「なでしこジャパン」がスウェーデンに快勝。このメルマガを読んで頂く頃には米国との決勝戦が終わっているかもしれませんが、「なでしこジャパン」には頑張ってほしいですね。地震、津波、原子力発電所事故。大災害のことを考えると沈鬱になりがちな日々ですが、久々に明るい話題を提供してくれました。がんばろう東北。ガンバレ「なでしこジャパン」。
1.格下げラッシュ
PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)が再び市場の関心の的になっています。
7月11日のユーロ圏17ヵ国の財務大臣会議において、ギリシャに対する第2次支援策の協議が難航。
オランダのデヘーヤル財務大臣は「ギリシャのデフォルト(債務不履行)の可能性をもはや排除できない」と発言。欧州市場に端を発する世界的な株安連鎖となりました。
ギリシャだけではありません。リーマンショックを契機に住宅バブルが崩壊したスペインの単年度(2010年)財政赤字はGDP(国内総生産)の9.2%。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から支援を受けるギリシャ、ポルトガル並みの水準です。
スペインでは17の自治州の財政赤字も膨張。国・地方合計ベースの財政赤字規模は危機的水準に入っています。
累積債務はイタリアが最悪。GDPの約120%に達しています。不祥事続きのベルルスコーニ首相の指導力は低下しており、財政健全化のための歳出削減計画の前途は多難です。
12日、米格付会社ムーディーズはアイルランドの政府債務を格下げ。投機的水準を意味する「Ba1」としました。5日にはポルトガルの政府債務も「Ba1」に格下げしています。
格下げを契機に、アイルランドやポルトガルの国債利回りは6%台に急上昇(価格は下落)。ヘッジファンドなどの投機筋が当面の損切り(ロスカット)目安としている「7%」が視野に入ってきました。
財政を巡る混乱はPIIGSだけではありません。米国では、政府債務が法律で定められた上限(14.3兆ドル)を突破する危機に直面しています。
議会が8月2日までに上限引き上げに同意しないと、政府は新規国債を発行できず、今年度(期末は9月)は約1兆ドル(約80兆円)の歳入欠陥。
13日、ムーディーズは米国債も格下げ方向で見直すと発表。「米国債が短期的なデフォルトになるリスクが高まっている」と指摘。14日には、S&P(スタンダード&プアーズ)も格下げ方向の見直しを発表しました。
米国では野党(共和党)が下院多数派であり、上下両院の多数派が異なる「ねじれ議会」。共和党は上限引き上げに賛成せず、オバマ大統領は対応に苦慮しています。
参議院で野党が多数を占める日本の「ねじれ国会」。やはり、野党が特例公債法案の採決に同意せず、10月には歳入不足から政府機能が停止しかねない情勢。
日本国債も、2月にはムーディーズ、4月にはS&Pが格下げ。両社とも、さらなる格下げの可能性に言及しています。
今年は日米欧の格下げラッシュ。格付機関の判断が、世界経済全体に影響を及ぼすかもしれません。
2.豚肉とマイナス金利
日欧米が財政問題に苦慮する一方、今や世界経済の牽引車となった中国はインフレに直面。6月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比プラス6.4%。リーマンショック直前の2008年6月の同プラス7.1%以来、3年振りの高水準を記録。
3月の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)では、今年の経済政策の最優先課題はインフレ抑制と表明。年間CPI上昇率を4%程度にとどめるとしたものの、目標達成は困難な情勢です。
物価上昇の中身にも特徴があります。CPIを構成する品目の3割を占める食品価格の上昇が顕著。6月は同プラス14.4%であり、食品以外の同プラス3.0%と対照的です。
