政治経済レポート:OKマガジン(Vol.52)2003.7.7

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです

OKマガジンの読者(送信先)の皆さんは、選挙区(愛知県)と県外(関東圏を中心とした全国各地)の方々が半々ぐらいです。毎回、全国的な話題をお送りしていますが、今回は全国の皆さんに是非お伝えしたい地元の話題も取り上げさせて頂きます。

1.民間優位:2割弱の事業費削減

2005年3月の開港を目指して、中部国際空港の建設が進んでいます。愛知県常滑市(知多半島)沖合いに位置する埋立型海上空港です。大阪府泉州沖の関西新空港と同じようなイメージであり、2005年の愛知万博の開催に照準を合わせて建設が進められています。

中部国際空港は、官民折半の中部国際空港会社に国が建設・運営を委託する本格的なPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)方式を採用しています。社長も民間出身者(トヨタ自動車出身の平野幸久氏)です。空港管理組織のトップが民間出身者になったのは初めてのことです。

5日(土)の朝刊に明るいニュースが報じられていました。空港島の造成工事の工夫などによって、事業費が当初計画(7680億円)比1249億円も削減可能になったということです。実に16%強の事業費削減です。国土交通省によれば、大型公共プロジェクトにおける事業費圧縮は前例がないそうです。中部国際空港会社の皆さんのご努力に敬意を表します。

デフレや低金利によって、資材費や金利コストが減少したことも寄与したと思います。当初計画自体がやや過大見積りだった面があるのかもしれません。そうした可能性を加味したうえでも、事業費2割弱の削減は賞賛に値します。

運営・建設母体が公団や特殊法人形式で、トップが官僚出身者であれば、仮に事業費が削減されたとしても、不要不急のインフラ建設、他目的への流用、着服等の事態に至るのがこれまでの常でした。今回の事業費削減は、公正性・透明性維持を含めた事業手腕における民間の優位性を端的に示した事例と言えるでしょう。

中部国際空港会社は、削減可能となった事業費について、来年度以降、国への予算要望を行わないそうです。立派な対応と言えます。

当該予算は国の新たな財源となります。国はそれをいったい何に配分するのでしょうか。また無駄なものに使われるのならば、関係者の努力は水の泡です。本来、こうしたケースでは事業主体や地域に何らかの還元を行ったり、国債償還に充当するといった対応を図るべきではないでしょうか。

政府の対応方針については、国会で十分に注視していきたいと思います。いずれにしても、中部国際空港会社の皆さん、本当にご苦労様でした。あと2年弱、頑張ってください。

2.士業優位:自発的な制度設計

来年度のロースクール(法科大学院)開設に向けて、全国の国公私立大学72校が設立認可申請を行いました(6月30日締切り)。司法制度改革の一環です。

ロースクールへの入学希望者(将来、弁護士、裁判官、検察官を目指す人達)はかなりの数に上るようです。しかし、その一方で、ロースクールの学費の高さが問題になっています。

そこで、名古屋弁護士会の皆さんが、ゼロワン地域(地裁支部管内に弁護士がゼロかひとりの地域、つまり弁護士過疎地域)対策とセットにした妙案を考え出しました。司法試験合格後にゼロワン地域で一定期間勤務することを条件に、ロースクールの学費を免除するというアイデアです。学費免除のほかに、ゼロワン地域勤務期間中の所得保障も検討する必要があるでしょう。

もちろん、こうした工夫は名古屋弁護士会だけではなく、個別大学や全国各地の弁護士会でも検討が進められていることと思います。いずれにしても、士業(サムライ業)の皆さんのこうした自発的な制度設計に対して、所管官庁(この場合は法務省)が妙な横槍を入れないように注視していきたいと思います。

士業と言えば、弁護士のほかにも、税理士、公認会計士、司法書士、行政書士など、いろいろとあります。資格試験を経た専門家集団です。日本の経済、社会の再生に向けて、士業の皆さんが担っている役割には大きなものがあります。

例えば、上述の弁護士過疎地域=ゼロワン地域問題の解決の第一義的な責任は、本来法務省にあるはずです。しかし、弁護士過疎問題が年々深刻化する一方で、所管官庁である法務省が積極的に対策を講じてきたとは言えません。だからこそ、弁護士会の皆さんが自発的な制度設計に立ち上がったのです。

