参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
今日は作家(かつ精神科医)のなだいなだ先生にお会いしました。老人党(インターネット上のバーチャル政党)を立ち上げて話題になっています。同僚の鈴木寛議員と3人での鼎談(ていだん)の模様はD-Vision(http://www.minshu.tv)でご覧になれます。いよいよ明日から総選挙です。なだ先生からは「政権交代を実現するために応援する。但し、政権をとった後のできが悪ければまた変える」と暖かくも厳しい激励を頂戴しました。なだ先生のご著書である「老人党宣言」(筑摩書房)も是非ご一読ください。
1.不思議の国「ニッポン」
同じ見出しを第10号(2001年9月9日号)でも使いましたが、また使わせて頂きます。なにせ、ほんとうに「ニッポン」は不思議な国ですから・・・。不思議な点がいくつか是正されれば、きっと「ニッポン」は復活できます。
今回は今話題の高速道路の話です。「民営化」対「無料化」論争が起きていますが、皆さんはどちら派ですか。直感的に「無料化なんてできる訳がない」と思われる方が多いことでしょう。しかし、何と先週の木曜日、当初は「無料化は絵に描いた餅だ」と批判していた安倍晋三さんが、「私たちも永久に有料化と言っている訳ではない。無料化もいずれ検討する」と言い出しました。いったいどうしたことでしょうか。
欧米諸国では高速道路は無料です。よその国にできることが、どうして「ニッポン」ではできないのでしょうか。よその国では「当たり前のこと」が当たり前のように起きないことが、「ニッポン」を不思議な国にしています。
当たり前のように起きないのは、それなりの理由や原因があります。それを是正していくことが構造改革にほかなりません。道路公団民営化では、民営化された(=民間会社になった)道路公団株式会社が存続するために、高速道路は永久に有料になってしまいます。これではまったく構造改革になりません。そのことがバレ始めたために、とうとう安倍さんも発言内容を変えてきました。良く言えば柔軟、別の言い方をすれば無節操ですね。
2.無料化は建設当初の「公約」
さて、諸外国では高速道路は税金で作られています。しかし、「ニッポン」では東名、名神、首都高、阪神高速などを借金で作り始めました。なぜでしょうか。
それは、昭和30年代は終戦後間もなく、十分な予算(税収)がなかったからです。世銀からも借り入れました。現在50歳代後半以降の世代の皆さんの中には、「そういえば、通行料金で借金を返済したら無料にするって話だったよな、たしか・・・」とご記憶の方もいらっしゃると思います。そうです、政府の当初の説明はそういう内容でした。無料化は「公約」だったのです。いったい、いつの間に方針が変わったのでしょうか。
変わったきっかけが、あの悪名高き通行料金の「プール制」です。東名、名神、首都高、阪神高速などの通行料金を貯めて(プールして)、地方に新しい高速道路を作るための財源にしたのです。しかも、その「プール制」は国会で審議されることもなく、道路公団と道路族議員の談合で勝手に決めてしまったのです。由々しきことです。
新しく作る高速道路は採算がとれない道路が大半であったため、結果的にそれらの建設コストは自前の通行料金ではとても回収できません。そのため、東名、名神、首都高、阪神高速は有料化が続いているばかりか、他の高速道路の不採算を補うために何度も通行料金の値上げが行われています。
通行料金と道路建設予算で新しい高速道路を作るものの、新しい路線は採算がとれずに借金が増え続けます。その結果、通行料金の値上げも続きます。今の仕組みを続けていると、「ニッポン」は高速道路と借金が増え続け、通行料金も上がり続けるという構造です。この構造を変えることが構造改革ではないですか、小泉さん。
道路公団が民営化されると、「道路公団株式会社」が収益を出し続けるために、高速道路は永久に有料化が続きます。まさしく不思議の国「ニッポン」です。
3.無料化はマジックか?
いいえ、マジックではありません。なぜなら、よその国では現実に行われています。では、どうやって実現するのでしょうか。新しい高速道路は作れなくなるのでしょうか。
ご心配なく。ちゃんと作れます。現在、国全体で道路の建設に年間約10兆円の予算が使われています。予算と言っても、もともとは皆さんの税金です。つまり、税金で道路を作っているのです。「なあんだ、よその国といっしょじゃないか」と思われた皆さん、そのとおりです。その予算の範囲内で対応すれば、よその国と同じようにできるのです。
問題はその10兆円を全て新しい道路建設に回していることです。10兆円では足りず、そのうえにさらに通行料金までとっているのです。
さて、その10兆円のうち2兆円をこれまでの借金返済に当ててみましょう。借金は減っていきます。残りは8兆円です。その8兆円で引き続き新しい道路は作れます。そうすることによって、借金は減る、新しい道路は作れる、通行料金は必要なくなる・・・高速道路の無料化政策はこうして実現できます。全然難しいことではありません。マジックでもありません。よその国では普通に行われていることです。
4.不思議なことをする理由
では、これまでの政府はどうしてそんな簡単なことに取り組まなかったのでしょうか。あるいは、どうしてそんな不思議なことを続けてきたのでしょうか。
それこそが、政官業の癒着構造です。道路建設は道路公団とそのファミリー企業が独占し、しかも道路建設予算の一部が不必要な道路建設を決定した利権政治家、悪徳官僚にキックバック(リベート、あるいは賄賂)されているのです。解任された道路公団の藤井前総裁は「そのことをしゃべっていいんですか、石原さん」と言って、政治家のイニシャルをほのめかしたのでしょう。
その構造を永続させるために、通行料金の「プール制」を勝手に導入し、有料化を固定化させたのです。
道路公団とそのファミリー企業は道路建設を独占しています。独占事業ですから、建設コストはよその国の1.5倍とも2倍とも言われています。・・・ということは、道路建設が一般の民間企業に開放されれば、コストダウンによって、上述の8兆円でも従来以上に道路を作れるかもしれないのです。
借金は減る、道路は今まで以上に作ることができる、通行料金はなくなる、ついでに利権政治家や悪徳官僚へのキックバックもなくなる。スゴイことのようですが、よその国では「当たり前のこと」です。
そういう姿を実現することこそが構造改革です。道路公団の「民営化」は、日本を永遠の不思議の国「ニッポン」にしてしまいます。高速道路「無料化」こそが、不思議の国「ニッポン」を普通の国「日本」に戻します。難しいことではありません。ごくごく常識的なことです。なぜなら、当初の「公約」を果たすだけのことだからです。
おっと、小泉さんには常識的なことではないですね、きっと。公約を守らないことは「たいしたことではない」という人ですから・・・。
追伸:高速道路「無料化」に関するQ&A(想定問答)を僕のホームページの資料コーナーにアップします。ご興味のある方は是非ご覧ください。井戸端会議や宴席での話題に使って頂ければ幸いです。
(了)