さらに、食品価格上昇の中身も特徴的。ここ数カ月は豚肉の高騰が著しく、5月は同プラス40%、6月は同プラス57%の「暴騰」。
今年の春、子豚に感染症が広がり、豚肉の出荷量が減少。価格上昇を見越した生産者の出荷抑制、高騰を見越した投機筋の買い占めなど、特殊要因も影響しています。投機筋が資金を蓄えているのも、金融緩和とインフレの副産物と言えます。
原因が何であれ、中国料理に欠かせない豚肉をはじめとする食品の高騰は、庶民生活を圧迫。国民の不満につながり、社会不安を高めています。
1989年の天安門事件当時も、物価上昇、生活圧迫、格差拡大などが社会不安を高め、事件の潜在的原因になりました。
こうした経験から、中国政府はインフレ抑制に腐心。中国人民銀行(中央銀行)は昨年秋以降、既に5回の利上げを実施。
今年第2四半期(4月から6月)のGDPは同プラス9.5%。日米欧に比べると異次元の高さですが、それでもリーマンショック後の2009年第2四半期(同プラス8.2%)以来、2年振りの低水準。
景気に減速感が出ているものの、中国政府は景気対策よりもインフレ抑制を優先する政策スタンスを維持しています。
それでも預金金利は3%台。金利が物価上昇率を下回る事実上の「マイナス金利」状態が続いています。
今年後半の中国の政治経済は、豚肉とマイナス金利の動向に要注目です。
3.奇妙で矛盾した市場の理屈
欧州、米国、中国のこうした状況は、日本経済にも影響を及ぼしています。まずは為替。欧米の財政不安を契機に、円高が進んでいます。
13日、14日の外国為替市場では78円台半ばまで円が急伸。東日本大震災直後の急激な円高以来、4カ月ぶりの円高水準です。
東日本大震災直後は、日本経済の悪化に起因する世界経済の低迷を嫌気して、相対的に安全資産と見なされていた円に資金流入。何だか奇妙な市場の理屈です。
今回も、欧州や米国の財政不安に端を発したユーロ安、ドル安懸念を映じた円買い。しかし、日本の財政も誉められたものではありません。
フローベース(毎年)、ストックベース(累積)、いずれの財政赤字対GDP比も欧米よりもひどい世界最悪水準。それでも、円買いとは実に奇妙な市場の理屈。
円買いを進める奇妙な市場の理屈は、今後さらに強まるかもしれません。
第1に米国景気の先行き不透明感。先週発表された雇用統計が予想より悪く、景気の減速懸念が台頭したという理屈。日本より米国の景気の方が良い気がしますが、市場の理屈はそうではないようです。
第2に米国金融政策のさらなる緩和。13日、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が議会証言で追加金融緩和に言及。日本も超金融緩和を継続中ですが、米国の一段の金融緩和は円高要因というのが市場の理屈。但し、バーナンキ議長はまだ言及したのみです。
第3は日本が債権大国であること。日本は米国債を中心に250兆ドルの海外資産を保有しており、世界最大の対外債権国。日本がすぐに財政危機に陥り、円が暴落するリスクは少ないという市場の理屈。しかし、その一方で日本国債の格下げを当然視するなど、市場の理屈は身勝手です。
第4に、東日本大震災の復興需要による景気の急回復予想。復興が遅れている、日本政府の対応は遅いとコメントしている市場アナリストやエコノミストが、その一方でこうした解説をする奇妙な市場の理屈。
要するに、みんなが円買いに走るので為替差益を狙って自分も円買い。できるだけ円高が進む方が儲けが大きいので、円高要因をいろいろ語って円高を煽る。その同じ口(くち)で円高による輸出産業へのマイナスを語る。
こういう奇妙かつ矛盾した市場の理屈を語るエコノミストや市場関係者が、日本人でないことを祈ります。本当に日本のことを考えているのか、本当は自分のことを考えているのか。
最近の奇妙かつ矛盾した市場の理屈を考えながら、日本人として複雑な心境になっています。市場には自省を求めたいと思いますが、政治が最も自省すべきであることは言うまでもありません。
(了)