政治経済レポート:OKマガジン(Vol.71)2004.4.25

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


理由が何であれ、景気や株価が回復すること自体は結構なことです。しかし、理由が何であるかをよく理解しておかないと、次の一手を間違えることになります。「原因」と「結果」の関係=因果関係についての理解が重要と言い換えてもいいでしょう。現状肯定的な日本という国は、常に「結果」を甘受するばかりで、世界を動かす「原因」の側に立つことができません。日本という国は、もっと因果関係を洞察する能力が必要だと思います。

1.イラク情勢:「原因」と「結果」

イラク情勢が一段と混沌としてきました。現在の状況は「結果」です。では、「原因」は何だったのでしょうか。

フセイン政権による大量破壊兵器の製造が「原因」でしょうか。それが事実であるとすれば、たしかに表面的な「原因」のひとつと言えます。しかし、仮にそれが事実であったとしても、表面的な「原因」にすぎません。もっと深い洞察が必要です。

国際社会が平和であることは誰もが望んでいます。しかし、国際社会の底流に流れるメカニズムは引続き覇権主義です。これは「事実」です。つまり、自国を発展させたい、自国を豊かにしたいということです。国家として当然の欲求でしょう。

以前はこの欲求を満たすために公然と武力行使が行われました。近世以前の国際社会では国家の当然の権利と理解されていました。しかし、今日、先進国間では武力によって覇権を争うことはできなくなり、武力に代わる覇権争いの手段として登場したのがルールです。

例えば、貿易の関するルール(GATT、WTO)、企業経営に関するルール(会計基準)、銀行経営に関するルール(BIS規制)などです。米国やEUはルール作りの主導権を握ることで覇権を獲得しようとしています。国家として当然の対応です。頑張りが足りないのは日本です。

相手が発展途上国や異文化圏となると、ルール作りという覇権獲得手段は通用しません。覇権獲得を強引に行おうすれば、再び武力行使という古典的な手段を用いる必要性に迫られます。しかし、今は現代、米国も現代国家です。古典的な手段を現代的な装いにするためには、何らかの理屈づけ(例えば、大量破壊兵器の製造といった説明)が必要です。イラク情勢という「結果」を生み出した深層の「原因」は、引続き国際社会が覇権主義というメカニズムで動いているということではないでしょうか。

2.人質事件:「ルール」と「不条理」

日本からみると、国際会計基準やBIS規制がいかに欧米寄りの内容であっても、合意した以上は従わざるを得ない「ルール」です。「ルール」である以上は条理にかなった(=筋の通った)ことです。厳しい国際会計基準もけっして「不条理」なこととは言えません。

日本という国は実に素直な国です。外国との間では「ルール」を守り、「不条理」なことは主張しません。実に素直です。欧米諸国や中国からすると、何とも与し易い(くみしやすい)国です。

ところが、自国民に対しては実に変なことを主張する妙な国です。国民の生命と財産の安全を守るのが国家の責務です。法律によって保障された国民の権利を擁護するのが国家の仕事です。それが国民と国家の間の「ルール」=「契約」です。

海外への渡航の自由は憲法で保障された国民の権利です。それを守ること、そして国民の生命と財産の安全を守ることは国民と国家の間の「ルール」です。

イラクで人質になった皆さんに救出費用を請求するという発想は「ルール」違反であり、実に「不条理」なことです。事前に渡航禁止令を出していたのなら話は別です。そうでなかった以上、人質になった皆さんに今後の注意を促すことは当然のこととして、事前の「ルール」を覆す要求をするとは何とも「不条理」な国です。国民の生命と財産を守ろうとしない言語道断の変な政府と言えます。

不正や汚職で税金を私物化している政治家や官僚には甘く、ヒューマンシップに溢れた真面目な国民には「不条理」な対応をする、そんな政府には政府の資格はないと言わざるを得ません。

外国には媚びへつらい、国民には傲慢な対応をする日本という国家は、実に変な国です。

3.保険料未払い閣僚:「不条理」は許さない

そんな憤りを感じている矢先に、何とも情けない「不条理」の極みの事態が発覚しました。テレビや新聞でご存知のとおり、中川、麻生、石破の3大臣が国民年金保険料を未払いだったということです。

国民年金保険料を納めることは、国民と国家の間の「ルール」=「契約」です。自らそれを破り、しかも首相までもが「今後改めればいことだ」などと嘯く(うそぶく)この国は、もはや国家の体をなしていません。実に情けない。おそらく首相も納めていないでしょう。推して知るべしです。3閣僚には即刻辞任を求めます。

外国に対しては従順で、「ルール」を守らない仲間内には甘く、その一方で納税者、主権者である国民には「不条理」を押し付けるこの国の政府は、いったい何を考えているのでしょうか。

この際、全国会議員、既に議員年金を受給している全議員(引退議員だけではありません。現職議員でも受給している人もいます)の保険料納入の実態が明らかになるまで、年金制度改革を巡る国会審議はストップさせるべきです。

若年層が年金保険料を払わないことは年金制度崩壊の「原因」ではありません。「不条理」な政府や政治家、官僚が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているこの国の姿を反映した「結果」にすぎません。

国民の生命と財産の安全を守る当たり前の政府、国民との「契約」=「ルール」を守る当たり前の政府、国民に「不条理」を押し付けない当たり前の政府を、一刻も早く作りたいものです。それにしても情けない。日本人であることに誇りを持てません。

(了)


戻る