今年最後のメルマガとなりました。年末に当たり、改めて、東日本大震災の犠牲者の皆様のご冥福をお祈りしますとともに、被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。また、今なお福島第一原子力発電所の事故対応に当たってくださっている約1万人の皆様に、心から敬意と感謝の意を表します。2011年、忘れられない年となりました。
1.「1対1対応」
大地震、大津波、福島第一原子力発電所事故に遭遇した2011年。東日本大震災は、日本の政策課題を先鋭化させ、緊急度を一層高めました。
経済成長、財政再建、デフレ。この3つがマクロ経済面における喫緊の政策課題であることを否定する人はいないでしょう。
しかし、経済成長と財政再建のいずれを優先するのか。現在、政府・与党で行われている消費税論争にも深く関係する論点です。
1990年代初頭から始まった「失われた20年」。その間、1990年代半ばから続くデフレとそれに伴う円高。デフレ解消も来年こそは実現しなくてはなりません。
これら3つの課題に対処するための考え方を、「ティンバーゲンの定理」に基づいて再整理します。「ティンバーゲンの定理」とは「ひとつの政策目的(課題)に対処するためには、ひとつの政策手段が必要」とする政策科学の原則。
つまり、「目的」と「手段」の「1対1対応」を意味します。複雑に考えずに、あえてシンプルに考え、再整理します。
デフレ対策として、日本経済の需給ギャップを埋めるために財政出動。財政再建のためには大型公共事業の見直し。それに伴って捻出された財源で成長産業・次世代産業(医療、農業、環境等)の育成策を実施。いずれも「1対1対応」で「ティンバーゲンの定理」に適合しています。
以上は、いずれも財政政策(予算)の範疇。経済成長、財政再建、デフレという政策課題の「ファースト・トライアングル」は、整合的に対応可能です。
マクロ経済政策は財政政策と金融政策から構成されています。次に、金融政策の範疇で解決可能な政策課題を考えます。
2.「理」に適った対応
東日本大震災は経済活動を停滞させ、需給ギャップを拡大しました。福島第一原子力発電所の事故処理や周辺地域の除染のために、膨大な財政負担も発生。復興債のファイナンスが問題となります。
これだけの国家的危機に際して、金融政策を担う中央銀行が無関係、無関心でよいわけがありません。金融政策の「理」に適うのであれば、中央銀行としても最大限の努力を行う責任があります。
東京電力の社債による資金調達の可否が来年早々に問われることになるでしょう。原発再稼働が不可となれば、東京電力に限らず、全ての電力会社の原発は資産価値を喪失。電力各社の社債(電力債)への対応が重要な政策課題となります。
電力債の資産価値が問われる展開となれば、それらを保有している金融機関や機関投資家の財務内容にも波及。言わば、金融システム全体の問題。金融システム危機です。
金融システム危機となれば、中央銀行の出番です。ここで働かない中央銀行は中央銀行とは言えません。
復興債や電力債を担保として中央銀行が資金供給を行えば、財源問題にも金融システム危機にも対応できます。
中央銀行が資金供給を行うということは、中央銀行のバランスシートが拡大するということです。「理」に適う対応の結果ですから、何ら問題はありません。
偶然ですが、中央銀行がバランスシートを拡大させることはデフレ対策の選択肢のひとつ。この選択肢に金融政策論的に反対の論者もいますが、「理」に適った対応の結果論ですから、問題はありません。
復興財源、金融システム危機、デフレという政策課題の「セカンド・トライアングル」。「理」に適った中央銀行の行動、金融政策の範疇で整合的に対応可能です。
3.見義不為無勇也
孔子の「論語・為政篇」に曰く「見義不為、無勇也(義をみてなさざるは勇なきなり)」。その含意は、「正しいと知っていながらそれを実行しないのは、勇気のない臆病者である」。
辞書等によれば、「正しいと思っても、自己保身のために実行しないこと」、「何かの圧力に屈して物ごとを正視せず、流れに身をまかせること」と解説されています。
「ティンバーゲンの定理」に基づく「ファースト・トライアングル」への対応。整合的な政策対応が可能ながら、大型公共事業の見直しに関しては「見義不為無勇也」。
八ッ場ダム工事継続の決定は間違っています。来年度の予算原案に経費が計上されましたが、今からでも遅くはありません。止めるべきです。
現在までに既に3000億円投入しています。国土交通省によれば、完成させるまでにあと1500億円ということですが、実際にはもっと膨らむでしょう。少なく見積もってさらに3000億円。合計で6000億円規模。
過去に建設されたダムは大小合わせて1000個。現在建設認可が出ているダムは245個。そのうち建設中は150個。八ッ場ダムはそのひとつ。1個を3000億円で150個造れば45兆円。しかも建設費のみであり、その後の維持管理費は含まれていません。
ダムだけではありません。道路、空港、港湾なども同様の見地から見直すべきでしょう。
「理」に適った「セカンド・トライアングル」への対応。中央銀行の「理」に適った対応が可能ながら、現状は「見義不為無勇也」。震災復興や金融システム危機に対して、もっと能動的かつ予防的な対応を期待したいものです。
最近の中央銀行の常套句は「フォワードルッキング(先を見越した)な金融政策」「プリエンプティブ(先見的)な金融政策」ですが、看板倒れと言われないように頑張ってもらいたいものです。国の重要組織の一員としての自覚が足りない気がします。
政府・与党、政府・日銀が一体となって、2012年も政策課題の解決に向けて邁進します。国民の皆様の負託に応えなければなりません。
(了)