政治経済レポート:OKマガジン(Vol.229)2010.12.15


国会の「ねじれ現象」に直面し、政府・与党としては四苦八苦、七転八倒。通常国会が思いやられます。経済でも、政策当局と動きと市場の動きが逆行する「ねじれ現象」が生じています。今後の市場や景気の動きには要注意です。


1.インフレの中国

中国でインフレ懸念が高まっています。中国国家統計局が11日に発表した11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.1%上昇。2年4か月振りに5%台となり、リーマンショック前の水準に戻りました。

物価安定を目指す政府目標(3%)を5か月連続で上回り、とくに野菜、加工食品等の食料品が急上昇。食品価格全体では、前年同月比で11.7%上昇。スーパーや食料品店では消費者の買い控えも起きているようです。

11月の卸売物価指数(PPI)も前年同月比6.1%上昇。10月の5.0%を大きく上回りました。銅、アルミなどの非鉄金属は同16.5%上昇、石油、石炭などの燃料は同9.8%上昇するなど、原材料価格も急騰。生産活動にも影響が出始めています。

公共料金にも余波が及んでおり、上海市の上下水道料金は11月に値上げが発表されました。値上げ幅は実に21.7%。消費者に影響が出るばかりでなく、工業用水にも値上げが及び、生産コストにはねかえることは必至です。

こうした情勢を受けて、12日、中国経済工作会議(中国共産党と中国政府による経済政策の企画立案会議)が来年の経済政策運営に関して「物価水準の安定を最優先し、穏健なマクロ経済運営を加速する」との方針を発表。

要するに、インフレや不動産バブル、金融バブルに対応するため、金融政策を引締め方向に転換するということです。

既に10月11日以降、預金準備率を3度引き上げたほか、貸出・預金金利も10月20日に引き上げ。そういう意味では既定路線でしたが、中国経済工作会議が正式に方針を決めたことで、今後の市場への影響が注目されます。

中国が金融引締めに転換する一方で、日米欧は金融緩和を継続。日米欧との金利差拡大は、中国への資金流入を助長。かえってバブルを煽る矛盾に陥るリスクを孕んでいます。

中国の株式信用取引残高も急拡大しており、直近では104億元(約1300億円)。今年3月末に信用取引が解禁され、8か月目で初めて100億元の大台を突破しました。

来年の世界経済は、牽引役の中国がインフレを制御しつつ、労働人口増加を吸収可能な8%程度の成長を維持できるかどうかにかかっています。

2.ディスインフレの米国

今や米中のG2時代。一翼の中国がインフレを懸念する一方、米国でも株価が年初来高値を更新。14日には2年3か月振りの水準まで上昇しました。発表された11月の小売売上高が市場予想を上回り、景気回復を見込んだ買いが先行した展開でした。

中国ほどではないものの、米国景気も総じて堅調。13日に出揃った米国IT(情報技術)主要9社の四半期決算をみても底堅く、世界の景気回復、IT投資の伸びが米国関連企業の業績を底上げしているようです。

とくに、クラウドコンピューティング関係の収益拡大が著しく、この分野に強い一社は売上高が前年同期比で46%増、純利益は同2.2倍という好調振り。

政策当局や政府の動きも景気回復を後押ししています。米連邦準備理事会(FRB)が先月大規模な追加緩和に踏み切ったことで、企業や消費者の不安心理が後退。クリスマス商戦の底堅い動きを支えています。

今月3日、米国と韓国の自由貿易協定(FTA)交渉が合意。政府間署名から3年6か月を経ての合意であり、早期批准、来春の早期発効に向けて動き出しました。

米韓両国とも国内産業の不満を抱えつつも、国全体で市場拡大のメリットを享受するウィンウィン(Win-Win)の関係を目指しており、経済全体のムードを後押ししています。

6日には、オバマ大統領が共和党指導部と大型減税(ブッシュ減税)の延長案に合意。市場にとってはサプライズであり、景気回復期待に寄与しています。

しかし、その一方で物価はディスインフレ傾向。価格変動の大きいエネルギーと食料を除いたベースでの上昇率は過去最低水準にあります。

消費者心理が好転しているのは、年間1万2千ドル(約100万円)以上の買い物をする一部の高所得者層という統計もあり、物価を押し上げるほどの消費動向にはならないかもしれません。

失業率は高止まり傾向にあり、所得回復が遅れ、物価上昇率がさらに低下することもあり得ます。政策当局者もディスインフレがデフレに深化することを懸念しています。

こうしたリスク要因に鑑み、業績が回復傾向にあるIT、自動車等の有力企業も、雇用拡大には慎重姿勢。3日に発表された11月の民間部門雇用者数も前月比5万人増と、前月の16万人増から失速。

米景気は斑(まだら)模様という表現がピッタリです。

3.デフレ日本の「悪い金利上昇」

G2両国に挟まれた日本は、米国以上に斑模様。というより、政策効果の反動もあって、10月から12月期の国内総生産(GDP)や足許の経済指標は悪化が濃厚です。しかも相変わらずのデフレです。

本日(15日)発表された日銀短観でも景況感が悪化。リーマンショック後の立ち直りが始まった2009年3月以来、7期振りの悪化です。

こうした中で、長期金利が上昇しているのが気になります。本日の新発10年物国債利回りは約1.3%まで上昇。7か月振りの水準です。

これは、米国でも長期金利が上昇していることの影響です。米国では、ブッシュ減税延長などもあって、景気の先行きに対する楽観的な見方と、減税延長による財政悪化への警戒感が同時進行で高まっています。

こうした中で、14日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文に金利情勢に言及している部分がなく、FOMCは長期金利上昇を容認しているとの見方が浸透。長期金利は約3.5%まで上昇しました。

先月、米連邦準備制度理事会(FRB)が決めた国債購入の拡大策は、長期金利を低下させ、企業や家計の下支えを企図したものの、実際には逆に動いています。

日本でも、日銀が包括的金融緩和策を決定し、本日以降、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)購入を開始する動きを示している中での長期金利上昇です。景気回復を反映した長期金利上昇は歓迎されるべきですが、今回はそうではなく、言わば「悪い金利上昇」です。

日米とも政策当局の動きと市場の動きの逆行現象が生じています。逆行の背景は、米国、日本での大規模な金融緩和、財政拡大の副作用が出始めているのかもしれません。要注意です。

中国も金融引締めに転じたとは言え、今日に至るまでにジャブジャブのスーパー金融緩和を行ってきたことから、「悪い金利上昇」に見舞われるリスクがあります。

米国、中国、日本は、経済規模では世界のビッグスリー。この3か国が揃って「悪い金利上昇」に直面すると、米中日のみならず、世界の景気に悪影響を与えるリスクが高いと言えます。

年末年始から来春にかけて、ビッグスリーの金利動向には要注意です。

(了)


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