元日銀マンの大塚耕平(Otsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです。
1.米国のマネー戦略
6月7日、米国の減税法案がブッシュ大統領の署名によって成立しました。ポイントは、所得税率引下げ(2006年までに3回の段階的引下げ)と相続税の2010年完全撤廃の2点です。大統領選挙時の公約を実行したことになりますが、その背景は、共和党の支持層(富裕層)の視点から税制の公平化を進めたということばかりではなく、米国への投資資金の呼び水政策とみるべきでしょう。とくに相続税撤廃については、本当に実現すれば多くの外国人投資家が資金や財産を米国にシフトさせることになります。そうすることによって、企業投資や国債ファイナンスのための資金を米国金融市場に集めることを企図しています。
ブッシュ政権は長くても2008年まで(2期8年)ですから、本当に2010年の相続税撤廃が実現するかどうかは定かではありません。しかし、こうしたマネー戦略を大胆に進めていること自体が日本との大きな違いです。日本は構造改革論争で盛り上がっていますが、その視点が国内の既得権益打破とか政権争いに矮小化されているような気がします。もちろん、そうした視点自体を否定する訳ではありませんが、日本が国際経済競争にどうやって立ち向かっていくのか、そのためのマネー戦略をどう構築するのか、日本に投資資金を呼び込むために財政制度や金融市場をどのように改革するのかという視点で考えていくべきではないでしょうか。今の政治(政治家)や行政(官僚)にはそうしたセンスが必要です。内向きで矮小化された議論では国際経済競争を乗り切れません。
2.道路特定財源の地方税化
現在、道路特定財源の一般財源化が話題になっていますが、この問題をもう少し違った視点から考えてみたいと思います。道路特定財源は8つの税目から構成されていますが、そのうち3つは国税、5つは地方税となっています。2001年度の道路特定財源の税収見込みは585百億円ですが、そのうち国税が352百億円(約60%)、地方税が233百億円(約40%)です。これらを完全に一般財源化しても、無駄のない使われ方となる(=国が無駄遣いをしない)保証はどこにもありません。また、地方の財源が不足するという理由から、石原東京都知事や田中長野県知事、北川三重県知事といった「先進知事」まで一般財源化に反対しています。このため、
- 道路特定財源の使い道を弾力化する
- 地方の財源不足に対応する(地方への税源移譲)
- 地方の実情に配慮する
という3つの視点から、道路特定財源を完全に地方税化することが合理的と考えます。つまり、現在の国税部分の60%も地方税として、それぞれの都道府県の実情に応じて何に使うかを決めるのが適当でしょう。
小泉首相は、地方分権を進める、地方へ税源移譲を進めると言いながら、これらについては具体案を示していません。本当に地方に税源を移譲する覚悟があるならば、道路特定財源を完全に地方税化すれば一石二鳥です。米国の学者の言葉に「他人の金を自分の金ほど注意深く使う者はいない」という喩えがあります。これからの財政構造改革は、「他人の金を使う」ような部分を徹底的に減らしていくことがポイントです。したがって、
- そもそも税金を減らす(当然、歳出も減らす)
- 国税のウェイトを減らす
- 納税選択制度(自分の納める税金をどの分野に使うかを指定する=NPOに対する寄付金控除制度に類似)を導入する
3.日銀の量的緩和政策の動向
日銀が5月以降、短期国債の買い切りオペの規模を拡大しています。買い切り残高は4月末には1兆5千億円でしたが、5月末には7兆円台に膨らんでいます。大量に買い切って、かつこれをロールオーバーする(償還後も後発債を継続的に買い切る)ならば、実質的な日銀引受という見方もできます。永田町からは、さらなる量的緩和を日銀に期待する秋波も送られているようです。財政と金融は表裏一体です。財政構造改革の帰趨とともに、金融政策の動向からも目が離せません。
(了)