参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
松井選手とイチロー選手の活躍で大リーグに注目が集まっていますが、セ・リーグも阪神の快走で盛り上がってきました。ところで、5月8日から「産業再生機構」が営業を開始しました。偶然ですが、セ・リーグの球団名は、これから本格化する産業再生の基本的仕組みを理解するのに役立ちます。
1.ゴーイング・コンサーン
多くの企業が悪戦苦闘しています。いよいよ行き詰まると「GC(ジャイアンツとカープ)」=「ゴーイング・コンサーン」に懸念が生じます。「ゴーイング・コンサーン」は「企業の存続可能性」とか「継続企業の前提」などと訳されます。
業績悪化は「BS(ベイスターズ)」=「バランスシート」に表れます。現在の経済状況は「バランスシート不況」とも言われています。デフレの影響で借入金の担保になっている不動産や株の資産価値が目減りし、銀行から追い担保(担保の追加差入)を要求されます。担保不足を解消できなければ、債務(借入金)免除=(銀行側の)債権放棄を求めることになります。
自力再生が困難な場合、「S(スワローズ)」に相談を持ち込みます。「S」は「産業再生機構」や「整理回収機構」です。このふたつの機構は、基本的には「S」=「私的整理」の枠組みで企業や産業を再生します。つまり、「S」=「債権者(銀行や取引先企業)」の合意を得て債権放棄を伴う「S」=「再建計画」をスタートさせます。しかし、関係者が合意に達しなければ、「S」=「裁判所」のもとで法的整理が行われることになります。
2.ターンアラウンド・マネージャー
再建計画の立案、実施の過程で中心的存在となるのが「T(タイガース)」=「ターンアラウンド・マネージャー(あるいはターンアラウンド・スペシャリスト)」と呼ばれる人達です。「企業再建専門家」とも言われる「ターンアラウンド・マネージャー」は、米国では1980年代から産業再生や企業再生の主役です。
具体的には、弁護士や公認会計士、あるいは銀行やコンサルティング会社で企業再生のノウハウを身につけた人達です。米国のターンアラウンド・マネージャー協会には約5000人の専門家が登録されています。日本でも、4月24日に「倒産実務者協会」という組織が立ち上がりました。日本版ターンアラウンド・マネージャー協会です。
「企業経営に行き詰まったら、まずこの協会に相談する」というパターンが定着し、「ターンアラウンド・マネージャー」はこれからの花形職業になるかもしれません。早い話が、「腕利きのスーパー企業経営者=仕事師」というイメージです。企業の中でそうしたスキルや手腕を見につけ、「組織人」から「フリーランスの仕事師」に転じる人も増えてくることでしょう。「産業再生機構」にはそういうカテゴリーに属する人が集められているようです。
米国では、1978年の連邦破産法改正を機に「ターンアラウンド・マネージャー」が誕生しました。「企業の行き詰まり」=「倒産」という単純な構図でとらえることなく、再生可能な事業分野を中心に、再建計画によって企業を再生させるとう認識が定着していったようです。もちろん、安易な企業存続ではありません。「ゴーイング・コンサーン」を見極めて、厳しいリストラを行う一方で、再生可能な事業分野や企業は有効活用するということです。
日本もいよいよそういう時代に突入です。企業の行き詰まりを後ろ向きにとらえることなく、産業再生のための新たなスタートと考えたいものです。
3.DESとDIP
再建計画の中で重要な手段となるのが、「D(ドラゴンズ)」=「DES(デット・エクイティ・スワップ)」です。借入金を株に転換し、債務を圧縮することを意味します。これまでの債権者は、株主に変わります。再建計画を順調に進め、株価の上昇や株式の再上場によって債権放棄した分のロスを取り戻すことを企図しています。
行き詰まった企業も、その企業の債権者も、双方が得をする仕組みです。しかし、それが実現するためには、真剣になって再建計画に取り組まなくてはなりません。
もうひとつ「D」があります。それは「DIPファイナンス」です。DIPとは「Debtor In Possession」の頭文字で、直訳すると「資産占有債務者」となります。これでは何のことかよく分かりませんが、要は再建計画スタート後に行われる融資のことです。
「ターンアラウンド・マネージャー」はこのDIPなども駆使して再建計画を実行に移します。DIPが行われるためには、当該融資が確実に返済されることが必要です。DIPが優先弁済されるような保証がつくのが一般的ですが、そもそも銀行がDIPに同意するためには、実現可能性の高い再建計画の立案が必要です。言うまでもなく、債務者(企業)自身が真剣になって再建計画に取り組む姿勢を示すことが大前提です。
DESやDIPを駆使して再生が実現すれば、債務者も債権者もハッピーになる「D」=「ドリーム」が現実のものとなります。
4.ゴーイング・コンサーン開示制度
ところで、今回(本年3月期)の決算から、ゴーイング・コンサーンの開示制度が導入されました。具体的には、今後1年間に債務不履行や債務超過の恐れがある場合など、その情報と対処策を決算資料に明記して公表しなければいけないという制度です。上場企業や資本金5億円以上の企業が対象となります。
企業情報の透明性と信頼性を高め、資本市場に対する投資を促進することを企図しています。「破綻懸念を自ら宣言する」制度ですので、業績の悪い企業にとっては厳しい制度です。しかし、債権放棄を伴う企業再生が普及している先進各国では、その前提としてこの制度が導入されています。平たく言えば、「借金を棒引きにしてもらうためには、自らの状況を予め公にしておく」というニュアンスです。
産業再生機構の第1号案件がどの企業になるかが注目を集めていますが、今回の決算発表でゴーイング・コンサーンに懸念があることを開示していない企業が対象になることは、論理的に認められません。
産業再生機構には間接的に公的資金(=皆さんの税金)が投入されることになる可能性が大きいと言えます。国民の税金が投入される以上、産業再生機構を利用する企業が約束事を守り、ゴーイング・コンサーン開示制度を遵守しているかどうかを十分に注視していきたいと思います。
(了)