参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
明日から国会です。衆参の第一党が異なる状態を「ネジレ国会」と表現するのは必ずしも適切ではないでしょう。衆参の第一党が同じでなければならないとはどこにも規定されていません。むしろ、衆参の第一党が異なる「タスキがけ国会」は、与野党が十分に議論をしないと法案が一本もスンナリとは可決されないことから、国会が本来の「言論の府」に戻ったとも言えます。国民の皆さんの負託に応えられるように、十分の議論を尽くしたいと思います。
1.中国包囲網
国会を前に、この週末はシドニーでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催されました。もちろん、安倍首相も参加しています。
APECを前に、昨日(8日)、シドニーで初めての日米豪3か国首脳会談が開催され、安倍首相、ブッシュ大統領、ハワード首相のスリーショットの写真が世界中に配信されました。
中国は、この3か国首脳会談を「中国包囲網の一環」として不快感を示しました。これに先立ち、中国外務省が発刊している広報誌「世界知識」は、日米豪3か国にインドを加えた4か国を同盟と位置づけ、「緊張緩和の流れに逆行し、周辺国の警戒心と疑惑を高める」と批判しています。
もちろん、中国も即座にカウンターアタック。同日、胡錦濤主席はロシアのプーチン大統領と今年5回目の会談を行い、両国の「戦略的パートナーシップ」を強化することを確認。2009年から2012年の間に善隣友好条約を締結することも明らかにしました。
中露両国に中央アジア4か国を加えた「上海協力機構」も既にスタートしています。「日米豪印4か国同盟」への対抗組織とも言われています。また、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携も強め、日米を牽制しています。
このような対立構図ができつつあることについて、安倍首相はどのように考えているのでしょうか。僕自身はあまり十分な説明を聞いた記憶がありませんので、今国会で機会があれば質問をしてみたいと思います。
2.自由と繁栄の弧
今回のAPECに先立つ先月22日、安倍首相がインドを訪問。シン首相と会談して日印共同声明を発表するとともに、安倍首相は日印関係を「自由と繁栄の弧」と表現しました。
共同声明のポイントは2点。ひとつは、安全保障に関する協力強化。海上共同訓練などを約束したほか、来年のシン首相訪日までに安保協力に関する報告書をまとめることで合意しました。
安保協力に踏み切ったのは、経済成長と軍拡によってアジア全域で影響力を強めている中国を牽制する狙いがあると言われています。原油の大半を中東に依存する日印両国にとって、インド洋のシーレーン防衛は共通課題というのが政府の説明。南西アジア海域で海軍力増強を進める中国はたしかに脅威です。
折しも、日印共同声明発表の翌日、中国が空母保有計画を進めているという報道がありました。その証拠として、中国が空母艦載機10機をロシアまたはウクライナに発注したという事実が指摘されています。旧ソ連海軍から購入した未完成空母「ワリヤーグ」が大連に係留されて改修中であり、艦載機は改修後の同艦に配備されると予測されます。
ポイントのもうひとつは、ポスト京都議定書の地球温暖化対策。シン首相は2050年までに温室効果ガスを半減させる日本の決意を評価。安倍首相は「インドも新たな国際的枠組み作りに協力することに同意した」として、会談の成果を強調しました。
しかし、外交は権謀術数のカードゲーム。相手が切ったカードの真意、将来への布石の意味を常に慎重に分析することが必要です。今回の日印共同声明に限らず、日本外交はそういう観点からの深謀遠慮に欠けている気がします。
3.ミニマックス戦略と徒然草
外交的合意は双方にプラスがあることが大前提。ポスト京都議定書の枠組みに参画して温室効果ガスの削減義務を負うことはインドにとっては一見マイナス。したがって、安保協力の方でインドにとってプラスがなくてはなりません。
しかし、インドにとっての原油シーレーンはインド洋西部、つまりアラビア海。中国海軍もそこまでの展開力はなく、今回の安保協力はインドにとって実効性はありません。
そうであるとすれば、ポスト京都議定書に関する合意の解釈が単純すぎるかもしれません。日本が温室効果ガス半減の自己ノルマを達成するためには、他国から大量の排出権を購入することが必要。現時点で大量の温室効果ガス排出国であるインドにとっては、負担というよりも日本に排出権を販売するビジネスチャンスです。
今回のAPECでも、ポスト京都議定書を睨んだ「シドニー宣言(APEC温暖化声明)」が採択されました。エネルギー効率の25%改善が謳われましたが、温暖化対策に向けた各国の努力を促すにとどまる声明です。
温暖化対策の分野では、達成義務のある数値目標設定に前向きな欧州連合(EU)と日本、目標設定に反対する米豪、途上国の主張を代弁して義務化に反対する中露印。「日米豪印4か国同盟」や「自由と繁栄の弧」の脈絡で解説されている風景とは、日本を取り巻く構図がずいぶん異なります。日本は本当に上手く立ち回れているのでしょうか。
ところで、中国の空母報道のニュースソースは「軍事情報筋」ということで明らかにされていません。あまりにタイミングが良すぎるこの報道。日印共同声明の安保協力をプレイアップするための作為を感じます。意味の薄い合意をプレイアップしてまで相手国に借りを作り、温暖化対策では自らの首を絞めているのかもしれません。
最終的な勝敗の決着がつかないのが防衛を含む外交の世界です。その外交のベースになっているゲーム理論。
とくに参考になるのは、ゲーム理論で言うところのミニマックス戦略。簡単に言えば、「損失を最小にすること」、あるいは「勝とうとするより、負けないようにする」ということです。ミニマックス戦略の成否は、相手の作戦とゲーム展開の先読みの巧拙で決まります。
安倍首相の外交は強気な姿勢が目立ちます。しかし、勝つことに拘るあまりに損失を拡大しては、元も子もありません。交渉担当者がゲーム下手では日本全体が損失を被ります。
ところで、このミニマックス戦略、吉田兼好の徒然草にも出てきます。曰く「勝たんと打つべからず、負けじと打つべきなり」。日本の先人の知恵には敬服します。国会開会を前に、安倍首相には「温故知新」という言葉を送りたいと思います。
(了)