政治経済レポート:OKマガジン(Vol.195)2009.7.7

衆議院議員の任期満了まであと2ヶ月。今後の日本の方向性を左右する総選挙が近づいています。改めて日本の現状と課題について、自分なりに頭の整理をしたいと思います。最後まで読んで頂ければ幸いです。


1.景気底入れ観測

政府が景気底入れを示唆する中、今月1日に発表された日銀短観の大企業製造業の業況判断指数(DI)が2年半振りに改善。しかし、その内容を精査してみると、先行きは楽観できません。

DIの絶対水準はマイナス48。金融危機に直面していた1999年3月のマイナス47を下回っており、底入れ宣言するには時期尚早。今後の展開を予測するうえで、とくに留意すべきは次の4点です。

弟1に、底入れ観測の根拠になっている生産活動の持ち直し傾向の捉え方。たしかに、4月の鉱工業生産指数はプラス5.2%と2ヶ月連続でプラスになりました。

しかし、これはあくまで前月との比較。昨秋以降、2四半期連続して年率2桁のマイナス成長が続いており、前月比での改善傾向は「底入れ」というよりは「当面はこれ以上マイナスになりようもない」というのが実感。前年同月比でみれば依然として厳しい状況が続いています。

第2に、日銀短観の中小企業製造業の業況判断DIはマイナス57で前回と同じ。非製造業はマイナス44で前回比マイナス2ポイントの悪化。中小企業は底入れには程遠いのが実態です。

第3は、5月の失業率が5.2%となった雇用情勢。過去最悪水準5.5%には達していませんが、5月の就業者数は6342万人と前月に比べて136万人も減少。失業率が5.5%の時よりも少なくなっています。日本の人口の約半分しか働いていない状況は危機的と言えます。

こうした中、企業の売上激減を反映して損益分岐点と労働分配率がいずれも85%超に上昇(全産業ベース、2009年第1四半期)。業績回復が見込めない場合、企業がさらなる雇用調整に踏み切ることが予想され、失業増加、所得減少、消費減退を通じて景気が一段と下押しされるリスクがあります。

第4に、日本の景気に大きな影響を与える中国の動向。中国はプラス成長が続いていますが、企業活動を支えているのは著しい過剰融資。今年上半期の人民元の融資増加額は7兆元(約100兆円)を超え、既に昨年1年間の1.4倍に達しました。

中国の金融バブル崩壊が、日本を含めた世界経済底割れのトリガーになることが懸念されます。

2.「3つの過剰」から「3つの不足」へ

景気や経済の先行きについて、極端な予測を行って耳目を集めるエコノミストや評論家が時々現れます。

「今年は株価が2万円になる」、「1ドル50円時代の到来」というような大胆予測を行い、結果的に当たると一躍注目を集めることから、言わば「大穴狙い」。

今後の景気についても一部にV字型回復を予想する向きもありますが、これは「大穴狙い」。前項で示したような留意点を鑑みると、先行きは楽観を許しません。

当面は底這いのL字型を予測する人たちが大勢ですが、ちょっと回復した後に腰折れ二番底を想定するW字型の展開や、L字型から「底割れ」という事態も考えられます。夏以降の動向は予断を許しません。

かつて、1990年代のバブル崩壊後の厳しい景気情勢の中で、日本経済は「3つの過剰」という構造問題を抱えました。

すなわち、債務、設備、雇用の「3つの過剰」。日本経済は約15年を費やして「3つの過剰」を改善しましたが、今度は「3つの不足」という構造問題を抱えつつあります。

債務過剰を改善する過程で、企業と金融機関は従来に比べて借入、融資にそれぞれ消極的な傾向を強めました。業績の良い企業は無借金経営、金融機関は貸し渋り、貸し剥がし。現在もその傾向は続いており、借入が必要な企業ほどなかなか借入ができず、「資金不足」に直面しています。

