参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
臨時国会が始まりました。会期は12月3日までです。今国会では、独占禁止法改正案(談合などの課徴金引き上げ)、刑法・刑事訴訟法改正案(有期刑の刑罰強化)などが審議される見込みです。このほか、橋本元首相の1億円不正受領問題に端を発して、政治資金規正法改正案が審議されるかどうかも大きなポイントです。このメルマガで繰り返しお伝えしています「目的」と「手段」、「原因」と「結果」の2つの関係を意識しつつ、今国会でも有意義な議論を行えるように努めたいと思います。
1.産業再生機構の「目的」
昨年5月に発足した産業再生機構がダイエー問題を巡って迷走しています。このメルマガでも、産業再生機構についてはVol.55(2003.8.27)で取り上げました(ご興味のある方は、ホームページでバックナンバーをご覧ください)。
このメルマガを読んで頂いている頃には、ダイエー問題も新たな展開になっていると思いますが、ここで論点を整理させて頂きます。
さて、産業再生機構の「目的」とは何だったでしょうか。産業再生機構法の第1条には「事業の再生を支援すること」と明記されています。
昨年の通常国会での審議の際には、「公的組織である産業再生機構が再生事業に恣意的または過度に介入すると、市場経済を歪めることになる」との指摘が数多く聞かれました。そこで、政府(当時の担当大臣は現在の谷垣財務大臣)は、「産業再生機構が関与するのは、当該企業から要請があった場合が原則である。将来的に公的資金=国民の税負担になる可能性があることから、積極的、能動的な介入はしない」との説明を繰り返していました。
こうした国会での質疑を受け、法案の採決時には附帯決議が付されました。その第1項には、次のように明記されています。曰く「事業の再生については、市場における企業の自主的な取組みを尊重することを原則とし、産業再生機構が事業の再生支援の決定を行うに当たっては、過度の介入により安易な企業の延命を図ることのないよう、公正かつ中立的な観点から判断を行うものとすること」です。
さて、今回のダイエー問題、読者の皆さんは産業再生機構の行動をどのように評価されるのでしょうか。
2.産業再生機構の行動に「???」
「???」は文字バケではありません。「よくわからない。理解不能」ということです。
ダイエーは過去に多額の債務免除や金融支援を受けています。つまり借金の棒引きと事実上の公的資金の投入です。「事実上の」というのは、金融支援を行った金融機関に公的資金が投入されていたことから、「間接的な」公的資金の投入と同じという意味です。
さて、それでも業績が好転しないダイエー。そこで、本格的支援の第2弾を巡る動きが今回の「騒動」です。こうなることを予想して、第1弾の際に、その時点での法的整理や分社化を主張した人は少なくありません。しかし、今さら過去をとやかく言うつもりはありません。現在の状況にどのように対処するのがベストかを考えましょう。
「騒動」と言っても、事情をよくご存じない読者の方もいらっしゃると思います。簡単に解説させて頂きます。要は、「民」対「官+メガバンク」の争いになっているのです。
ダイエーの支援に関しては、ドイツ証券、丸紅、サーベラス、ゴールドマンサックス、ウォルマート、リップルウッドという日米の民間企業が名乗りを上げています。これが「民」の企業群です。
一方、産業再生機構とメガバンクは、「12日(つまり今日)までに産業再生機構に支援を要請しないと、メガバンクからの融資を打ち切り、法的整理に追い込む」と主張しているのです。これが「官+メガバンク」グループの主張です。何だか物騒な話ですね。
ここでよくお考えください。産業再生機構は、上でご紹介した法の「目的」と附帯決議の内容に合致しているでしょうか。「事業の再生を支援すること」が「目的」であって、「自分のところに持ち込め」と強制していいとはどこにも書いてありません。
附帯決議には、「過度の介入により安易な企業の延命を図ることのないよう、公正かつ中立的な観点から判断を行う」と明記されていますが、産業再生機構の行動はどうもこの内容に逆行しているようです。
産業再生機構の行動に「???」と思わざるを得ないのは僕だけでしょうか。何だか「民」の邪魔をしているように感じます。
3.産業再生機構に求められる2つの「根拠」
産業再生機構の行動に関して、今日から始まった国会で以下の2点について確認をしたいと思います。
第1点は、その行動と主張の「根拠」です。ここまで読んで頂いた読者の皆さんには、もう解説は必要ないと思います。
第2点は、将来の公的負担=国民の税負担に関する「根拠」です。産業再生機構は、「民」グループが自主的に再生をすると言っているのに反対しているのです。したがって、産業再生機構の主張するようにすれば、「民」に任せた場合よりも、将来的な国民の負担が必ず少なくなるという「根拠」を示す必要があります。
「将来のことまで確実には申し上げられません」という政府答弁が聞こえてきそうですが、そうであるなら、なぜこの段階で「民」の邪魔をするのでしょうか。
あるいは、「産業再生機構は株式会社ですから、自主的な判断を行っているに過ぎず、政府が答弁する立場にはありません」という答弁も予想されます。まったく馬鹿にした答弁です。政府は産業再生機構への出資者です。また、「株式会社」というのは形式にすぎません。このように、日本という国は、「民」の仮面を被った「官」が多すぎることに問題があるのです。都合のいいように「民」と「官」を使い分けるカメレオンのような組織です。おっと、カメレオンに失礼でしょうか。
4.産業再生機構の出る「幕」
具体的な争点として、産業再生機構の資産査定(デューデリジェンス)にダイエーが協力するかどうか、「民」の資産査定と差があるかどうか、といった点が注目されています。
産業再生機構の資産査定は、メガバンクからダイエー案件を持ち込む際の事前作業として行われているようですが、2つの点で問題があります。
ダイエー支援に名乗りを上げている「民」の企業群がある以上、誰が支援するかを関係者(ダイエー、メガバンク、「民」の企業群)の間で決着させることが先決です。メガバンクがそれを担うことになった場合に、メガバンクの方針として産業再生機構に資産査定を要請すべきです。現時点は、産業再生機構の出る「幕」ではありません。
さらに、産業再生機構に資産査定を要請するということは、メガバンクは自らの資産査定の結果に自信がもてないのでしょうか。あるいは、相当甘い資産査定をしているのでしょうか。はたまた、産業再生機構に高く買ってもらうために甘い資産査定を期待しているのでしょうか。
余談ですが、産業再生機構に事前作業として資産査定をしてもらうコミッション(作業料金)は誰の負担でしょうか。
繰り返しになりますが、このメルマガを読んで頂いている頃には、ダイエー問題も新たな展開になっていると思います。どのような展開になったとしても、今国会で確認しなければならない点がたくさんあるようです。
(了)