政治経済レポート:OKマガジン(Vol.201)2009.10.11

10月に入りました。担当である金融、郵政改革、地域主権推進、拉致対策の仕事のみならず、内閣府の関連業務等に追われて慌ただしい日々が続いています。忙しいだけではなく、マスコミ対応のほか、週末は政務三役(大臣、副大臣、政務官)には原則として在京義務がありますので、なかなか地元に帰ることができません。地元の皆さん、申し訳ありません。


1.前線の兵士

新政権が発足して3週間。評価はいろいろあるでしょうが、何とか無事にスタートしたようです。今年度1次補正予算の見直し、来年度当初予算の概算要求、今月末からの臨時国会等に向けた準備が進んでいます

思えば、昨年の今頃はリーマンショック直後の世界金融危機。金融市場のクラッシュや金融システム不安が懸念されていました。

それから1年。危機的な状況は脱しましたが、景気動向は予断を許しません。とくに、雇用情勢のさらなる悪化に備えることに加え、年末・年度末の中小企業・零細事業者の資金繰り対策が急務です。

中小企業・零細事業者は「貸し渋り・貸し剥がし」が続いていると主張する一方、金融機関は「貸す先がない」と嘆く矛盾した状況が続いています。こうした状況を打開するために、亀井大臣の指示の下、現在、「貸し渋り・貸し剥がし」対策法案の検討を進めています。

もっとも、対策法案は対症療法に過ぎず、そうした状況を生み出している根本原因を解決しなくてはなりません。

喩えて言えば、奮闘する企業と金融機関は前線の兵士。参謀本部の誤った戦略に翻弄され、十分な兵站補給もなく敢闘を命じられても、兵士は消耗するばかりです。

地域経済は疲弊し、中小企業の経営状況は厳しく、金融機関は積極的に融資できないという悪循環を脱するためには、地域経済の疲弊を招いている根本原因を解決することが必要です。

根本原因とは何か。是正が叫ばれても一向に改善されない一極集中、特徴ある地域経済の発展を阻害する中央集権、公共事業偏重の財源配分に伴う地域の産業振興の立ち遅れなど、日本の硬直化した国土政策、産業政策、景気対策や構造問題を解決しない限り、中小企業の業績や資金繰りはなかなか改善しません。

前線の兵士が壊滅しないうちに、根本原因を解決することが鳩山政権の使命です。

2.利他の精神

リーマンショック以降の国際社会は、資本主義やコーポレートガバナンスのあり方についても自問自答を続けています。

経済学の周辺領域に登場するのが「自利」と「利他」という概念。企業や金融機関が「利他」を忘れて「自利」ばかりに走れば、経済は刺々しく、荒んだ様相を呈します。

かつての日本経済の絶頂期は、護送船団方式と呼ばれたビジネスモデルによってもたらされました。金融機関を介して企業や産業を保護・育成するという間接金融資本主義に立脚した相互依存モデルです。

金融機関はメインバンクとして企業を支え、企業が発展することで金融機関も恩恵を受けるという「Win-Win」の関係でした。

企業や金融機関がそれぞれ「おかげさまで」という「利他」の精神を忘れ、お互いに「自分だけは」という「自利」を追求すれば、日本経済が衰退するのは論理的必然と言えます。

資本主義やコーポレートガバナンスのあり方は国際的時流との整合性が求められますので、護送船団方式に回帰すべきと主張しているわけではありません。しかし、日本として追求すべき経済社会の文化、規範、価値観を育む不断の努力を行うことが求められます。

「自利」と「利他」はもともと仏教用語です。「おれがおれがのが(我)を捨てて、おかげさまでのげで生きろ」。あるお寺の山門で見かけた一節が思い浮かびます。

日本文化、東洋文化が育んできた価値観を世界に伝えていくことも、国際社会の中で主体的な外交や経済交渉を目指す鳩山内閣の使命です。

3.三人の番人

鳩山内閣の使命や仕事は様々な角度から定義できます。いわゆる「55年体制」の打破という視点からは、自民党長期政権の間に蓄積された「膿」を摘出することも使命です。前項の根本原因の解決とも言えます。

そのためには、今年度1次補正予算の見直し、来年度当初予算の編成において、徹底的に無駄を廃して「膿」を出す努力が欠かせません。財政健全化を図り、予算の中身を経済効果のある国民ニーズに合った内容に変えていくことが期待されています。

一方、足許の景気は予断を許さず、経済運営に関しては臨機応変な対応が求められます。鳩山首相も来年通常国会での今年度2次補正予算編成の可能性について言及しました。

たしかに、経済に「点滴」を打つ必要性を問われる局面もあるかもしれません。柔軟な姿勢で経済運営に当たることが肝要ですが、編成しないですめばそれに越したことはありません。

「膿」を摘出し「点滴」を打つ。言わば、手術をしながら輸血するイメージですが、その際に重要なのは、執刀医である内閣とともに、患者である日本経済の心電図等を監視する「三人の番人」。

まず、財政健全化を担うのは「財政の番人」である財務省。国債によって調達された資金が、時代遅れの事業や経済効果の乏しい使途に使われれば、日本経済を一段と脆弱な状況に追い込みます。

放漫財政は金利上昇を通じて不況に喘ぐ企業の資金繰りを圧迫。国債管理政策や長期金利の動向は株式市場や為替市場に伝搬し、日本経済全体に重大な影響を与えます。

一方、「市場の番人」は金融庁、「通貨の番人」は日銀。この「二人の番人」は、日本経済安定のために財政赤字問題に厳しい姿勢で臨むとともに、心電図を見誤ることなく、金融市場や為替市場、さらには景気動向に的確に対処するのが職責です。

「財政の番人」が「二人の番人」と協力して財政健全化を実現するのか、あるいは歳出官庁等と結託して放漫財政を深刻化させるのか。「三人の番人」の力学、そして執刀医である内閣と「三人の番人」の関係は日本経済に重大な影響を与えます。

「三人の番人」に適切なガバナンスを促すのも、鳩山内閣の使命です。

(了)


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