政治経済レポート:OKマガジン(Vol.76)2004.7.13

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


参議院選挙が終わりました。多くの皆様のおかげで、民主党は50議席+5議席(無所属は全員推薦、または支援議員です)という結果となりました。心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。ところで、参議院選挙が行われている中、プロ野球ファンにとっては気がかりなことが物議を醸していました。そう、1リーグ制騒動です。この騒動、単にプロ野球の話にとどまらず、日本経済が抱えている問題を象徴しているように思えてなりません。

1.オーナー側の主張:球団経営の目的

プロ野球に興味にない読者の方には、少し分かりにくい部分があるかもしれません。予めお詫び申し上げます。

パ・リーグの観客動員数が伸びず、各球団の経営が苦しいことは今に始まったことではありません。入場料収入が伸びない一方で、選手の年俸は年々高騰、各球団とも赤字経営を強いられています。

そこで、近鉄とオリックスが合併することになりました。さらにもう2球団が合併する予定であることも明らかにされました。プロ野球全体で10チームに減ってしまうことから、この際、1リーグ制にしてしまおうという構想です。

オーナー側としては、合併効果で経営が改善、1リーグ制で新しい対戦カードができて観客の興味も増し(観客も増え)、プロ野球全体としての収益性(経営状況)が改善するという目論見です。

もっともらしい主張です。合併効果の部分は、企業合併と同様のスケール・メリットを追求することであり、ある程度狙いどおりになると思います。しかし、観客が増えるというのは、本当にそうなるでしょうか。

プロ野球、及び各球団を企業に喩えると、オーナーは経営者、選手は社員、ファン(観客)は消費者(顧客)です。経営悪化の原因分析は十分に行われているのでしょうか。

新しい対戦カードができるということは、いわば新商品の発売です。新商品に対するマーケティングを十分に行う必要があります。

そもそも、プロ野球の球団を経営する目的は何でしょうか。黒字経営で利益をあげることでしょうか。スポンサー企業の広告効果を狙ったものではなかったのでしょうか。そうであれば、経営の目的は、単に黒字経営を追求するということではありません。

スポンサー企業自身の経営が苦しく、子会社(いわば広告部門)である球団経営の赤字に耐えられないということであれば、新たな引き取り手(球団の買い手)がいるならば、球団を譲渡することが顧客(ファン)本位の対応のような気がします。どうしても買い手が見つからないならば、合併や1リーグ制も合理的な対応だと思います。

企業経営と球団経営を全く同じように考えていいか否かは、プロ野球が単なるひとつの産業(あるいはスポンサー企業の単なる広告部門)と考えるか否かによって、違ってきます。

もっとも、今日では、企業や一般産業界も、それぞれが社会的役割を担っています。儲かれば何をしてもいい、経営改善のためなら何をしてもいい、という時代ではありません。

2.オーナー側の主張:「分をわきまえる」

選手会は「話し合いをしたい」、「1年間の検討期間がほしい」と主張しています。これに対して、かの有名オーナーが「分をわきまえろ。どうしてオーナーが選手と話し合いなどしなくてはならないんだ。スト?やりたければ勝手にやればいい」という発言をされたようですが、さてさて、いかがなものでしょうか。

オーナーと選手、つまり経営者と社員です。そう考えてみると、ことの適否はご判断頂けるものと思います。

この発言、テレビのワイドショーでもあまり問題になっていません。それもそのはず、この有名オーナー、某キー局のドン、いやいやマスコミ界のドンですからね。でも、マスコミって、そういう姿勢でいいのでしょうか。少々疑問に感じます。

なんだか、小泉さんや閣僚の最近の無責任、横暴発言と同じような印象を受けるのは、僕だけでしょうか。

このメルマガで以前からお伝えしていますように、企業と社員はある意味で一心同体です。相互に適切な緊張感のある関係が維持されてこそ、お互いに繁栄できます。

適切な緊張感の中で、企業と社員はどのような視点で経営について議論すべきでしょうか。言うまでもなく、顧客の視点からです。顧客からの支持や、顧客の信頼を失った企業が衰退するのは必定です。それは、昨今の自動車メーカーのリコール問題の顛末を見るまでもなく、明らかなことです。

「分をわきまえる」、「分相当」とは、辞書でひくと、「言動・支出・生活・待遇などが、その人の身分・地位・能力などにふさわしいこと」と定義されています。さて、オーナー側、選手側にとって、それぞれ分相応な対応とはどういうものでしょうか。是非、それぞれにじっくりと考えて頂きたいものだと思います。

