参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
菅代表が辞任することになりました。新代表はまだ確定していませんが、一刻も早く態勢を立て直して、公党としての職責を全うしたいと思います。政局の混乱で他のニュースが霞んでしまっていますが、厚生労働省で不祥事が続発していることはお伝えしなくてはなりません。日本の病根を見事に体現しています。未納3兄弟ならぬ、3つの事件簿です。
1.事件簿(1):審議会と有識者
ひとつは、医療保険制度の診療報酬体系を巡る中央社会医療保険協議会(中医協)委員の贈収賄事件。既に下村健社会保険庁元長官、臼田貞夫日本歯科医師会前会長ら7人が逮捕されています。
医療保険制度を巡る問題点については、過去のメルマガでも何度かお伝えしています(29号や53号など。ご興味がある方は、ホームページのバックナンバーをご覧ください)。医療も病院や医療関係企業にとっては産業です。したがって、そこで提供される製品(薬、材料)やサービス(手術などの技術)には価格が必要です。しかし、他の産業と同様に需要と供給から価格を決めるわけにもいきません。そこで、診療報酬点数(1点=10円)を設定し、国がその価格を定めていますが、それを行っているのが厚生労働大臣の諮問機関である中医協です。
中医協の委員は患者(国民)代表が8人、医師代表が8人、中立的立場(行司役)の委員が4人の合計12人。この12人が丁々発止の議論を行い、公明正大に点数を設定してくれることが期待されていますが、実際は一部の委員と事務局(厚生労働省)の密室談合で決まっています。
今回、患者代表委員であった下村容疑者と、医師(歯科医師会)代表の臼田容疑者が逮捕されました。元社会保険庁長官(つまり厚生労働省キャリア)が患者代表というのがそもそもおかしいですね。今後は、厚生労働省出身者を委員から排除しなければなりません。
僕自身は、診療報酬の前回改定時(つまり今回の事件の発生時)から中医協の運営を透明化するために、坂口大臣に改善要望書を提出し、また、事務次官とも直談判を行ってきました。議論の現場を注視するために中医協を実際に傍聴してきた唯一の国会議員として、今後も密室談合の実態を国会で明らかにしきます。
事件の本質は、日本の政策形成プロセスの問題です。よく言われる「審議会行政」というものです。「有識者」と呼ばれる役所の代弁者が審議会で意見を述べ、その発言が「有識者がそうおっしゃったのだから、こうしました」という役所の行動の裏付けに利用されていることに問題があります。
今回の中医協事件は、その際、どのような意見を述べてもらうかということに関し、歯科医師会前会長から社会保険庁元長官に賄賂が渡されたというものです。困ったことです。「審議会行政」は機能的には必要な面もあります。「有識者」と言われる皆さんには、良心と良識を持って頑張って頂きたいと思います。
2.事件簿(2):副業と公務員倫理
もうひとつの大きな事件は、選択エージェンシーという会社を舞台にした贈収賄事件です。この会社が、厚生労働省の予算を原資として不要不急の印刷物やビデオの作成等を大量に受注し、受け取った代金のかなりの部分を厚生労働省職員にキックバックしていたということです。言語道断です。
対象予算は8億9千万円、そのうち判明しているだけで6億2千万円の予算を使った発注にキックバックが付いており、実に7千万円が厚生労働省職員78人に渡っていました。前代未聞の大不祥事です。
給与以上の報酬(ひとりで619万円、455万円)を手にしている職員もいます。厚生労働省は「キックバックではなく、印刷物やビデオの内容チェックを手伝った監修料であり、言わば副業収入だ」という言い訳をしていますが、国民を馬鹿にした物言いです。監修したのが本当であったとしても、そうした専門知識は仕事を通じて得た情報です。国家公務員倫理法第3条には、「職務上知り得た情報を、一部の国民(この場合、選択エージェンシー)や私的利益のために用いてはならない」と明記してあり、明らかな法律違反です。
公務員としての仕事に関連した副業は許されない。これが国家公務員倫理法の精神です。法律からそうした精神を読みとれないような役所は、解体が必要です。
もっとも「副業収入」というのは言い訳にすぎず、もともと「副業収入という形」で予算を還流させ、役所全体でプールしていたというのが実態ではないかと言われています。警察もそうした方向で捜査を進めています。
現に、一昨日の参議院財政金融委員会でこの件を追及した際に、厚生労働省の中島審議官は「619万円や455万円の監修料は形式的にはひとりが受領したが、実際には数人で作業をした。したがって、ひとりが代表して受領して、数人で共同して飲食費等に使ったということ」という驚くべき答弁をしています。それでは、共同して飲食費に使った職員は贈与を受けているのと同じであり、当該職員が確定申告をしていないことは違法と言えます。
さらに、選択エージェンシーという会社との最も新しい契約案件(平成15年度版の「健康手帳」の制作)に関しては、同審議官が「その件では職員は監修料は受け取っていない」と答弁しました。ところが、この件に関しては、保険局のH課長が「Y係長が一旦は800万円を受け取った」と認めているようです。いったいどういうことでしょうか。
いずれにしても、真相解明は警察の仕事です。警察には頑張ってもらいたいと思います。人事院には国家公務員倫理法に従って「国家公務員倫理審査会」を開催すること、会計検査院には厚生労働省の検査に入って頂くこと、財務省には同省の執行中の今年度予算及び来年度予算要求を徹底的に調査、査定して頂くことを求めたいと思います。
繰り返しになりますが、公務員としての仕事に関連した副業は許されない。これが国家公務員倫理法の精神です。それにしても、「プール制」という言葉は、外務省事件、道路公団問題に続いての登場です。プールは汚れているような気がして泳ぐ気がしないのは僕だけでしょうか。厚生労働省には、衛生管理を担当する役所として、プールの衛生を徹底するように期待したいものです。
3.事件簿(3):予算と選挙資金
3つ目は、労働行政を担当する元職業能力開発局課長が、地方自治体に分配した予算を自分のところへ再送金させて、1800万円を横領していた事件です。
この元課長は、地方自治体の職員に対して「選挙資金が必要だから、配分した予算の一部を送金するように」という指示を出していたそうです。愛知県をはじめ、9都道府県が不正送金の舞台となりました。
「選挙資金が必要」という理由が本当だったのか、あるいはそれは単なるウソだったのか、現時点では分かりません。今後、警察が明らかにしてくれるでしょう。本当であったとすれば由々しき事態です。いったい、誰の選挙を支援するためだったのでしょうか。
しかし、仮にウソであったとしても、つまり、この元課長がウソをついて自分のために不正送金をさせていたとしても、事態は深刻です。「選挙資金が必要」という理由で地方自治体の職員が不正送金に応じたということは、そういうことが日常的に起きているということです。これは大変なことです。
国や地方自治体の予算がそういう使われ方をされているということは、これまでも噂されていました。今回、図らずもその一端が明らかになりつつあります。日本の歪んだ支配構造を明らかにするためにも、本件も真相の徹底解明が必要です。
(了)