参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
「イラクは大量破壊兵器を製造する能力を持っていた」。ブッシュ大統領による「戦争の大義」の新しい定義です。日本も抜群の能力を持っています。米国に制裁されないように気をつけなくてはいけません。緊張感が大切です。
1.緊張感:企業経営
日本を立て直すには緊張感が大切です。銀行と企業、あるいはグループ企業同士で株を持ち合い、株主による経営のチェック機能が働かなかったことも日本経済を衰退へと導いた一因です。
持ち合いにも、経営の安定化などのメリットはあったと思います。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるが如し。過度な持ち合い経営が、企業の緊張感を弛緩させました。国際会計基準の普及も、緊張感の弛緩した経営を是正することに寄与しています。
大和総研が4日に発表したレポートによると、上場企業の持ち合い比率は1991年度の15.7%から2002年度には5.2%まで低下したそうです。但し、銀行業界が運営している株式保有機構や日銀が保有している分は、当分の間、市場には放出されない事実上の持ち合い株です。これらの動向も、緊張感を弛緩させずにウォッチしていかなくてはなりません。
18日に発表される予定の昨年第4四半期のGDP成長率(実質ベース)は年率換算で4%超、7四半期連続のプラス成長で、同時期の米国の成長率を上回ることが予想されています。結構なことです。好調の主因は中国向けを中心とした輸出の伸びです。
しかし、米国や中国の景気の腰折れ、一段の円高など、先行きの懸念材料も目白押しです。政策当局者には、国際会計基準や為替相場を巡る交渉において、欧米や中国の言いなりにならないように緊張感をもって交渉に臨む必要があります。企業経営者と政策当局者、それぞれが緊張感を弛緩させずに日本経済を取り巻く環境をウォッチし、望ましい方向に誘導していかなくてはなりません。
2.緊張感:財政運営
国民=納税者は、自らの将来や次世代を守るために、緊張感をもって政府の財政活動を監視していくことが必要です。
先週の財政金融委員会で補正予算関連の審議を行いました。今回の補正予算にはイラク支援関係経費が含まれているために、自衛隊派遣の是非に絡めて野党は補正予算編成に反対の立場をとりました。
しかし、イラク支援関係経費が含まれていなくても、そもそも反対せざるを得ない理由があります。そのひとつは、経費削減による歳入額が1兆1716億円に及んでいることです。「経費削減はいいことではないか」と呟かれた読者の皆さんが多いことと思います。そのとおりです。しかし、こんなに捻出できるということは、当初予算編成時の緊張感が弛緩していると言わざるを得ません。国のみならず、自治体の予算も経費削減の余地はまだまだあると思います。
なお、1兆1716億円の中には金利低下に伴う国債費の減少分4602億円が含まれています。これは、国債の償還原資に当てるべきであって、新たな歳出に回すべきではないでしょう。
もうひとつは、予算書の中に含まれる国庫債務負担行為(将来の支出を約束する行為)です。不要不急の公共事業が山のように盛り込まれています。そもそも、財政法は補正予算を編成できるケースを極めて限定的に定めています。国庫債務負担行為も災害復旧など緊急性の高いもの以外は認められていません。義務的経費以外で当初予算編成時に予期された経費は補正計上できないことになっています。いずれも、放漫財政を抑止しようとする財政法の基本理念によるものです。
ところが実情は、当初予算に盛り込めなかった不要不急の公共事業を、毎年恒例の補正予算に国庫債務負担行為として潜り込ませることによって既成事実化しています。国庫債務負担行為は翌年度以降の予算の自由度を低下させます。
財政法の理念を軽視した緊張感の弛緩した財政運営と言わざるを得ません。当初予算でいくら緊縮予算を編成しても意味がありません。「補正回し」と呼ばれる日本のこうした悪しき慣習は、IMFにも糾弾されています。財政金融委員会では谷垣大臣、竹中大臣にこの点を問い質しましたが、緊張感ある答弁を聞くことはできませんでした。
来年度以降は1990年代に大量発行された国債の償還期を迎えます。4年後には借換債だけで134兆円の国債発行が必要となります。2008年問題と呼ばれています。国債管理政策にも緊張感が求められます。
3.緊張感:外交安保
陸自本隊がイラク入りしました。隊員の皆さんには緊張感を弛緩させることなく、無事に任務を完遂して帰国してもらいたいと願っています。
冒頭でもご紹介しましたが、ブッシュ大統領が「大量破壊兵器の脅威」に関するこれまでの主張を変えました。曰く、イラクは「大量破壊兵器を持っていた」のではなく「大量破壊兵器を製造する能力を持っていた」と言うことです。これでは、日本を含め先進国は全てイラクと同様の「悪の枢軸国」にされてしまいます。
外交安保政策を司る指導者に必要な緊張感は、自国民に対する緊張感ではなく、交渉相手国に対する緊張感です。すなわち、米国追従の海外派兵を決断する際に国民世論を敵に回すのではないかという緊張感ではなく、日本の国是や法論理に基づいた判断を主張する際の米国に対する緊張感です。
占領軍の指揮下に入って活動することは、現在の国際法では「交戦権の行使」と定義されています。一方、現行憲法は交戦権の行使を禁止しています。そうした法論理を外交交渉の場で主張する際の緊張感こそが、外交安保政策を司る指導者に必要な緊張感です。残念ながら、緊張感の対象が間違っています。本来の緊張感が弛緩していると言わざるを得ません。
米国が国連主導、NATO主導の占領統治を主張し始めているのはどういうことでしょうか。大統領選挙でケリー上院議員が勝った場合のリスクをどのように考えているのでしょうか。小泉首相には、外交安保政策を司る指導者に足る緊張感と分析力を期待したいものです。ついでに、説明力、語彙力も養ってもらいたいと思います。
相手国の顔色を見る外交安保政策ではなく、相手国が日本の顔色を見る外交安保政策に転換していかなくてはなりません。間違った緊張感を持った古いタイプの政治家には、潔く身を引いて頂く時が近づいています。
(了)