3.選手側の主張:ストライキと待遇

先日の選手会総会後の記者会見で、選手会長が「ストライキの可能性も否定しない」と発言しました。さて、ストライキの適否はどのように考えるべきでしょうか。

ストライキを行う権利、ちょっと堅い言葉で表現すると、争議権です。これは憲法で保障されている権利ですので、プロ野球選手にも当然あります。

しかし、争議権は職業や職種によっては制限されます。例えば、警察や消防署、自衛隊の職員がストライキを行ったら、国民はたいへんな迷惑を被ります。そこで、争議権が制限されています。企業の中でも、就業規則(経営者と社員の申し合わせ)によって、警備部門やインフラ(コンピューターなど)部門の社員の争議権が制約されている場合があります。

もちろん、こうした対応は国や企業によって異なります。警察や消防署でもストライキが行われる国もあります。それぞれのお国事情ですね。

さて、プロ野球選手のストライキはどのように考えるべきでしょうか。たしかに、国民生活に重大な支障が生じるということはありません。上述のように、企業も社会的役割を担っています。そして、ある意味で企業と社員が一心同体であるとすれば、社員、つまりプロ野球選手も社会的役割を担っていることになります。

ストライキという手段に言及する前に、選手側も、プロ野球や球団の低迷の理由、及びプロ野球や球団経営の目的を考えてみるべきではないでしょうか。

選手の年俸の高騰が経営悪化の一因であることは明らかです。2リーグ制の維持、ファン重視の経営判断を主張するのならば、年俸問題について、選手側も何らかの対策を経営側に示すべきでしょう。

実力のある選手が高い年俸を得ることは当然のことです。但し、その水準の適否についてはもっと議論されるべきでしょう。バブル経済を契機に高騰した水準が、そのまま維持されていないでしょうか。球団経営も企業経営と同じであるとすれば、相応の水準訂正は行われるべきでしょう。

ファンや国民からみて、少し違和感があるのは先払いであることです。つまり、翌シーズンの契約を結び、実際の活躍と関係なく年俸が支払われる点です。たいした金額でなければ問題はないかもしれません。しかし、何億円という年俸を保障された選手が、不振で全然活躍できないというケースもしばしばあります。しかも、複数年契約だと、不振の結果を翌々年の契約にも反映できません。こういう点は是正の余地があるのではないでしょうか。

例えば、年俸1億円を超えた場合は、原則として出来高払い(活躍に応じた報酬)にするとか、選手会としても、経営改善に向けた提案をするべきでしょう。

何でも米国(大リーグ)のマネをする必要はありません。日本には日本にあった制度があるはずです。それは、プロ野球だけではなく、経済や政治、行政についても言えることです。

4.ファンのサポート:日本の文化

「プロ野球は日本の文化のひとつであり、プロ野球側の事情や経営効率だけでことを進めてほしくない」という意見をよく耳にします。もっともな主張だと思います。

しかし、プロ野球がもはや「日本の文化」であるとすれば、顧客であるファンも「文化」を守るためには相応の役割を担う必要があります。

この問題は、歴史的建造物や街並み、あるいは環境維持といった問題と共通するものがあります。

京都や奈良の街並み、あるいは沖縄や北海道の環境を守りたいというのは、おそらく、ほとんどの国民に共通する気持ちだと思います。しかし、普段はそう思っていても、いざ観光客として現地に行くと、ゴミを出す、ルールを守らないという人も少なくありません。景観維持、環境維持のための建築規制、業務規制などを課すべきだと言うと、利害関係者は反対します。しかし、利害関係者も生活がかかっていますので、ある意味で無理のない主張と言えます。

このように、一部の人たちの不利益で景観や環境を維持するためには、一般論として景観維持、環境維持を主張する国民は、ある程度、利害関係者に優遇措置が行われることを容認するべきでしょう。

道徳や教育、伝統文化の問題も同じです。これらの退廃を嘆く方も多いと思いますが、道徳、教育、伝統文化を守るために、国民ひとりひとりが何をするかが重要です。

余談ですが、道徳や教育、伝統文化の重要性を主張する首相自身が、不真面目、不謹慎な答弁で日本の議会文化や憲法を無視する発言をするようでは、それを主張する資格はありません。

僕も野球ファンのひとりです。ドラゴンズ(セ・リーグ)ファンではありますが、野球ファンとして、2リーグ制を維持するために何ができるのか、考えてみたいと思います。

(了)


戻る