政治経済レポート:OKマガジン(Vol.49)2003.5.24

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです

経済有事です。りそな銀行への公的資金投入問題を巡って、29日(木)午前中の参議院予算委員会の集中審議で質問に立ちます(NHK中継あり)。皆さんの疑問を少しでも解消できるように、小泉さん、竹中さんにシッカリと質問をさせて頂きます。また、月刊誌Voiceの最新号(現在店頭販売中)には、内部告発者保護法に関連して寄稿をしています。ご興味のある方は是非ご一読ください。

1.有事の基本

日本経済はいよいよ有事になってきました。外交安保であっても、経済であっても、有事に対する備えと対応の基本は変わりません。

第1は、現状に関する冷静かつ正確な分析と認識です。的確な現状認識があれば、有事を未然に防止することもできます。逆に、的確な現状認識がなければ、その後の対応も誤る可能性が高いと言えます。

第2は、万全の準備です。外交安保分野で言えば、防衛力を整備し、有事の際にどのようなルールに従って行動するか(つまり有事法制)を決めておくことです。経済分野では、有事に際した経済政策のメニューを揃えておくことです。金融に関して言えば、例えば、銀行が経営に行き詰まった際の法制を予め整備しておくことがそれに当たります。

第3は、現実の有事に際した迅速かつ的確な対応です。国民が国に税金を納め、政府に政策運営を負託しているのは、有事に際して、国民の生命と財産を守ってほしいと思っているからです。

企業経営や組織運営における有事対応も全て基本は同じだと思います。他の政策分野もまったく同じです。さて、日本の現状はどうでしょうか。

2.再生ではなく破綻

残念ながら、不良債権問題や銀行の経営問題において、日本の政府・行政当局は、むしろ事実を歪曲したり、粉飾を助長するような行動をとっているのですから始末に負えません。有事に対する第1の基本を自ら歪めているのです。

りそな銀行への公的資金投入を巡って、小泉さんも、竹中さんも「破綻ではなく、再生のための公的資金投入だ」と強弁しています。しかし、りそな銀行の財務諸表を見ると、自己資本とほぼ同額の繰延税金資産(計算上の資産=実際には存在していない資産)が計上されており、事実上の債務超過に陥っていることは誰の目にも明らかです。

大きな火事が起きているのに、消防署(=金融庁)が「あれは焚き火です」と言っているのと同じです。

第2の基本も疎かになっていました。そもそも、金融における有事法制のひとつである早期健全化法という法律が、2001年になくなっていました。それ以降、政府は「もう金融システムは健全です。危機は起きません」という虚構を前提として、「有事法制は必要ありません」というスタンスを取り続けていたと言えます。

平時においても有事に備えるのが政府の務めです。「有事にはならないから有事法制は必要ありません」というレトリックを用いていることは、政府として失格であることを証明しています。

第1、第2の基本が疎かになっているのですから、現実の有事に直面して適切に対応できないのは当たり前です。

「破綻(火事)ではなく再生(焚き火)だ」と言う小泉さん、竹中さんの主張が本当であるとすれば、有事対策は消火器程度でいいはずです。しかし、現実に持ち出してきたのは大型消防車(預金保険法102条)です。焚き火を消すには少々大袈裟と言えます。

大型消防車を持ち出してきたことが、今回の有事が「再生(焚き火)ではなく破綻(火事)である」ことの証です。

ホイッスル・ブローワー

今回の一件を巡って、監査法人及び銀行関係者から、僕のところに「通報」がありました。それは「火事を隠すために、シートで火を覆って隠している。しかも、消防署がそれをやっている」という「通報」です。シートは可燃性です。そんなバカなことをしていると、ますます火事が大きくなってしまいます。

決算においては、企業に対して、監査法人から「この決算は間違いありません」というお墨付きをもらうことが義務づけられています。言わば、適切な防火対策が行われていることを示す「安全シール」のようなものです。

ところが、何と消防署(=金融庁)が火をシートで覆ったうえに、監査法人に「安全シール」を貼ることを強要していたというのです。信じられないことです。

こうした事態を見過ごせないと思った監査法人及び銀行関係者が、勇気ある「通報」をしてくれました。消防署に真偽を問い質したところ、結局「火が燃えていること」を認めました。しかし、なおかつ「火事ではなく焚き火だ」と言い張っています。困ったものです。

今回のように、社会にとって必要な「通報」をしてくれる方々のことを「内部告発者」と言います。「内部告発者」というと何だか聞こえが悪いですが、英語では「ホイッスル・ブローワー」と言います。つまり、サッカーやラグビーなどのレフェリーのことであり、「警告を発する人」という意味です。

社会の不正を正すためには「ホイッスル・ブローワー」の存在が不可欠です。諸外国では、「ホイッスル・ブローワー」を守るための「内部告発者保護法」が整備されています。日本でも、現在、政府案と野党案が検討されています。この件に関する経緯や僕自身の意見を整理したものが、冒頭でご紹介した月刊誌Voiceの寄稿文です。ご興味のある方には、是非ご一読頂きたいと思います。

なお、今回の一件に関する経緯も来週の週刊朝日に掲載される予定です。合わせてご一読頂ければ幸いです。

保険版有事法制

23日(金)の閣議で、生保の予定利率引下げを可能とする保険業法改正案が了解されました。来週から衆議院で審議が始まります。

生保の経営悪化に備えた保険版有事法制と言えます。しかし、この有事法制は極めてタチの悪い内容です。現在参議院で審議されている本来の有事法制では、当初原案に対して民主党が基本的人権の保護を重視することを求めた結果、政府案が修正されて現在審議が進んでいます。ところが、保険版有事法制では、その基本的人権が侵害されるのです。

つまり、生保の経営状況が悪化した場合、保険契約者との契約内容を一方的に変更し、予定利率=将来の支払い保険料を引き下げることを可能とするのです。これは、保険契約者の財産権(憲法29条)の明らかな侵害と言えます。他人の基本的人権を侵害する有事法制は断じて認めることはできません。

例えてみれば、商品を売っているお店が、お客さんからお金だけ受け取って商品を渡さないのと同じです。これでは泥棒です。有事を抑止する法案と言うより、有事(泥棒)を認める有事促進法案と言えます。いやはや、日本は何とも変な国になりました。

終盤国会の超重要法案です。シッカリと議論させて頂きます。

(了)