最近話題の公認会計士業界、監査法人業界でも、監督当局である金融庁は自らの職責を果たさない(企業会計制度に対する自らの意思を明確にしない)一方で、銀行や企業の生殺与奪の重責を監査法人の皆さんに押し付けています。

「士」ではなく「師」のつく医師の世界でも同じような現象が起きています。厚生労働省は、医療制度や診療報酬体系の抜本的改革を先送りする一方で、目先の微調整のために医療保険における患者の自己負担を引き上げたり、診療報酬体系をマイナス改定して、患者(国民)や医療機関を苦しめています。

残念ながら、現在の官僚組織及び守旧派官僚諸兄は、士業・師業の皆さんを「自分たちの管理下にある職業で生業を立てている人々」ぐらいにしか考えていないフシがあります。官僚個々人は「そうは思っていない」と主張するかもれませんが、長年の官尊民卑意識が、官僚組織にそういう遺伝子を組み込んでいるような気がします。

一定期間官庁に勤めると所管の士業の資格を試験免除で取得できたり(税理士が典型例)、関係組織に天下りする(監査法人や公認会計士業界への再就職が典型例)という慣行が、そうした遺伝子の実態を如実に示しています。

そろそろ士業の皆さんが「誇り高き専門家集団」として官僚組織から独立する時期が来ていると思います。自らの職域の政策課題に業界全体として自発的に取り組み、試験制度等についても自主的に運営していくことが期待されます。今回の弁護士過疎地域=ゼロワン地域対策が好例です。

そして、士業の皆さんが関係官庁の幹部職員に登用され(政治任用制度の本格導入)、またいずれは民間に戻っていくという「新陳代謝の高い民と官の関係」を構築してこそ、真の日本の改革が始まると思います。

3.非常識優位:ダッチロールするマネーマーケット

さて、話題は少し変わりますが、このところ株価が急騰しており、ホッと一息という感じですね。しかし、よくよく考えてみれば、一度は7000円台まで下落したからこそ9500円が高く感じられますが、1万円割れが続いているという現実は直視するべきでしょう。小泉政権発足時は1万4千円だったのです。相場に上がり下がりがあるのは当然です。こういう時こそ一喜一憂しないで、対策の手を緩めないことです。分かっていますか、小泉さん。

ところで、相場水準よりも、相場の動きを左右している市場関係者の皆さんの考え方が気になります。

ちょっと前の「株安、債券高=長期金利安」の局面では、業績が低迷している企業について「株は売られるが、社債は買われる」という常識ハズレの現象が観察できました。通常、業績が悪化すれば、破綻懸念から株も社債も売られるという事態になるはずです。

しかし、ここ数年間の特定企業の救済、5月に営業をスタートした産業再生機構の動きなどと相俟って、「破綻すれば株式は減資でパー(紙くず)になるかもしれないが、公的支援の下、社債の償還は保証されるだろう」という「妙な安心感」から、「株は売られるが、社債は買われる」という現象が発生していました。

国債についても同様です。巨額の財政赤字があるにもかかわらず、「国債は日銀が買い支えてくれる」という「妙な安心感」から「株安、債券高=長期金利安」という事態になっていました。

しかし、ここにきて「株高、債券安=長期金利高」となっています。株高が景気回復のシグナルであれば、インフレ懸念台頭を映じた長期金利上昇=債券安は合理的な展開です。ところが、このところの株高の背景には「りそな銀行も減資は行われなかった。日本株は公的資金で支えられるので損をする心配はない」という「妙な安心感」が影響しています。その結果、投資資金が債券市場から株式市場にシフトし、「株高、債券安=長期金利高」に繋がっています。

株式相場も債券相場(長期金利)も、常識的な理屈では説明できない状況になっています。このメルマガでかねてから申し上げているとおり、経済の世界では論理矛盾したことを行えば論理矛盾した結果が伴います。非常識が優位になってきた日本のマネーマーケットを正常化するためには、政府の経済政策の論理矛盾を是正する必要があります。

(了)