政治経済レポート:OKマガジン(Vol.89)2005.1.25

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


通常国会が始まりました。郵政改革ばかりがクローズアップされていますが、ほかにも重要な争点がたくさんあります。マスコミの皆さんにはバランスのとれた報道を期待したいものです。

1.株式交換

重要なテーマのひとつが、会社法制の現代化です。カタカナで書かれた古い関係諸法が、現代化(ひらがな化)されると同時に大幅改正されます。全ての企業に関係がある話ですから、是非関心を払って頂きたいと思います。

たとえば、外国企業による日本企業のM&A(吸収・合併)に関連して、政府案では、株式交換による買収という手法を認めることになっています。株式交換とは、買収される側の株式と、買収する側の株式を交換することで、買収を成立させることを意味します。

米国のA社が日本のB社を買収するケースを想像してください。買収資金(B社の時価総額)を2000億円とすると、現在の会社法制の下では、A社は実際に2000億円を用意する必要があります。

一方、株式交換が認められると、A社が2000億円分の新株発行を行い、その株式をB社に渡して、B社の全株式と交換することができます。つまり、A社は実際に資金調達を行わなくても、新株発行だけで時価2000億円のB社を買収できるのです。新株発行は取締役会決議だけで決定できますので、容易なことです。

米国企業はこの方法で多くの海外企業を買収しています。過去最大のM&Aであった米国ボーダフォン社によるマンネスマン社(ドイツ)の買収資金20兆円も、全て新株発行によって調達されました。それが、日本でも認められることになります

2.三角合併

また、株式交換による買収においては、三角合併方式が採用されています。

つまり、外国企業による日本企業の買収に際し、日本に設立した法人と合併させることを意味します。米国A社の日本法人C社と日本企業のB社を合併させ、その際の買収資金としてB社にA社の株式を渡します。A、B、Cの3社が関係するので、三角合併方式と呼ばれています。

ここまで読んで、外国企業、とりわけ米国企業による日本企業の買収、とくに敵対的買収が進むとお感じの読者の皆さんが多いことと思います。

そう言えば、昨日(24日)の日経新聞夕刊の1面トップには、「敵対買収、世界で急増」という見出しが躍っていました。今後の展開が気になりますね。

冷静に考えると、敵対的な三角合併ということは基本的にはあり得ません。三角合併も合併である以上、B社の取締役会が合併調印書にサインしない限りは合併が成立しないからです。とは言え、株式交換による三角合併が認められれば、外国企業による日本企業の買収が進む可能性は高いと言えます。

現在、日本企業がドンドン切り売りされています。産業再生機構に持ち込まれた企業に外国企業が触手を伸ばしています。地方企業を対象とした再生ファンドにも、外国資本の出資が目立ってきました。

本来、日本は貯蓄超過の国です。投資資金は潤沢なはずです。しかし、こうした資金が企業投資に向かわず、資金不足(貯蓄不足=純債務国)であるはずの米国資本が日本企業を買収する構造には、少々違和感を覚えます。

原因はいろいろあると思いますが、日本企業の株主軽視の経営姿勢が、日本の投資家の投資意欲を削いでいることもその一因でしょう。

3.三角関係

たとえば、昨年のメガバンクの行動には驚きました。

UFJと東京三菱の統合に際し、UFJが東京三菱に発行する優先株には経営事項に関する拒否権条項がつくことになりました。合併再編、定款変更、取締役選任など、本来であればUFJの取締役会が決めることに対して、東京三菱が「ノー」と言えることを意味します。

UFJの株主総会の機能が事実上否定されているに等しく、UFJの株主が無視されています。これでは、UFJの株主はたまったものではありません。

UFJと東京三菱の統合に横槍を入れていた三井住友も不思議なことを行いました。「逆さ合併」です。昨年3月、三井住友は100%子会社(わかしお銀行)と合併しましたが、その際、三井住友が消滅会社、子会社が存続会社となりました。合併後の名称、役員、本店など、機能は全て三井住友が継承しているにもかかわらず、不思議なことです。

何のためにそんなことをしたのでしょうか。ちょっと難しい話ですが、そうすることで、三井住友が抱えていた含み損を処理するためです。株主や投資家からは非常に分かりにくい話です。旧三井住友の株主は存続会社の株主になりましたので、実質的な損失は生じていません。とは言え、株主に何の相談もないまま、こうした対応が決まりました。これも株主軽視と言えるでしょう。損失が生じなければ何をしても良いというものではありません。

そう言えば、ちょっと前の話になりますが、大和(現りそな)も、持株会社を作ることで株主代表訴訟の途を閉ざすという離れ業をやってみせました。資本主義経済、自由主義経済の象徴であるべきメガバンクがこうした行動をとり、それを監督当局が黙認するところに、日本社会の体質が表れています。

いずれにしても、こうした離れ業が可能なのは、関係法制に歪みや隙間があるからです。具体的には、商法を中心とする会社法制、税法、証券取引法の3つの法制です。

会社法制は「配当可能利益の把握」、税法は「課税所得の把握」、証取法は「投資家への情報開示」が目的です。各々が微妙に異なる目的を掲げているところに、解釈や運用の歪みや隙間を生じさせています。言わば3つの法制の三角関係です。

今回の会社法制の現代化では、本来は、投資家や株主軽視に繋がるような歪みや隙間を是正することが期待されます。

しかし、実際には、拒否権条項や逆さ合併、株主代表訴訟権の喪失といった現象を改善する内容にはなっていません。これでは、日本の投資家の投資意欲は高まりません。その一方で、株式交換、三角合併など、外国投資家の投資意欲をそそる仕組みは積極的に導入されています。気のせいでしょうか。

今国会、会社法制の現代化からも目が離せません。

(了)


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