参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
おかげさまでOKマガジンも50号になりました。これからも、読者の皆さんに少しでもお役に立つような情報をお送りしたいと思います。マニアックなメルマガですが、今後ともよろしくお願い致します。
1.セーフかアウトか:微妙な判定
「りそな銀行」を巡る騒動は、まだまだ尾を引きそうな様子です。金融や経済の話題は専門用語が飛び交い、なかなか難解です。ちょっと喩え話に置き換えてみます。
企業の決算における財務規則や会計規則は、スポーツのルールのようなものです。ベースに足が届く前にタッチされたらアウトというのが野球のルールです。ファンの中には、贔屓のチームが不利になると、ルールどおりの判定をしても「セーフだ、セーフだ」と怒ったりします。
「りそな銀行」はセーフ(健全な銀行)だったのでしょうか、それともアウト(債務超過)だったのでしょうか。それが問題になっています。
アウトになると、ファンが騒いだり、球場全体が騒然とすることもあります。「ルールどおりに判定すると騒動になる」場合、球場管理者や審判団は「騒動を収拾する」のが仕事です。「ルールどおりに判定すると騒動になる」ので、「騒動を未然に防ぐためにルールを曲げてセーフにする」のは本末転倒と言えます。
政府や金融庁は、球場管理者や審判長のような存在です。今回、話題になっている監査法人は審判です。たまたま2人の審判が「りそな銀行」のプレーを見て、ひとりはアウト、もうひとりはセーフと言いました。さて、審判長はいかに行動すべきでしょうか。
公的資金を2兆円も投入する以上、プレーを写真やビデオで再現して判定の適否を確認する(「りそな銀行」の財務内容を再検査する)必要があります。しかし、審判長は早々と「その必要はない」と宣言したばかりか、自ら「セーフだ、セーフだ」と大きな声で主張しています。審判長というより、一方のチーム(今回は「りそな銀行」)の熱狂的なファンのような行動です。審判長がこの調子では、お客さん(国民)は白けてしまいます。
日本経済に対する信頼がなかなか回復しないのは、政府・行政当局のこうした不透明な行動が改善されないからです。これでは、日本の野球はいつまでたっても大リーグ人気には勝てません。「正々堂々と勝負したい」と思っている実力のある選手は、どんどん大リーグに流出します。日本の野球、いやいや、日本経済はどんどん衰退するばかりです。
2.金融SARS(1):伝染する痛み
日本経済の再生はなかなか容易ではなさそうですが、ここで、改めて何が問題なのかを、大きな視点から再確認してみたいと思います。
そもそも、1995年ぐらいから異常な超低金利政策が続いています。どうしてでしょうか。超低金利政策を継続・強化している理由はいくつかあると思いますが、銀行の収益を下支えすることもひとつの理由であることは否定できません。
銀行の資金調達コストが低ければ(超低金利であれば)、銀行の収益があがり、不良債権をたくさん処理できます。銀行は国民の皆さんの「財布」の役割を果たしており、金融システムの安定化のためには止むを得ない面があると思います。
ところが、超低金利が続いているために、資金を運用する企業は儲かりません。運用難で経営がどんどん困難になっています。典型的なのが生保です。痛みが生保に伝染しているのです。このまま超低金利政策を続けていくと、政府・行政当局は「銀行をとるか、生保をとるか」という究極の選択を迫られます。
そこで政府・行政当局は考えました。それは、「生保の予定利率を引き下げれば(保険契約者に支払う保険金を引き下げれば)、生保の経営難は解消する」ということでした。痛みが、銀行から生保、生保から契約者(=国民)に伝染するのです。・・・何か釈然としませんね。
3.金融SARS:伝染する超低金利とデフレ
超低金利とデフレは世界的な傾向になりつつあります。「なぁんだ、外国も一緒なら心配することないや」などと、安易に考えないでください。
日本が異常な超低金利を続けていると、例えば、日本で資金を調達した人は、たいへん低い資金コストで企業活動が行えます。生産・販売する製品のコストも下がり、価格も下がります。資金需要が日本に流出すると困る外国の銀行は、金利を下げざるを得なくなるでしょう。
世界的な超低金利、デフレは、世界的な景気低迷、株価低迷、人件費が低い中国の世界市場への進出など、さまざまな背景があると思います。しかし、経済のボーダーレス化が進んだ結果、金利も価格も低い方に収斂する(金利裁定、価格裁定が働く)という面があると思います。
日本の異常な経済政策が、超低金利とデフレを世界に蔓延させているということはないでしょうか。金利機能や価格機能は、人間のからだに喩えると血流機能や心肺機能です。日本の経済失政のせいで、世界中が徐々に機能不全に陥りつつあるとすると、まるで日本発の金融SARSです。
政府・行政当局、そして日銀は、そうした視点からも問題を解析し、対応を検討する必要があります。どうやったら、あるいはどのような条件が整ったら金利水準を正常化し得るのか、その見通し(プロスペクト)を国民に提示するべきでしょう。
私見では、痛みの付け回しはもう止めて、銀行・生保を一体化した改革(金融コングリマリットの再編)を行うとともに、「GDP成長率が2四半期プラスを続けたら金利を段階的に引き上げる」といった方針を明らかにし、国民が予測可能な金融政策を遂行することが必要な時期にきていると思います。僕自身の詳細な考え方は、今後、雑誌の誌面や国会論戦の中でご説明していきます。
4.セーフかアウトか:解雇ルールと解任ルール
さて、前半では金融にまつわるルールの話をさせて頂きましたが、国会では、解雇ルールを盛り込んだ労働基準法改正案が審議されています。
曰く「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効にする」という内容です。最高裁判例に従った内容を明文化したものですが、「社会通念上、相当」の具体的内容は、就業規則に定めて労働基準監督署に届ける必要があります。
どのように定められたとしても、具体的解雇事例がセーフか、アウトかは、個々のケースごとに判断されることになるでしょう。その際には、改正案には明記されませんでしたが、解雇4条件(①人員削減の必要性、②経営者の解雇回避の努力、③解雇対象者人選の合理性、④労使協議等手続きの妥当性)に照らして検討が行われることになります。
しかし、今後「りそな銀行」や産業再生機構に持ち込まれる案件における人員整理に関して、果たして再考や議論の余地があるでしょうか。「りそな銀行」のようなケースでは、公的資金投入申請という事態によって、全ての解雇が「社会通念上、相当」と見なされることになるでしょう。
使用者の解雇権は民法に規定されています。その一方、不注意や怠慢、あるいは行政との不正な結託によって、大勢の従業員を抱える企業を破綻に至らしめるような経営者を、従業員側が解任する権利は保障されていません。その役割は民商法上は取締役会が担っていますが、総理大臣の不信任権や自治体の首長に対するリコール権があるぐらいですから、経営者の解任権についても規定すべきではないでしょうか。
もちろん、解任権が濫用されては企業のガバナンスが不安定化します。解任投票実施には従業員の3分の1以上による発議、解任には3分の2以上の同意が必要とし、同一経営者に対する解任投票は1回限りとするなどの制限を設けるのが合理的でしょう。経営者と従業員の適度な緊張感が、日本の企業と経済を再生させます。
役所のトップ(事務次官や長官)も同じですが、総理や大臣でも官僚に対する人事権を容易に行使できないのが日本の実情です。これが日本の改革が進まない本質的な原因かもしれません。
(了)