資金不足に加え、厳しい財政事情を反映して政府による産業政策も先細り。企業の前向きな設備投資や技術開発は欧米諸国や中印露などの新興国に比べて見劣りする状況が続いており、「技術不足」が懸念されます。技術立国も看板倒れ。

厳しい財政事情の背景として、政府は常に少子高齢化を主因に挙げますが、それは大本営発表。真実を伝えていません。同様に少子高齢化が進んでいる他の先進諸国と比べ、日本の財政事情はあまりにも劣悪。少子高齢化以外に日本固有の原因があるはずです。

不要不急の公共事業、天下り先の増殖(官の肥大化)、政官業の利権構造(鉄のトライアングル)がその原因であることは言うまでもありません。

この15年間、「雇用の流動化」「就業形態の多様化」といった大義名分の下、人件費削減によって企業の業績回復に取り組んできた日本経済。その顛末はご存じのとおりですが、今度は企業を維持し、技術を継承・発展させる「人材不足」が顕現化。因果応報ということでしょうか。

債務、設備、雇用の「3つの過剰」を解決したと思ったら、一難去ってまた一難。今度は、資金、技術、人材の「3つの不足」に直面。

政界だけでなく、財界も反省が必要です。御用学者が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する学界も同罪。政府の審議会等の委員に名を連ねて大本営発表を追認するエコノミスト、評論家等の「有識者」は言うに及ばず。もちろん、「国家・国民を思う」という本分を忘れた官界にも渇(かつ)。この際、各界総懺悔で日本の再生に取り組むことが急務です。

3.出口戦略と脱出戦略

総懺悔して「3つの不足」を解決するための政策を押し進めるには財源が必要。無駄遣いや不要不急の予算の見直し、つまり財政健全化が不可欠です。

ところが、先月23日に閣議決定された「骨太の方針2009」では財政健全化目標が大幅後退。小泉政権時代から毎年策定されてきた「骨太の方針」ですが、その内容が実現することは少なく年々空文化。しかも、今年はその柱とも言える財政健全化目標が後退したことにより、「骨太の方針」はその役割を終えました。

昨年まではプライマリーバランス(基礎的財政収支)を2011年までに黒字化させるとしていましたが、今年はその目標を断念。財政健全化目標として国・地方の債務残高(財政赤字)対GDP比を採用。2010年代半ばには安定化させ、2020年代初めには低下させるとしています。

日本の財政赤字対GDP比(約1.8)は戦時国債発行が増嵩した第2次大戦当時(約1.5)よりも危機的な状況です。国・地方自治体以外の公的機関債務等の「隠れ借金」の存在を考えると、事態の深刻さは想像を絶します。

しかも、他の先進国(EU基準は0.6)に比べ財政赤字対GDP比の劣悪さは突出。前項でも指摘したとおり、少子高齢化という先進国共通の原因だけでは説明しきれない日本固有の事情があります。

それが、不要不急の公共事業、天下り先の増殖(官の肥大化)、政官業の利権構造(鉄のトライアングル)。そして、それらを担保する様々な分野の歪んだ政策が「税金や保険料の無駄遣い」を助長しています。

そうした根本原因を解決することなく、抽象的な財政健全化目標を掲げてもほとんど無意味。財政赤字対GDP比が低下するためには、結局、プライマリーバランスが黒字化するか、財政赤字の増加ペース以上にGDPが増えなくてはなりません。しかし、経済成長率が長期金利(国債金利)を下回る現在の状況では、利払い費負担の増加がGDPの増加を上回り、財政健全化目標は達成困難です。

当面の国債消化すら懸念される状況ですが、そこで、中央銀行の国債引受・保有、あるいは本来は政府が行うべき政策を中央銀行が肩代わりする「非伝統的金融政策」を採用せざるを得ない事態となっています。

世界同時不況に対処するために、先進各国は巨額の財政出動や「非伝統的金融政策」の採用に踏み切りました。

そうした状況からの「出口戦略」が注目される局面ですが、日本の場合はそもそも劣悪な財政状況からの「脱出戦略」も問われています。

(了)


戻る