参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
先週は衆議院予算委員会で総理の所信表明演説に対する質疑が行われました。明日からは参議院予算委員会での質疑。衆参の第一党が異なる「タスキがけ国会」での論戦では、今年の通常国会までとは一味違う与野党双方の真摯な論戦を期待しています。今回は、論戦の前提となる経済情勢についてポイントを整理したいと思います。
1.グローバリゼーションへの対応失敗
初の親子宰相が誕生です。福田赳夫元首相の1970年代と福田康夫新首相の2000年代後半は、日本経済の生産性、国際競争力、1人当たり国内総生産(GDP)などの国際順位は10位~15位程度とほぼ同レベル。
喜んでいるわけではありません。両首相の在任時期のちょうど真ん中がバブル経済。この頃、各種の経済指標はいずれも世界のトップクラスとなりました。親子一世代の間に、日本経済はジェットコースターのような栄枯盛衰を経験したことになります。
日本の経済政策は何を失敗したことによって一世代前、すなわち30年前のレベル(国際的な相対順位)まで後退したのでしょうか。
ひとつはグローバリゼーションへの対応への失敗。国内産業に対する誤った保護政策のために、市場化や自由貿易協定(FTA)の流れに乗り遅れました。
もちろん、国内産業の保護は必要です。そのための適切な手段は、農業を含む国内産業の競争力強化に政策財源を重点的に投入し、積極的にグローバリゼーションに応じること。
しかし、実際には、相変わらず公共投資中心の経済政策を行う一方で、産業政策や市場開放には後ろ向きに対応。従来型の産業政策と参入障壁を維持することが保護政策と誤解した結果が今日の状況です。
もうひとつは、逆説的ですが、グローバリゼーションの無定見な受け入れです。グローバリゼーションは、効率化、低コスト化、個人主義化を前提としています。元来そういう風土や文化のない日本でグローバリゼーションを無定見に受け入れた結果、効率のためには安全を犠牲にし、低コストの労働力に依存し、和を重んじる協調主義を損ないました。
相手の土俵で勝負すれば、利益至上主義や個人主義の徹底している米国や中国に負ける確率が高いのは自明の理。
言い換えれば、政府の政策レベルではグローバリゼーションに対応せず、国民や企業にその負担を転嫁したことが、日本経済が30年前に戻ってしまった一因と言えます。グローバリゼーションと言っても所詮は欧米型モデルのこと。日本型モデルを追求し、その正当性を証明し、優位性を実現するのが政府の仕事です。
2.トランスミッションメカニズムの変化
福田首相が適切な経済政策を行うためには、その前提として日本経済の現状についての首相の理解力、分析力が問われます。
経済の実情を反映する指標のひとつは言うまでもなく株価。サブプライムローン問題の影響もあって実態が見えにくくなっていますが、年初来9月末までの主要国の株価動向を比較すると日本経済の視界不良振りがよく分かります。
この間、中国の株価がプラス104.5%、つまり倍になったのに対し、日本はマイナス3.3%の下落。もちろん、中国は高度成長の途上にあるうえ、五輪や万博を控えており、単純な比較はできません。
しかし、他のアジア諸国や欧米諸国と比較しても日本の株価低迷は顕著。韓国35.6%、香港33.6%、シンガポール22.0%、台湾19.6%と、いずれも上昇しています。欧米諸国の上昇率は概ね10%未満ですが、東西ドイツ統合後の混迷を抜け出たドイツは17.7%。サブプライムローン問題の当事国、米国も11.4%とまずまずの伸び。日本の低迷は突出しています。
しかも、異常な超金融緩和政策を長期間継続しているにもかかわらずのこの状況。内閣府は「デフレ脱却は視野に入っている」と言い続けていますが、8月の消費者物価は前年比マイナス0.1%と7か月連続の下落。
経済政策の効果が及ぶトランスミッションメカニズム(波及の仕方)が従来の常識では説明できなくなっています。かなり弱くなったとも言えます。福田首相は、その原因と実情をどのように認識しているでしょうか。
波及効果を弱くしている主な要因はふたつ。ひとつは、税金や社会保険料として吸収した民間資金を、相変わらず、経済効果が薄く、無意味な財政支出として浪費していること。
もうひとつは、GDPの6割を占める個人消費の低迷。社会保障制度の改悪、所得格差の拡大、消費者の嗜好変化が影響しています。
こうした中、投資家保護を強化する金融商品取引法が9月末から全面施行。金融機関は高齢者や投資初心者へのリスク商品の販売に慎重にならざるを得ず、株価低迷、株式投資益減少、消費低迷を加速するかもしれません。福田首相の舵取りを注視したいと思います。
3.ビッグバンの再来
折しも、10月5日、イオン銀行が営業免許を申請。スーパーやショッピングモールに営業店舗を展開し、買い物客を囲い込むビジネスモデルを想定しているようです。
これは、先行するセブン銀行(2001年5月開業)がコンビニATMを大規模展開しているのに対する差別化戦略。セブン銀行は預金残高が700億円程度しかないものの、業務純益は250億円。ATM1万3千台による手数料ビジネスは完全に定着しました。
イオン銀行は従来からの銀行とセブン銀行の中間路線を狙ったものですが、やがては保険や証券なども手掛け、総合的な金融サービスの提供を目指すでしょう。これは、店舗がなくてはできないビジネスであり、セブン銀行とは競合しません。
10月1日からはゆうちょ銀行がスタート。かんぽ生命と合わせて資産335兆円の巨大金融グループの誕生です。既存の銀行・信金・信組との競合が本格化します。
生保各社の大規模な保険金不払いも発覚。10月5日に金融庁の命令によって公表された調査によれば、不払いは実に38社、120万件、金額は910億円。民間生損保の不払い問題は今後のかんぽ生命の経営にも無縁ではありません。
先月9月11日、金融庁が世界最大のインターネット・オークション会社である米国イーベイ社をヒアリング。イーベイ社の決済事業であるペイパルの決済総額は年間6兆円。日本の法律の枠外のビジネスですが、インターネットに国境はありません。日本にも多くのユーザーが存在し、イーバンクやソニー銀行など、競争が激化するインターネット専業銀行のビジネスモデルの延長線上に位置します。
イオン銀行は電子マネー「ワオン」を発行して流通ビジネスとの相乗効果を狙っているようですが、最近耳目を集めている電子マネーと言えば「円天」。出資法違反事件は繰り返し発生しますが、とうとうその手法に電子マネーが登場。
銀行・証券・保険という伝統的な金融ビジネスに、決済・流通、さらには通貨の定義も一体となった構造変化はさらに加速。金融業界の大改革=ビッグバンの再来と言えます。投資家や預金者の投資行動、消費行動にも影響を与えるでしょう。
民間企業のみならず、金融庁や日銀などの関係当局の対応が注目されます。もちろん、国会での議論も必要です。
(了)