参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
30日から年金保険料流用禁止法案の審議がようやく始まります。発議者のひとりとして有意義な論戦に努めます。今後の国会の展開も気になりますが、不透明感を増している景気の先行きも気になります。目前の課題について適切に対応しなければなりません。
1.日米の住宅問題
19日、ワシントンで先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開催されました。米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)問題の影響が深刻であることを認め、世界経済の先行きに懸念を表明。前回4月のG7で示した楽観的な景気見通しを大幅に修正しました。
それもそのはず、米国の大手銀行や投資ファンドが総額4千億ドル(約46兆円)もサブプライムローンや類似のハイリスク商品に投資していたことが判明。G7当日に発表された米国大手銀行・証券10社の7-9月期決算は7社が赤字または減益、関連損失は純利益の1.4倍に当たる230億ドル(約2兆7千億円)。19日のニューヨーク市場の株価は今年3番目の下げ幅となる前日比366ドルの下落となりました。
しかし、住宅問題が深刻なのは米国だけではありません。日本でも景気の足を引っ張る可能性が高くなってきました。
日本では耐震偽装の再発防止に対応した6月の建築基準法改正の影響で新設住宅着工が激減。7月は前年比マイナス23.4%、8月は同マイナス43.3%。8月の年率換算は100万戸割れの72万9千戸、昭和40年以来の最悪水準です。
木造2階建て住宅など建築基準法上の4号建築物にはあまり影響が出ていない一方、大きく影響を受けているのは1~3号建築物。高さ20メートル超のマンションや3階建て以上の木造住宅が該当します。
構造計算の2重チェックが義務付けられただけでなく、新基準の解釈が国から明確に提示されておらず、確認申請を出す側も受ける側も困惑しています。安全性確認に必要な提出書類も増加し、建築確認申請に要する期間が異様に長期化。平均的マンションの場合で法改正前は約3か月でしたが、現在は半年近くに及んでいます。
こうした状況が改善されず、住宅着工件数減少、工事遅延が続けば、建材、耐久消費財など、裾野の広い住宅関連業種に影響が及ぶことは必至。関連企業の倒産増加も懸念されます。
住宅投資の10%減少はGDPを年率換算1.3%程度押し下げます。サブプライムローンの影響と相俟って、年末にかけての日米の株価や景気の動向は要注意です。
2.独立行政法人
財務省が来年度予算の政府原案の策定中ですが、限られた歳入を、株価や景気のテコ入れとなる効果的な事業等に投入しなくてはなりません。少なくとも、効果や背景に疑義のある事業等に歳入を投じる余裕はありません。
自民党は年末までに独立行政法人の整理合理化計画を策定し、組織と業務を抜本的に見直す方針を決定。安倍政権下の8月に閣議決定された独法改革は首相退陣に伴って雲散霧消する懸念がありましたが、とりあえず第2ラウンド開始。かけ声倒れにならないことを期待します。
自民党の動きは参議院の主導権を握った民主党が独法改革に注力していることへの対抗措置。自民党と民主党による独法改革競争の様相を呈しています。渡辺喜美行革担当相も独法改革案を一般公募して整理合理化計画に反映させると気炎を上げています。結構なことです。
会計検査院は先月、独法業務に関する調査報告書を公表。機能していない組織、ルール違反の業務運営、不透明な契約など、指摘された事例は相変わらず。天下り先確保のために設立された不必要な独法、予算と利権を得るための不公正な事業、そうした構造に寄生する多数の公益法人。改革は不可避です。
しかも、独法には多額の繰越欠損金とは別に膨大な隠れ借金があります。資産の減価償却をしない会計基準を採用しているためです。繰越欠損と隠れ借金は合計3兆円。損失穴埋めのための財政負担増は必至です。
独法改革の試金石は緑資源機構への対応。松岡勝利元農相の事件で問題になった緑資源機構は今年度で廃止。当然です。ところが、驚くべきことが発覚。
緑資源機構は農水大臣の裁量で事業計画を決める幹線林道建設を所管。これが利権と不正の温床になってきました。現在も48路線を手がけ、何と道路延長1026km、事業費5260億円。建設中の路線の最長は85.1km。とても林道とは思えません。
しかも、緑資源機構は廃止されても事業は全て継続。一部は地方公共団体に移管、その他は別の独法(森林総合研究所)に移管。いずれは国有林野独法へ事業を継承するということですから、何の改革にもなっていません。エイリアンが退治されても別の生体に巣食って生き延びるSF映画を彷彿とさせます。
政府は「真に不可欠なもの以外は全て廃止する」ことを閣議決定しました。具体的な対応を監視し続けなくてはなりません。
3.財政改革と社会保障
26日、財政制度等審議会(財務相の諮問会議)が、富田俊基中央大学教授の試算に基づく2050年の国と地方の公債残高の見通しを公表しました。
試算の前提は、厚生労働省が昨年5月にまとめた「社会保障の給付と負担の見通し」の内容。つまり、財務省と厚労省の合作による試算です。
結論は、歳入・歳出両面で改革を行わなければ、2050年には公債残高がGDPの4倍になるということです。富田教授は、記者会見で「それまでに日本の財政は確実に破綻する」と発言。
政府は今年度から5年間で最大14.3兆円の歳出削減を実行する方針を掲げています。しかし、試算によれば、2050年時点の公債残高の対GDP比を現在(約1.5)並みにとどめるために必要な現時点の歳出削減額は21.3兆円。政府の方針では不十分ということです。
折しも、同じ日に厚労省所管の国立社会保障・人口問題研究所が最新(2005年度)の社会保障給付費の実績を発表。前年度に比べ2.3%増え、総額87兆9150億円と過去最高を更新。部門別では、年金が46兆2930億円(前年度比+1.7%)、医療費が28兆1094億円(同+3.6%)。両方で全体の84.6%を占めます。
そう言えば、最近では内閣府所管の経済財政諮問会議がたびたび公的年金改革に関連する試算を公表。消費税引き上げが不可避というメッセージを繰り返し発信しています。
どうやら、財務省、厚生労働省、内閣府が一体となって、財政悪化、社会保障給付費増加、財政改革・社会保障切り下げ・消費税引き上げの必要性を訴えるキャンペーンを張っているようです。
長期的にはそうした方向性は理解できます。しかし、その一方で、財政悪化につながっている他の分野のムダ遣いや利権構造を放置するようでは、支離滅裂の対応と言わざるを得ません。
上述の緑資源機構に関連する林道利権や国会で焦点となっている防衛利権など、優先的に改革すべき対象は明らかです。国会論戦の中で政府の姿勢と真意を確かめなくてはなりません。
(了)