政治経済レポート:OKマガジン(Vol.197)2009.8.10

総選挙まであと20日。自民党と民主党、どちらが勝ったとしても、次の政権には日本が抱える課題解決に向けて具体的なスタートを切ることが求められます。中長期的には日本の将来ビジョン明確化とそれを実現するための政策制度改革、短期的には当面の経済状況への適切な対応。秋以降の景気が懸念される中、新政権の舵取りは容易ではありません。


1.楽観できないG2経済

オバマ大統領が先週末の演説で「景気が最悪期を脱した兆し」と発言。最悪期脱出が事実であれば喜ばしいことです。

米国を含めた各国の景気回復を指摘するエコノミストも散見されるようになりました。しかし、データを見ると各国の生産活動は復元しておらず、秋以降の展開は予断を許しません。鍵を握るのは米国と中国。G2時代の宿命です。

米国は大胆な財政出動に加え、金融機関やビッグスリーへの公的資金投入によって景気底割れを防止。しかし、生産は停滞しており、6月の製造業生産指数は前年比マイナス15.6%と依然低下傾向。

需要低迷は深刻であり、景気の自律的回復は期待薄。不動産バブル崩壊に伴う金融機関、企業、家計のバランスシート調整も続いており、米議会予算局(CBO)の試算では10会計年度(09年10月~10年9月)のGDPギャップはマイナス3.2%。自律的回復が遅れるとマイナス5%以上に拡大すると見込んでいます。

一方、中国は第2四半期のGDP成長率が前年比プラス7.9%となり、第1四半期(同プラス6.1%)からリバウンド。中でも、巨大公共事業による固定資本形成の同プラス35.7%が大きく寄与しました。

超金融緩和も影響しています。今年前半の中国元の融資増加額は7兆3700億元(約100兆円)。昨年1年間の1.4倍です。完全なバブルであり、昨年急落した不動産市況は反転、上海株価総合指数も年初から7割上昇しました。年率2割近い消費の伸びもバブルによる資産価格上昇が支えています。

しかし、一方では輸出不振が続いており、6月も前年比マイナス21.4%。輸出低迷に伴って生産活動は米国と同様に停滞しています。

こうした状況を映じて、富裕層のバブルとは裏腹に6月の消費者物価指数は前年比マイナス1.7%とデフレ傾向。

中国は当面、巨大公共事業によって社会的安定に必要な8%成長維持を目指すものの、最終需要の伸び悩みが続けばやがては限界に直面するでしょう。

G2経済を精査する限り、需要低迷、生産低迷はまだ続いています。先行きは楽観できません。

2.ディマンドレス・リカバリー

10年ほど前にジョブレス・リカバリー(雇用なき景気回復)という言葉が流行しました。

一方、G2を含めた現下の世界経済はディマンドレス・リカバリー(需要なき景気回復)。需要がなければ生産も回復せず、雇用の低迷も続きます。

オバマ大統領の最悪期脱出発言は、7月の失業率が9.4%と発表され、1年3か月振りに前月比改善(プラス0.1%ポイント)したことを手がかりとしたもの。たしかに、雇用者数減少も24万7千人とリーマン・ショック以降、最も少ない減少幅でした。

しかし、減少は19ヵ月連続。戦後最長を更新しました。一昨年12月から始まった景気後退局面での雇用者数減少は実に約670万人に及んでいます。

また、長期失業者(27か月以上)は前月比58万4千人増加。雇用統計に基づく最悪期脱出発言は少々気が早いという印象です。

欧州も深刻。ユーロ圏16カ国の6月の失業率は10年振りの水準となる9.4%。金融危機の影響が大きいアイルランド(12.0%)とスペイン(18.1%)が突出していますが、その他主要国の雇用調整はこれから本格化すると予想されています。

雇用調整本格化が現実化すれば、ユーロ圏の失業率は通貨統合(1999年)直後の9.7%を上回り、過去最悪になるリスクがあります。

日本も6月の失業率が5.4%に悪化。やはり過去最悪の5.5%が視野に入ってきました。失業給付の受給者数は前年比7割以上増加して100万人超。過去最悪の117万人(2002年7月)に近づきつつあります。

そもそも、雇用や需要が増加しない景気回復は論理矛盾。秋以降、その矛盾がいつ、どのような形で顕現化するかが注目されます。

オバマ大統領は最悪期脱出発言の直後に「トンネルの終わりに明かりが見えるのを確信している」とも発言したそうです。「確信している」というのは希望的観測というイメージ。やっぱり予断は抱けないようです。

3.雇用保蔵

日本についてはさらに深刻なデータもあります。それは雇用調整助成金の申請数。

リーマン・ショック直後の昨年10月は1か月に事業所数140社、対象者数3632人であったのに対し、今年5月にはそれぞれ6万7192社、233万8991人に膨張。対象者を潜在的失業者とすると、実質失業率は米国並みの9%超になります。

また、1週間のうち1日でも働くと就労者扱い、求職中のアルバイトも就労者扱い、失職して家事手伝いや資格取得のために就学した人も失業者には含まれません。

失業者の定義の曖昧さを考えると、日本の雇用情勢の実態は計り知れません。

そんな中、今年度の経済白書に、企業内の潜在的失業者である「雇用保蔵」が607万人に達するという驚くべき記述がありました。雇用調整助成金申請数の約2.5倍の労働者が過剰であることを示しています。

「雇用保蔵」の607万人は労働力人口(6689万人)の約9%に相当。各国の雇用制度や失業者の定義については精査が必要ですが、仮に「雇用保蔵」を潜在的失業と定義すれば、日本の実質失業率は約14%という未曾有の水準になります。

日本の景気についても底入れ観測を指摘するエコノミストも散見されますが、雇用情勢を鑑みるとそれはやや楽観的に過ぎます。

企業の業績悪化を映じて労働分配率と損益分岐点が急上昇。G2向けの外需が回復しなければ、秋以降、人件費圧縮による今年度決算底上げを企図したさらなる雇用調整が行われるリスクがあります。

自民党政権が続いても、民主党政権が誕生しても、いずれにしても経済運営については困難な舵取りを余儀なくされるでしょう。

(了)


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