政治経済レポート:OKマガジン(Vol.161)2008.2.1

明日から院のODA視察調査派遣団としてアフリカに出張します。資源確保を企図した中国のアフリカへの外交攻勢が著しいことから、南アフリカ訪問時には現地の中国大使とも意見交換をしてきます。ところで、最近、人気お笑い芸人などのハヤリ言葉は世相を反映しているような気がしてきました。今回はコーヒーブレイクのつもりで気楽に読んで頂ければ幸いです。


1.なんでだろぅ

先月25日発表の昨年12月の消費者物価指数(CPI)は前年比プラス0.8%。1998年3月以来、10年振りの上昇率です。

大田弘子経済財政担当大臣はインフレを懸念して「消費にマイナス」と発言する一方、「デフレ脱却とは言えない」とも発言。政府はインフレ的な経済情勢を目指していたはずのうえ、消費者実感としては既にインフレを予感し始めていると思いますので、なかなか難解。難解な発言は何回聞いても難解です。

ちょっと前のお笑い芸人のハヤリ言葉、「なんでだろぅ、なんでだろぅ」というのをつい思い出してしまいました。

「なんでだろぅ」と言えば、竹中平蔵前経済財政担当大臣が主張していた「ダム論」。人件費削減を中心とする合理化、異常な低金利政策、低金利に伴う円安による輸出増加。合理化、低金利、輸出の「3点セット」で企業業績が回復すれば、ダムに水が溜まるように収益が嵩み、やがてダムの水が溢れて家計にも恩恵が及ぶという「ダム論」。

どうもそうなっていないのは「なんでだろぅ」。その説明をしてくれないと経済政策に信頼を寄せられませんとつぶやいても、「そんなの関係ない」と言われますかね。

2.そんなの関係ない

「そんなの関係ない」と言えば、政府の経済政策と株価の関係。

「ダム論」の次に出てきたのが「上げ潮」路線。経済成長の恩恵は国民全体に及ぶので、企業向け減税などを優先し、インフレ的な経済を指向するという内容。

「上げ潮」の語源は米国ケネディ大統領の演説の一節「a rising tide lifts all boats」の「a rising tide」。企業だけでなく「all boats」、すなわち家計も含めた全ての経済主体(船)に減税を行うという趣旨でした。

定率減税廃止で家計が置き去りにされても「上げ潮」路線とは「なんでだろぅ」。現状を正確に表現すれば「a ebbing tide(引き潮)sinks only housekeeping boats」なのに、「上げ潮」とは「なんでだろぅ」。

現在の株価は小泉政権発足時と変わらず、改革の成果が上がったとも思えません。小泉政権の経済政策が株価と無関係だったのでしょうか。それとも、その後の安倍政権、福田政権の経済政策が株価と無関係なのでしょうか。

ダボス会議でサブプライム問題の影響について質問された福田首相は、「日本は景気いいですからねぇ、関係ないんじゃないですか」と発言したと承りましたので、やっぱり「そんなの関係ない」。

「どんだけぇ」待てば海路の日和あり、となるのでしょうか。成果が出ない経済政策をいつまでも有効と主張するのは「偽装政策」。「偽」は去年だけにしてもらいたいものです。

3.どんだけぇ

「どんだけぇ」と言えば、「どんだけぇ」道路を作るのでしょうか。

前号のメルマガでもご説明しましたが、道路特定財源は昭和29年(1954年)の道路整備緊急措置法で導入されたもの。戦後復興のために道路建設は優先度の高い政策課題でした。

暫定税率は昭和49年(1974年)から。道路財源をより多く確保するためです(表向きは別の理由。詳しくは前号をご覧ください。ホームページにバックナンバーがアップしてあります)。

道路特定財源がまだ必要だと主張することは、日本はまだ「緊急」かつ「暫定」的に道路を作らなくてはならない戦後復興途上の国であると言っているのと同じこと。

道路特定財源が必要だということは、戦後復興途上ということですから、理屈から言えば、文化施設やスポーツ施設建設など全部取り止めですね。だって、戦後復興の方が優先ですから・・・。

暫定税率撤廃は当たり前。本当は道路特定財源そのものの意義を議論するべきでしょう。必要な道路を作るのも当たり前。そのための新しい仕組みを議論することが求められます。ガソリン価格引き下げは議論の本質ではありません。今、必要なのは道路「建設」の議論ではなく、「建設的」な道路政策の議論です。

因みに、日本の道路密度(国土単位面積当たりの道路延長、km/平方km)は3.2、もちろん世界一です。他の先進国はフランス1.7、英国とイタリアは1.6、米国とドイツは0.7。

そう言えば、自民党幹部が「道路特定財源の仕組みを作った田中角栄元首相が生きていたら、とっくに廃止しているはずだ。彼はアイデアマンだからね」と発言したという新聞記事を読みました。そうです、日本経済を元気にするための仕組みを考えるのが政治家の仕事。それを真剣に考えないのは無責任です。官僚の天下り先や利権構造の温存に手を貸しているようでは、日本は良くなりません。

元祖お笑い芸人のハヤリ言葉と言えば、個人的には植木等さんの数々のヒットを思い出します(歳がバレますね)。本質的な議論をしないで、半世紀前の仕組みで道路建設を続ける日本の現状を見ていると、「わかっちゃいるけどやめられねぇ」という軽快なスーダラ節が頭の中をよぎります。

植木等さんの大ヒット映画は「ニッポン無責任時代」「ニッポン無責任野郎」。何だか昔の話のような気がしません。

本当の論点を議論しない政治家、利権構造の温存を図る官僚には、「お呼びでない?お呼びでないねぇ、こりゃまた、失礼いたしました」という植木等さんの名台詞を謹呈します。

(了)


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