政治経済レポート:OKマガジン(Vol.205)2009.12.13

臨時国会が終わりました。中小企業金融円滑化法と郵政株式処分凍結法も可決成立し、臨時国会でのミッションは果たせたと思います。政権全体としては補正予算案を策定し、今度は税制改革と当初予算案。所管事項としては郵政改革の検討も本格化しています。年末年始は仕事一色で、通常国会も1月早々から始まりそうです。


1.クォーターアジアとエマージングハーフ

2月1日、EU(欧州連合)リスボン条約が発効しました。新たに設けられた初代大統領にはファンロイパイ氏(ベルギー前首相)、初代外相にはアシュトン氏(英国出身の前欧州委員)が就任。バローゾ欧州委員長(元ポルトガル首相)を加えた3トップ体制です。

加盟国は27ヵ国、総人口5億人、域内総生産(GDP)は12兆ユーロ(約1600兆円)に及び、米国を上回ります。

英国のチャーチル元首相が1946年に提唱した欧州合衆国構想に端を発し、1951年ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)、1957年EEC(欧州経済共同体)、1967年EC(欧州共同体)、1993年EU(欧州連合)と進化。

1999年の経済統合(単一通貨ユーロの導入)に続き、今回は政治統合を実現。国際社会は新たな段階に入りました。

国際社会の変化は新興国と先進国の間でも起きています。オイルショック後の1975年、冷戦下の西側6ヵ国(米英仏独伊日)の首脳会議(サミット)がスタート。翌年にはカナダが加わってG7体制が確立。以来四半世紀、G7は財務大臣・中央銀行総裁会議とサミットを舞台に世界経済を舵取りしてきました。

しかし、冷戦終結に伴いロシアが参加し、1998年からはG8に発展。2000年代に入ると、中国、インド等の新興国(エマージング国)のプレゼンス向上が著しく、今年9月のピッツバーグサミットでは、今後は新興国を含めたG20を国際交渉の中心とすることで合意。国際社会はG20体制に移行しました。

日本はもはやG7の一員という特別意識で自尊心を満たしている場合ではなく、G20体制への対応方針を固めるのが急務です。

それを裏付けるようにG7の経済的プレゼンスは後退。世界総生産(GDP)に占めるG7のシェアは1980年代には50%超でしたが、IMF(国際通貨基金)の予測では2014年には36%に低下。

一方、新興国は低コストの労働力を武器に急成長。中国、インドを含むアジア新興国の2014年のシェアは25%超、世界の新興国全体では50%超となる見通し。クォーターアジア、エマージングハーフの出現です。

2010年代は日本の国家戦略が問われる局面です。

2.己丑と庚寅

世相を漢字一文字で表す「今年の漢字」。2009年は「新」に決まり、12月11日、京都清水寺の森清範貫主が揮毫(きごう)しました。

米国でオバマ新大統領、日本で鳩山新首相が誕生。新型インフルエンザという迷惑な話から、イチロー選手の大リーグ新記録(9年連続200本安打)まで、たしかに「新」のつく話題の多かった1年です。

2009年の干支は「己丑(つちのとうし)」。暦によれば「新しい秩序が生まれる」という含意。まさしく「新」の年となりました。しかし、新政権が誕生してもすぐに様々な問題が解決されて順風満帆というわけにはいきません。

少々気が早いですが、2010年の干支は「庚寅(かのえとら)」。「庚」は「更(あらた)まる」という意味で、草木の生長が行き詰まり、新たな形に変化する状態を示します。また、「寅」は「動く」という意味があり、春が来て草木が芽吹き始める状態を表します。

来年は、今の日本が抱える構造的な問題は対症療法では解決できないことを悟り、これまでのやり方が行き詰まり、限界状況に直面して本当に新たな姿に変わっていく。国全体でそういうプロセスを経験する予感がします。

通商や外交も然り。西側先進国が世界経済をリードし、東西冷戦が国際政治の基本構造であった時代の「過去の常識」に囚われた思考パターンは「現在の非常識」であるかもしれません。

今や中国とインドが世界経済のエンジン役となり、東側諸国が崩壊して既に20年。米中関係も大きく変わり、日本はそうした変化を踏まえて対応する必要があります。

新政権が誕生して3カ月。実感として、霞が関はそうした認識が十分ではないという印象です。財界や学界の一部にも同様の雰囲気を感じます。「過去の常識」に囚われた人々です。

2010年は「新」たな形を「始」めるためにドンドン「動」き、日本が良い方向に「進」む年にしなければなりません。

来年の「今年の漢字」に「始」「動」「進」といった漢字が選ばれるように、国民全員が固定観念を再考し、「過去の常識」に挑戦することが大切です。

3.ケネディ大統領

12月10日、オスロでのノーベル平和賞受賞演説で、オバマ大統領が戦争を正当化。是非は別にして、オバマ大統領も固定観念に驚くべき挑戦をしたと言えますが、欧州諸国を中心にオバマショックが広がっています。

「戦争は人類が折り合わねばならない現象だ」

「正しい戦争の概念について考え直さなければならない。平和を維持するために戦争という手段が果たす役割もある」

「武力は人道的な理由があれば正当化される。何もしなければ後により大きい代償を伴う介入につながり得る」

「平和が望ましいと信じているだけでは平和は実現できない。平和は犠牲を伴う」

アフガニスタン増派を表明したオバマ大統領としては、増派の正当性を訴えるための論陣を張ったという印象ですが、欧州諸国は概ね批判的です。

一方、米国では「平和に対する理想主義と決別し、米国は例外的な存在であるとする戦時大統領の姿勢を明確にした」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)と肯定的な論評も見受けられ、欧州諸国とは対照的。オバマ大統領の真意はわかりませんが、米国という国家の深い部分を垣間見た気もします。

1961年に就任したケネディ大統領は戦争を「人類共通の敵」と表現。ベトナムからの早期撤退を模索したケネディ大統領は1963年11月に暗殺され、ベトナム戦争は1975年まで続きました。

いずれにしても、日本を取り巻く国際社会の深層は単純ではなく、その力学も時代とともに変化しています。そうした変化に的確に対応できなくなったことが、日本の閉塞状態と混迷の一因です。

政界、官界、財界、学界、あらゆる分野において、「過去の常識」に囚われず、環境変化に対応することが必要です。ひとり一人の個人も同様です。

2010年の「今年の漢字」に「始」「動」「進」といった漢字が選ばれるように、ひとり一人が行動することが大切です。

Ask not what your country can do for you, ask what you can do for your country.

「国があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国に対して何ができるかを問いなさい」。ケネディ大統領の名言は今の日本にも当てはまります。

(了)


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