政治経済レポート:OKマガジン(Vol.165)2008.4.6

道路政策を巡る論戦が参議院でスタートしました。4日の本会議で代表質問をさせて頂きましたので、そのポイントをお伝えしたいと思います。質問全文(原稿)はホームページの「今日の大塚耕平」にアップしてあります。ご興味がある方はダウンロードしてご一読頂ければ幸いです。


1.順番が問題

日本の道路政策は策定の手順に問題があります。計画が起案され、費用以上の便益があると裏付ける費用便益分析が行われ、それを完遂するのに必要な財源を確保するという手順。これでは、計画完遂まで財源を投入し続けることになります。

社会保障や産業育成など、他の政策分野との比較、優先順位づけを行い、道路に投入できる財源を決め、その範囲内で、公正な費用便益分析に基づいた計画を策定するという手順に変更することが必要です。道路だけに無尽蔵の財源を投入する余裕はありません。

他の政策分野と比較して優先順位づけを行うということは、財源は一般財源とするのが合理的です。

ところで、過去13次に亘る計画は全て期間5年でしたが、今年度からの中期計画は10年。その10年間に59兆円の道路特定財源を使い切るというのが、国会に提出された政府案の内容です。

中期計画の前提となる交通量のデータは1999年のもの。昨年公表された新しいデータがあるにもかかわらず、それは利用していません。不思議です。しかも、新しいデータを用いると予測交通量が大幅に減少します。不可解です。

現時点では閣議決定されていない中期計画が、国会で議決を要する予算を10年先まで拘束することも問題です。

政府はその中期計画を先々閣議決定する予定のようですが、それもまた問題。予算は1年ごとに編成するという単年度主義を定めている憲法86条、財政法第11条、12条に違反しているとも言えます。

2.アッと驚く80兆円

計画された道路が採算に合う(経済性がある)ことを証明する費用便益分析にもたくさんの疑問点。

企業が手がけるプロジェクトと同じです。かけた費用以上の便益があると予想すれば、そのプロジェクトを行います。しかし、費用と便益の計算は、考え方や前提の置き方でどうにでもなります。

疑問点をあげるとキリがないですが、ひとつだけご紹介します。

費用便益を計算する時の割引率(向こう10年間の平均金利)を4%と設定しています。一方、59兆円については、3月31日の財政金融委員会で国交省が「割引率を勘案しない現在価値」と答弁しました。

ちょっと専門的で恐縮ですが、要するに、59兆円に割引率を勘案すると、10年後には計算上、アッと驚く80兆円。スゴイですね。

つまり、個々の道路の採算を計算する時には将来の金利も加味していますが、総額でいくら予算(税金)を使うかというトータルの金額(59兆円)については、金利を加味していないということです。なぜでしょうか。

また、費用便益分析を行う際に使う国交省の資料(マニュアル)には「プロジェクトライフの期間設定が困難」と記載されているのも驚きです。要するに、費用便益分析は行うが、建設期間、社会資本の寿命などを定めることが困難なので、計算結果は全く当てにならないと言っているのと同然。不可解です。

全ての道路建設を費用便益分析で裏付けるべきと申し上げているのではありません。むしろ、過疎地の道路や生活道路等、費用便益的には割に合わないものもあります。

そういう道路は、費用便益分析とは別の政策判断で造るべきですが、それは地方自治体の判断に委ねるのが適当でしょう。地方の道路の必要性は、そこに住んでいる皆さん、そこの自治体にしか判断できません。国が決めることではありません。

重要なのは、恣意的な費用便益分析で不要不急の高規格道路の建設を正当化するのを止めるべきだということです。

日本の財政赤字が、諸外国と比べて著しく多い原因が頭をよぎります。

3.「地下室」と「別荘」

次に財源です。政府案では、国民の皆さんから向こう10年間に59兆円の税金(道路特定財源)を集めることになっていますが、本当に余っている財源はどこにもないのでしょうか。

例えば、昨年度までの第13次計画の予算は38兆円。しかし、支出実績は33兆6千億円。帳簿上の余剰分4兆4千億円はどのように使うのでしょうか。

国交省が年間1890億円を支出している独立行政法人を含めた56法人には、1288人分のOBが在籍。財務諸表をみると、多額の積立金、剰余金も存在します。

国交省所管の独法、公益法人等に支出されている予算(一般会計、特別会計)、それらの法人等が保有している内部留保、さらには、国交省所管の特別会計自身の内部留保などをシッカリと調べれば、けっこう財源はあるような気がします。

小泉元首相は、特殊法人等の独法化、民営化を行いました。しかし、現実には、独法化、民営化によって国会への報告義務や責任者の出席義務をなくし、独法に財源を投入している特別会計や独法等の実態が、以前よりも不透明になっています。

今や歴史的名(迷)言にもなった塩川元財務大臣の「母屋でお粥、離れでスキヤキ」の喩えになぞらえば、「離れ」の向こうに、独法、公益法人、政府出資の民間会社という「別荘」をつくり、母屋から実態が分からない資産を隠し持っているということです。

それを埋蔵金と呼ぶかどうかは別にして、国民の皆さんの代表である議会の制御が及ばず、放置すると無駄づかいされたり、流用される可能性がある財源です。

各省は予算配分上の根拠があると主張していますが、財政状況が厳しく、またズサンな使い方の実態が次々と明るみに出ている以上、一度回収するのが当然の対応と考えます。

国民の皆さんに対しては、財政状況が厳しいといって、政府の判断で年金給付金を切り下げることのできるマクロ経済スライド制度を導入し、今月からは後期高齢者医療保険制度を新設して保険料をさらに取り立てています。その一方で、「別荘」に隠されている財源は放置するという対応は、いかがなものでしょうか。

因みに、特別会計自身の内部留保(積立金、剰余金)は「離れ」の下の「地下室」の埋蔵金と言われています。

全省庁の特別会計、独法等関係団体の財務状況を精査し、その実情を国会に報告し、不要不急の内部留保を一括して政府の管理下に置くことが必要です。

最後にもうひとつ。道路公団民営化によって誕生したのは、政府出資の民間会社である高速道路会社と、道路建設の借金を返す日本高速道路保有・債務返済機構。

高速道路会社が建設した道路とそれに要した借金は、丸ごと返済機構に移管できる仕組みになっています。

高速道路会社が不採算路線をいくらつくっても、それはやがて、道路と借金を丸ごと返済機構に移管。借金は、返済機構に投入される道路特定財源、つまり国民の皆さんの税金で返済される仕組みです。

道路特定財源を巡る問題は少々複雑ですが、まさしく改革の本丸。是非ご関心をもって頂ければ幸いです。

(了)


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