくて恐縮です)に外資は入っていないのでしょうか。チェックが必要です。「既存の株主の株主」の株主には外資は入っていないのでしょうか。間接的な出資を追っていくと、際限がありません。

どうやら、外資参入規制は本質的な「手段」ではないようです。問題は番組の内容ですから、内容をチェックするのが王道でしょう。

しかし、昨今のNHK問題を思い起こすと、番組内容のチェックには大きなリスクも伴います。外資の影響排除という本来の「目的」とは別の意図で、堂々と報道の自由や表現の自由が侵害されそうです。

メディアには不偏不党の姿勢が要求されます。外資にも、政府にも、もちろん国内の特定の株主やスポンサー、さらには取引銀行にも影響されない独立性、公正中立性を期待したいものです。

4.不可解な対応基準

ところで、今回、ライブドアが「時間外取引」でニッポン放送株を取得した直後に、所管大臣をはじめ、多くの政治家が「時間外取引」の見直しの必要性に言及しました。金融庁は、今国会に急遽、改正法案を上程するそうです。見事なまでに素早い対応、感心します。

しかし、なぜ今回だけ素早いのでしょうか。ほかにも、社会的に問題になっていることや国会で指摘されている課題がたくさんあります。金融庁の対応は往々にして遅れがちですが、今回は実に素早い、別人のようです。

例えば、過去のメルマガ(Vol.54、2003.8.7)で指摘したインターネット利用料金の詐欺請求問題。金融庁の腰は実に重かったとうのが率直な印象です。

この問題の延長線上にはオレオレ詐欺があります。このほか、昨今話題の偽造カード問題。金融庁に限らず、政府はこうした問題には事態が深刻になるまでなかなか動きません。対照的ですね。

すぐ対応する問題と、なかなか対応しない問題。こうした対応の違いは、どういう基準に基づくものでしょうか。解せません。国会審議の中で確かめたいと思います。

(了)


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