臨時国会が開会しました。鳩山政権の政策や運営について、与党・民主党と野党・自民党の本格的論戦が始まります。僕の所管分野では、中小企業金融円滑化法案と郵政株式売却凍結法案を提出する予定です。
1.何事も基本が大切
内閣府副大臣を拝命している政府の一員の立場としては、政府提出法案が無修正で可決されることを目指すのが仕事です。
もっとも、僕自身は政府の一員である前に議会人。与野党の論戦を受けて、法案が国会で修正されることは議会人としては良いことだと思っています。それでこそ、憲法に「国権の最高機関」と定められる国会の面目躍如。
その場合、修正協議を促し、採決を左右する立場にある各委員会の委員長、理事の責任が一段と重くなります。
いずれにしても、普通選挙の下での本格的な政権交代を経験し、日本の議会政治は新しいページを開きました。今後が楽しみです。
そして、徴税権と歳出権が「権力の源泉」。歳入歳出の予算を決定するのが国会の最大の権能。予算の内容は全ての政策を規定します。予算編成は政府が行いますが、決定するのは「国権の最高機関」である国会の仕事です。
さらに、その予算の執行状況の適否を検証する決算の審議、承認も国会の重要な役割。前年度の決算を審議するスピード感が求められます。
これらのことは議会制民主主義の基本です。国際情勢の変化についていけず、経済も社会も閉塞感がある日本の活性化のためには、国会に限らず、あらゆる分野で原理原則を再整理、再認識し、基本に立ち返って物事の当たることが必要です。
郵政改革も同じです。2004年9月10日の閣議決定で始まった郵政民営化。その閣議決定の基本は、第1に郵政事業の改革によって国民の利便性を最大限に向上させること、第2に公的部門に流れていた資金を民間部門に取り戻すことでした。
ところが、郵政事業の現状は国民の利便性を低下させているうえ、公的部門に流れる資金のウェイト(郵貯総資産に占める国債比率)は40%(2004年)から80%(2008年)に倍増しています。
その現状を見直すことに加え、「かんぽの宿」売却問題に象徴される不透明な運営を改めるために、10月21日に新たな閣議決定を行いました。
何事も基本が大切です。郵政改革も基本に立ち返り、国民の利便性を高めることに腐心すべきでしょう。
2.火の車
10月16日、米財務省は2009会計年度(08年10月から09年9月)の財政赤字が1兆4千億ドル(約130兆円)に達すると発表。過去最大の08会計年度(4548億ドル)の3倍以上であり、1年間の財政赤字対GDP(国内総生産)比は約10%。第2次世界大戦末期の1945年以来の最悪水準を記録しました。
世界同時不況に対応した財政出動に伴う止むを得ない結果ですが、ドルや米国債への信認を低下させ、ドル暴落や金利急騰の潜在的リスクを高めていることは否定できません。リーマンショック前は60%台だった財政赤字対GDP比は、IMF(国際通貨基金)の予測では2014年に100%を超える見込みです。
ガイトナー財務長官は「オバマ大統領は経済を回復させて財政を持続可能にすると約束している」との声明を発表。「火の車」となった財政事情に対する市場の懸念を緩和するため、オルザグ行政管理予算局長も「財政正常化に向けた新たな提案」に言及したものの、「焼け石に水」の感です。
もっとも、日本にとっては「対岸の火事」ではありません。借金大国日本の財政赤字対GDP比は188%(2007年)。IMFの予測では、米国が100%超となる2014年には246%。
しかも、来年度概算要求は過去最大の95兆円超。歳出規模を相当思い切って圧縮しなければ財政赤字対GDP比の悪化ペースは早まります。
そもそも、財政赤字対GDP比を改善するためには、毎年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)が黒字化して分子(財政赤字)が減少するか、経済成長に伴って分母(GDP)が増加する必要があります。
PBが黒字化するためには、歳出削減、歳入増加(増税)が前提です。そのことを勘案すると、結局、歳出削減、増税、経済成長の3つが財政健全化に向けた鍵となります。
PB見通しについては、小泉政権下の2002年1月、「改革と展望」(構造改革と経済財政の中期展望)の参考資料として初めて試算が公表されました。
以来、毎年1月の経済財政の中長期方針決定に際して最新見通しが公表されていますが、2002年~06年は「改革と展望」、2007年~08年は「進路と戦略」、2009年は「10年展望」とタイトルが変遷。2007年からは年央にも最新の経済情勢を反映した改定値が公表されています。
「10年展望」では、従来の目標であった2011年のPB黒字化はほぼ不可能として、ある程度の歳出削減と増税を行ってようやく2018年に黒字化すると試算。さらに今年6月の改定値では、経済情勢の悪化に伴って黒字化は2021年に後ズレするとしています。
新政権でも、歳出削減、増税、経済成長の3点を加味した経済財政の中長期見通しを明らかにすることが必要となりますが、従来と発想と前提を転換して新たな切り口を提供することが期待されます。
3.過去債務
新たな切り口を見出すために、PBの内容に改めて目を向けることが必要です。PBは一般会計ベースと考えられがちですが、実はSNA(国連統計局の国民経済計算)ベースであり、特別会計や独立行政法人の歳出を含んでいます。
逆に言えば、旧政権下でPBが改善しなかったのはそれらの見直しが進まなかった証左であり、新政権では改革を進めることが期待されます。
また、民主党がマニフェストで掲げた一般会計と特別会計の合算予算も忘れてはなりません。財政法、会計法等の改正が必要なため、今年度の最終的な予算案は従来ベースとしつつ、そこに至る議論は合算ベースで行うのも一案です。
再来年度予算からは、法改正を行ったうえで合算予算に正式に転換すべきでしょう。大変な作業になると思いますが、何としても取り組まなくてはならない課題です。
さらに、財政赤字を今年度分まで(55年体制下の過去債務)と来年度以降分(新政権下で発生する新債務)に分別管理することも検討に値します。
膨大な「過去債務」を生み出したのは旧政権。財政健全化に関する論戦の際には、「過去債務」と「新債務」を峻別した議論を組み立ててみたいと思います。
旧政権下において、不合理な仕組みや不公正な動機で蓄積された埋蔵金等を充当して「過去債務」を減らす工程を明示し、市場に財政健全化方針を示すことは経済運営に対する信頼感を高めます。
経済財政の中長期見通しを試算する際の前提条件や運用についても、旧政権下での不透明性を改善することが必要です。
物価、金利、生産性等の定義、前提に関して、市場と情報を共有することが安定的な経済運営の重要な鍵となります。
非連続的な政権交代が起きた事実を再認識し、予算のイノベーションや経済運営の改革にチャレンジしなければなりません。
(了)