政治経済レポート:OKマガジン(Vol.162)2008.2.24

ODA視察のためのアフリカ出張に行ってきました。議会に対する正式な報告書は後日提出しますが、ホームページに回顧録をアップしてあります。ご興味があればご覧ください。アフリカでも中国と日本のプレゼンス逆転が顕著。国際政治経済の構図は劇的に変わりつつあります。日本はその変化をキャッチアップできていない気がします。


1.ドル本位制

メルマガVol.158(2007.12.23号)で今年は日米経済の節目になるかもしれないとお伝えしましたが、ドル本位制という世界経済の基本構造にも変化が起きつつあります。

ダボス会議直前、サウジアラビア最大の国営銀行ナショナル・コマーシャル・バンク(NCB)が提言書を公表。政府系ファンドを創設してドル資産以外に運用すること、リヤル(サウジ通貨)のドルペグ(連動)見直しを提言。

過去半世紀、サウジアラビアと米国は同盟関係にあり、原油の安定供給とペルシャ湾岸の安全保障を相互に役割分担。また、サウジアラビアはオイルマネーによる米国債投資を通じてドル本位制を下支え。サウジアラビア王家と米国エスタブリッシュメントは結束を誇り、とりわけ米国石油メジャーに連なるブッシュ家とサウジアラビア王家は親密な関係。NCB提言書の内容を本気にする人はいませんでした。

ところが、ダボス会議ではサウジアラビア通貨庁副総裁が政府系ファンド設立とドル資産以外での運用を表明。他のアラブ諸国もドル離れの動きを示しており、国際金融市場に緊張感が高まっています。

オランダ、スペイン、イギリス、アメリカと受け継がれてきた近世以降の通貨覇権。ドル本位制も約1世紀続きました。変化の兆しを見逃さないようにしなくてはなりません。

2.米国債

今やアラブ諸国と並んでドルを支える中国。サブプライム危機においてもアラブ諸国と中国が米国大手金融機関に救済出資を行いました。

昨年の中国の対米証券投資は1300億ドル超と日本(50億ドル弱)を圧倒。しかし、利に賢い中国は出資先に高利回りを要求しているほか、保有米国債をいつでも売却するでしょう。

日本も1970年代以降、大量の米国債投資でドル本位制を下支え。ところが、1997年、橋本龍太郎首相が日本保有の米国債売却の可能性に言及。米国の円高誘導に対する牽制と解され、翌日のニューヨーク株価はブラックマンデー以来最大の下げ幅を記録。

ニューヨークタイムズは大恐慌時のハーバート・フーバー大統領と橋本首相をつなげて「ハーバード・フーバー・ハシモト」と揶揄しました。この件以降、米国債売却は日米間でタブー視され、日本の米国債保有残高は漸増。今や諸外国の中で断トツです。

一昨年末、中国の外貨準備高は日本を抜いて世界一。しかし、日本のように米国債を大量の購入することはありません。中国の外貨準備高は1兆6千億ドル、日本は9千億ドル。しかし、日本の米国債保有残高は中国の4倍です。

今年の世界経済、アラブ諸国と中国の動向から目が離せません。ドル本位制が揺らぐ際には、日本が米国と運命をともにするリスクが高まっています。

3.米国発リセッション

アフリカ出張直前の1月22日、米国連邦準備制度理事会(FRB)が0.75%の緊急利下げ。2月7日の7ヵ国財務省・中央銀行総裁会議(G7)は、サブプライム問題を契機にした世界経済の不確実性を認め、各国中銀による継続的な流動性供給と金融機関の資本増強を促しています。要するに、世界的な金融緩和の必要性を示唆。

とくに米国では、G7後の12日、著名投資家ウォーレン・バフェット氏がサブプライム問題で経営危機に瀕しているモノライン(金融債務保証会社)に対して約86兆円の債務再保証(経営支援策)を提案。

いかに大物投資家とは言え、これだけの規模の提案の背景には米国政府・金融当局のバックアップがあると考えるのが合理的。政官財あげての対応であり、米国経済の深刻さが垣間見えます。米国発リセッションが現実味を帯びてきました。

こうした中、異常な超低金利政策を継続している日本の金融緩和余地はごく僅か。むしろ、超低金利の弊害是正と景気後退局面での利下げ余地拡大のために、金利の水準調整が急務。その一方、米国の利下げ局面で日本が利上げしたことはありません。

これらの諸条件、経験則を総合すると、日本としては、米国の利下げ、金利水準低下を待ち、その後、日米が同時にインフレ的な好景気を迎え、足並みを揃えた利上げによって金利正常化を実現するというのがベストシナリオ。

もっとも、日米が同時に金利上昇局面を迎えられる保証はありません。日銀人事が佳境を迎えていますが、次期総裁には針の穴を通すようなベストシナリオに日本経済と金利を誘導する手腕と忍耐力が求められます。

出張先のアフリカ諸国を席捲していたチャイナマネーとオイルマネー。これも日本の異常な超低金利政策の間接的な副産物。次期総裁には金利正常化の結果責任が求められます。

折しも、先週22日、中国政府が日米中3カ国による政府定期協議を打診。10年前、日米政府からの同様の打診を拒否した中国。10年経って、国際政治経済の力学、構図が大きく変化していることを象徴しています。

さて日本は、世界の変化をキャッチアップし、国際政治経済を能動的にリードできる状況でしょうか。いささか心許ないというのが率直な印象。政治家のひとりとして、全力を尽くしたいと思います。

(了)


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