政治経済レポート:OKマガジン(Vol.177)2008.10.7

金融危機が深刻化しています。各国の対策などによって金融市場や金融システムの動揺が小康状態になることも考えられますが、本格的な解決には2~3年かかりそうです。


1.百年に一度の危機

先週末、米国で金融安定化法が成立しました。公的資金を一度に投入せず、三段階とすることで大統領や議会のチェック機能を強化し、国民の反発に配慮した格好です。

しかし、問題が解決した訳ではありません。その証拠に法案成立後に株価が下落。そのムードは週明けに持ち越され、月曜日のNY市場は369ドル安の9955ドル。4年振りの1万ドル割れです。今日(火曜日)の東京市場もザラ場で1万円割れとなりました。今晩のNY市場の展開も気になります。

金融危機は想像を超えた深刻さになっています。グリーンスパン前FRB議長は「百年に一度の危機」と表現。白川日銀総裁も「東京市場のドル資金は枯渇した」と発言。中央銀行首脳のメッセージの重みを真剣に受け止める必要があります。

米国の動揺は世界を仰天させています。銀行や生保を公的資金で救済し、不良債権買取りを早々と決め、市場に空売り規制を行い、会計基準(時価会計)見直しも検討。動揺というより狼狽です。ワコビアの引受先が二転、三転するなど、民間ベースの救済策も混乱が続いています。

欧州にも飛び火。ベネルクス3カ国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ)に跨るフォルティスの部分国有化が早々に決まりましたが、資産内容悪化に歯止めがかからず、オランダは100%国有化に転換。ベルギー、ルクセンブルグはBNPパリバに売却する方針です。ドイツを含む数カ国が預金全額保護を宣言したほか、英仏独伊4か国は新たな銀行監督機関創設を決定。パニック状態です。

日本経済への影響を最小限にとどめ、世界経済の動揺を軽減するために、職責を果たしたいと思います。民主党は9月17日に金融対策チームを立ち上げ、座長として対策項目を検討しています。

既に3回の検討会議を経て、先週末に対策項目を公開しました。僕のホームページのブログにファイルをアップしますので、ご興味がある方はご覧ください。

2.議長国

中国、ロシアなどの動向も気になります。インフレ抑制を重視する中国人民銀行の周小川総裁の反対を押し切って、政府主導で約7年振りの利下げを断行。

インフレリスクが高い中国が中央銀行総裁と意見対立してまで利下げを選択する背景には、恐慌リスクが高まっているという認識が垣間見えます。周総裁は事実上更迭されたという未確認情報も入ってきました。

インフレと恐慌の両方のリスクが顕現化すればスタグフレーションです。中国の動向からは目が離せません。

中国だけではありません。月曜日のロシア株式市場は19.1%の下落。日米欧よりも危機的な状況に陥っています。

今週末10日にワシントンで開催されるG7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)の動向が注目されます。これほど重要なG7も久し振りではないでしょうか。有効な対策がまとまらなければ失望が広がり、G7ショックとなるリスクがあります。

ところで、夏には日本で洞爺湖サミットが開かれました。サミット議長国(開催国)は1年間G8(G7とロシア)のとりまとめ役を務めるルールになっています。

金融危機に対処してG7開催を呼びかけたり、各国の政策協調を誘導するのは議長国である日本の役割。しかし、どうもリーダーシップを発揮できていないようです。

それもそのはず。新内閣は与謝野大臣(経済財政担当)が「日本への影響は蜂に刺された程度」と発言したほか、中川大臣(財務・金融を兼務)は「日本への影響は欧米に比べると極めて軽微」と発言。関係閣僚の認識がこういうことでは、G7を呼びかける気にならないはずです。

閣僚の報告を受けてかどうかは知りませんが、麻生首相はこの週末はゴルフの打ちっ放しで練習。テレビでそのシーンを拝見しましたが、驚きです。

本来であれば、金曜日のNY市場の株価下落を受けて、官邸に関係省庁の担当者を集めて情勢分析と対策を検討するぐらいの緊張感と責任感を示して欲しかったと思います。僕も日本国民のひとりとして、残念です。

3.ジャパンミッシング

麻生首相の緊張感の欠如と認識不足は、就任直後からその予兆がありました。

洞爺湖サミット前、フィナンシャルタイムズがジャパンミッシング(消えた日本)という表現を使いました。「日本の主張がわからない。日本はどこへ行ったのか」という意味のようです。

ジャパンバッシング(日本叩き)が始まった1980年代。その後は成長を阻害する構造問題を改革できず、経済が停滞。ジャパンパッシング(日本素通り)、ジャパンナッシング(日本無視)と言われ、とうとうジャパンミッシング。

改革を目指した細川政権が道半ばで頓挫。以後、15年で10人の首相が就任。これでは歴代首相の主張は国際社会に伝わらず、ジャパンミッシングと言われるのもやむを得ません。

麻生首相は就任早々国連で演説。その意欲は買いますが、内容が非常識でした。

集団的自衛権の憲法解釈変更とインド洋での給油活動継続を明言。いったい誰に向かって演説したのでしょうか。首相として国会や国民に説明する前に国連で明言するとは非常識で理解不能の行動です。

それだけではありません。「日米同盟を不変の基軸とする」と発言。国連には米国と対立する国々も参加しています。それらの国の前でわざわざ述べる話ではありません。そもそも、そんなことは言わなくても周知の事実。いったい何をしに行ったのでしょうか。

外交でポイントを稼ぎ、米国に恭順の意を示すことで一石二鳥と考えたのかもしれませんが、政治の常道は万国共通。自国の重要問題を国民に話す前に他国に宣言した非常識に諸外国も内心呆れていることでしょう。

その証拠にニューヨークタイムズが麻生首相を「けんか好きな国粋主義者」と論評。「米国は帝国主義の幻想で近隣諸国と緊張関係を生むような日本を必要としていない」と指摘。米国の冷静さに脱帽です。同紙は麻生外相時代にも「麻生氏は外交感覚も歴史感覚もおかしい」と批判。今回の国連演説の内容を聞くと、もっともな指摘です。

この局面、国連で演説するなら、世界的な金融市場の動揺を鎮めるメッセージを送るのが経済立国日本の役割。経済にほとんど言及がなかったのも、不適切です。

中山国交大臣がさっそく辞任しましたが、適性を問われるのは麻生首相自身かもしれません。僕が野党議員だから厳しく申し上げている訳ではありません。日本国民のひとりとして、本当に残念です。

(了)


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