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1.ガソリン国会
18日から通常国会が開会。参議院選挙での与野党逆転を受けた国会が、新テロ特措法を巡る第1ラウンドを終え、ガソリンを巡る第2ラウンドに入りました。
与野党の主張の違いがよく分からないという指摘も聞かれますが、個人的には与野党の対立軸は明確だと思います。
第1ラウンドの野党は、国際貢献に賛成、しかし実態が不透明な給油活動には反対。9.11から6年以上が経過し、国際情勢も変化しています。国内世論をクールダウンして、国際社会における日本の位置付けと役割を熟考する局面だという主張です。
第2ラウンドの野党、とくに民主党は、道路特定財源の暫定税率を廃止し、ガソリン価格を引き下げる立場。一方の与党は暫定税率維持。主張の違いは明確です。
道路特定財源は戦後復興を目指す昭和29年(1954年)、道路整備緊急措置法を根拠に導入されました。以来、半世紀以上続いています。
昭和49年(1974年)、石油ショックに伴う消費者の買い急ぎがガソリン価格を高騰させたことから、需要抑制による価格安定を企図して導入されたのが暫定税率。もっとも、それは表向きの説明。本音は道路財源拡充を企図したものです。
何10年も続いている「緊急」で「暫定」の措置を見直すことはまさしく「改革」。「改革」の是非を問うのがガソリン国会です。
そうした中、年末には2006年GDPの国際比較が発表されました。日本は世界シェアで10%を割り、ピーク時(1994年)の半分以下。1人当たりGDPはかつての2位から18位に後退。先進国クラブ(OECD30ヵ国)の下位グループに転落です。
先日は2007年末の世界主要企業の時価総額上位500社が発表され、日本の最高はトヨタ自動車の21位。日本企業のランキング入りは42社、中国企業の44社に抜かれました。ベスト10は、中国5社、米国4社、ロシア1社。世界経済の構造は劇的に変わりました。
世界経済の変化にどのように対応するかが「改革」の本来の「目的」。道路を造ることで、作業従事者、施行事業者、周辺地域や企業に経済効果が及び、国全体も潤ってGDP増加に寄与するというメカニズムはもはや有効に機能していません。
必要な道路は建設しつつ、限られた財源をより経済効果の高い政策分野にシフトさせる「改革」の是非を問うのがガソリン国会の対立軸です。
2.道路資本主義
福田政権発足から株価が2500円も下落。国内外の日本に対する論調は「縮む日本」「ジャパン・パッシング」「ジャパン・ナッシング」というトーンになっています。
この状況をどのように打開するのか。残念ながら、18日の施政方針演説はその点に関する福田首相の考え方がよく分からない内容でした。
局面打開の鍵は「道路資本主義」への対応。「道路資本主義」は、道路を造ることで経済成長を遂げてきた戦後復興期から高度成長期までの日本経済の「打出の小槌」です。
道路建設に伴い、作業従事者、施行事業者、周辺地域や企業に経済効果が及び、GDP増加に寄与するという「道路資本主義」のメカニズム。産業や生活に必要なインフラとしての道路建設は、戦後復興期から高度成長期にかけては優先度の高い政策「目的」であり、「道路資本主義」は有効に機能していました。
暫定税率撤廃とガソリン価格引き下げの是非は表面的な論点に過ぎません。論争の本質は「道路資本主義」継続の是非。その点を徹底的に議論すべきでしょう。
1970年代から道路建設の投資効果は減衰。「道路資本主義」の有効性は衰え続けています。利用価値の低い道路建設の投資効果はマイナスとなり、他の分野に振り向けるべき財源も浪費しています。これでは「縮む日本」となるのも当然です。
道路建設は必要です。しかし、あくまで本当に必要で経済効果のある道路のこと。財政状況も厳しい折柄、多少は経済効果があっても建設を我慢すべき道路もあります。
昭和29年(1954年)に創設された道路特定財源。日本は今もなお「緊急」かつ「暫定」的に道路整備を進めなくてはならない国でしょうか。
3.ライジング・ジャパン
このメルマガで再三とり上げている「目的」と「手段」、「結果」と「原因」の関係。ガソリン国会の論争を考えるうえでも重要です。
例えば、ガソリン価格引き下げは環境対策に逆行するとの指摘。これは「目的」と「手段」の認識に関して少々熟考が必要な切り口です。
道路特定財源の「目的」は「道路資本主義」の推進であり、暫定税率導入は財源拡充の「手段」。暫定税率維持は「道路資本主義」の堅守にほかなりません。環境対策という「目的」は、低燃費車やハイブリッド車の開発など、別の「手段」によって追求すべきです。
地方の財源が不足するという指摘。地方の財源確保が「目的」ならば、その「手段」は暫定税率維持以外にもあります。
ちょっと専門的ですが、特別会計の剰余金・積立金、独立行政法人・特殊法人などにプールされている補助金の有効活用、国直轄事業の見直しによる地方の裏負担分の解放など、新たな「手段」を検討して対応すべきです。
暫定税率維持は「道路資本主義」を堅持することとイコールです。地方を発展させ、中央と地方の格差を是正するという「目的」を実現するための「手段」として、「道路資本主義」が有効であれば、それも一考の余地ありです。しかし、1970年代以降の現実と矛盾します。
「縮む日本」は明らかに「結果」です。その「原因」は、道路予算が削られていること、すなわち「道路資本主義」を徹底していないためでしょうか。それとも、不要不急の道路建設を行っていること、すなわち「道路資本主義」をまだ続けているためでしょうか。
この週末、ブッシュ大統領がGDPの1%(15兆円)に及ぶ景気対策を表明しました。米国経済がサブプライム問題の深刻化で迷走している間に、「道路資本主義」と決別し、内外投資家が再び「ライジング・ジャパン」という印象を抱く新しい経済メカニズムを軌道に乗せ、投資マネーの日本買いを招来することが喫緊の課題です。
「ライジング・ジャパン」再現という「目的」を実現するために、福田首相はどのような「手段」を提言するでしょうか。福田首相の見識を注視したいと思います。
(了)