参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
昨日、福田自民党新総裁が誕生しました。明日は首班指名です。課題は山積していますので、初の親子宰相となる福田氏には迅速かつ真摯な国会論戦を期待したいと思います。
ところで、福田赳夫元首相の1970年代後半と福田康夫新首相の2000年代後半を比較すると、「生産性」「競争力」「1人当たりの国内総生産(GDP)」などの経済指標の国際順位はほぼ同レベル。そして、その中間のバブル経済の頃にいずれの経済指標も世界トップクラスを記録しています。親子一世代の間に日本経済はジェットコースターのような栄枯盛衰を経験したことになりますが、福田新首相の分析力、実行力を注視したいと思います。
1.「結果」と「原因」、「目的」と「手段」
このメルマガの一貫した問題意識が、様々な政策課題に関わる要素の「結果」と「原因」の関係、「目的」と「手段」の関係です。
先月、経済財政政策担当の大田弘子大臣が「年次経済財政報告」を発表しました。副題は「生産性上昇に向けた挑戦」。今後の経済運営の考え方を述べています。明日の組閣で大田大臣が留任するかどうか分かりませんが、この「報告」自体は継承されるでしょうから、「結果」と「原因」、「目的」と「手段」の観点から問題提起をしておきます。
3月5日の参議院予算委員会で大田大臣とこの報告書の前提について質疑を行いました。その頃、大田大臣が「労働生産性の伸び率を1.5倍にすることが経済政策の目標」という発言を繰り返していたからです。
その際に指摘したポイントは、(1)労働生産性は「結果」としての数字であり、「手段」として操作することは困難であること、(2)労働生産性には資本装備率(労働者1人当たりの設備)や設備稼働率も影響するため、単に労働者がもっと勤勉に働けばよいというものではないこと、(3)労働と資本以外の全要素生産性(Total Factor Productivity)も考慮する必要があること、(4)マクロ(経済全体)とミクロ(個々の労働者)の労働生産性は同じ視点では議論できないことなどです。
大田大臣は十分に理解できていない様子でしたが、今回の報告書を見るとある程度整理が進んでいます。しかし、まだまだ分析が甘いと言わざるを得ません。
さて、ここ数年の労働生産性の低下は「結果」でしょうか、「原因」でしょうか。また、今後の労働生産性の上昇は「目的」でしょうか、「手段」でしょうか。
2.話は簡単ではない
そもそも、政府が目指すべき目標は「生産性」全体の上昇です。労働生産性は「生産性」のひとつの切り口に過ぎません。
「生産性」を正確に定義すると「投入量と産出量の比率」です。要するに、投入量に比べて産出量が多いほど「生産性」が高くなります。
投入量に含まれるのは、労働、資本、土地、設備、原料、燃料などの生産要素です。一方、産出量に含まれるのは、産出量、産出額、販売額、付加価値などの産出要素です。
どの生産要素、どの産出要素が「原因」で、全体の「生産性」が変化したかは十分な分析が必要です。例えば、労働生産性の低下は他の要素が「原因」で発生した「結果」かもしれません。
政府が目指すべき目標は、上述のとおり「生産性」全体の上昇です。経済政策の「目的」と言ってもいいでしょう。では、「目的」達成のための「手段」は何でしょうか。
「生産性」全体の低下の「原因」となった生産要素、産出要素の問題点を改善することが直接的な「手段」となります。労働生産性の低さが「原因」ならば、労働生産性の向上が「生産性」全体の改善のための「手段」となります。設備の効率性や稼働率の低さが「原因」ならば、設備投資が「手段」となります。資本利益率の低さが「原因」ならば、低コストの資金調達が「手段」となります。
産出額、販売額の低さ、つまり価格が「原因」ならば、デフレ対策が必要かもしれません。
組織内の人間関係、ムード、士気などが「原因」の場合もあります。ITインフラの使い勝手の悪さが「原因」の場合もあります。
要するに「話は簡単ではない」ということをご理解頂ければ幸いです。大田大臣が留任した場合には、いずれかの機会にそのようにお伝えしたいと思います。
3.三面等価の原則
ほかにも分析不足の点があります。たとえば、人口減少に伴う需要への影響。
人口減少社会において経済成長を維持するためには労働生産性が高まればよいという学生レポートのような発想は微笑ましい限りです。こんな喩えをしては、見識の高い学生諸君に叱られるかもしれません。
しかも、労働生産性が上がっても労働分配率は高めないという趣旨も読み取れます。なかなか単純明快、ストレートな論理展開です。
しかし、この内容では「生産=分配=支出」という経済の三面等価の原則を見落としています。労働生産性向上によって生産(=供給)が増えても、それに対応する支出(=需要)が伴わなければ需給バランスが崩れます。
両者をつなぐのは分配であり、労働生産性が向上するなら労働分配率が上がるのは当然。報告書は労働生産性が高すぎるのでそうはいかないという主張ですが、労働生産性が高いのは資本生産性、資本装備率、設備稼働率が低いからかもしれません。
間違った経済政策のツケを払うのは国民の皆さんです。今回の報告書は分析不足の感は否めませんが、国会で議論する材料にはなりそうです。
(了)