政治経済レポート:OKマガジン(Vol.149)2007.8.12

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


7月29日の参議院選挙で2期目の議席をお預かりしました。政審会長代理という立場で仕事を再開することとなりましたが、全力で職責を果たしたいと思います。内政、外交とも多くの課題を抱えていますが、このところの世界の株式市場の混乱も心配です。秋口にかけて、世界経済全体に影響が及ばないようにしなくてはなりません。

1.選挙結果の影響は軽微

参議院選挙は投票日前から与党の劣勢が伝えられ、選挙結果の株式市場に対する影響が懸念されていました。

投票日を控えた先月26日、27日のニューヨーク株式市場は、後述のサブプライム問題の影響からダウ平均が2日間で519ドルの急激な下落。最高値更新を続けてきたダウ平均は5月上旬の水準に戻りました。

ニューヨーク株式市場の大幅下落を受けた27日の東京株式市場は、懸念を先取りして日経平均が418円の大幅安。

与党は参議院選挙後に首相が退陣した89年と98年に株価が下がった例を持ち出し、「与党が負ければ景気は後退、株価も下落する」との論法を展開。与党支援を訴え続けました。

選挙結果はご承知のとおり。与党は歴史的敗北を喫し、初めての過半数割れ。ところが、翌30日の東京株式市場の日経平均は、前場は200円超の下落となったものの、後場に入って反発。結局、前日比5円高の17289円で終わりました。

与党敗北という選挙結果の株価への影響は杞憂に終わったようです。もっとも、国会は両院の第一党が異なる衆参ねじれ構造となりました。いかなる法案も与野党の調整なしではスンナリ成立することはありません。国会が本来の「言論の府」に戻ったとも言えますが、経済政策が混迷するようでは、株価に影響が出るかもしれません。各党の良識が問われる局面です。

2.サブプライム問題の影響は要注意

選挙結果の影響は軽微でしたが、この間、米国での株価急落が引き金となって世界的な株安連鎖が続いています。原因はサブプライム問題。

米国では信用力の低い借手向け住宅融資のことをサブプライムローンと言います。住宅ブームが始まった2004年頃から低所得者層を中心に普及しました。

サブプライムローンの金利は通常よりも高目。もっとも、借手は住宅価格が値上がりして担保価値が高まれば、より低金利の通常のプライムローンに借り換えが可能。住宅価格の値上がりを期待した低所得者層が、サブプライムローンを積極的に利用してきました。

大量に積み上がったサブプライムローンとその対象不動産。多くの機関投資家やファンドが、ローンの金利収入や不動産の売却益を当てにして、証券化されたサブプライムローンを買い取りました。

ところが、昨年の秋頃から米国の住宅価格が低迷し始め、借手は借り換えに失敗するとともに、ローンを返済できなくなるケースが急増。

早い話が、米国版バブル崩壊。ローンの借手ばかりでなく、証券化された商品を購入していた機関投資家やファンドも損失を被り、信用不安に発展しています。

こうした中、先週後半の8月9日、フランスの大手銀行BNPパリバがサブプライムローンの焦げ付きで含み損を抱えた3つのファンドの凍結を発表。信用不安は一気に拡大、世界全体に波及しました。

9日の夕方、欧州中央銀行(ECB)は信用不安拡大を防ぐために金融市場に15兆円の資金を供給。その後、米国市場、東京市場でも連邦準備制度理事会(FRB、米国の中央銀行)と日本銀行が資金供給を行い、2001年9月11日の同時多発テロ以来の日米欧協調介入となりました。

日米欧の中央銀行が協調介入をしたという事実は、現在起きている株式市場の動揺が9.11以来の深刻な事態であることを証明しています。サブプライム問題の今後の展開は要注意です。

3.異常な超金融緩和の影響は深刻

最近の原油相場高騰も、インフレ懸念、金利上昇の連想から株価にはマイナス要因です。ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は指標となるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)が昨年7月以来の高値水準で推移。産油国が供給制限を続けていることから、最高値を試したい投資家心理も影響しています。

サブプライム問題、原油価格高騰は、いずれも世界的な金融緩和政策が影響しています。このことはこのメルマガでも繰り返しお伝えしていますが、中でも異常とも言える極端な超金融緩和政策を継続しているのは日本。その影響は、中国での異常な超金融緩和政策と中国のバブル経済にも及んでいます。

異常な政策の下では、必ず異常な事態が進行します。政府・日銀をはじめ、関係する政策当局は、異常な超金融緩和政策の影響を十分に説明しきれない状況が続いていますが、このことも、今後の国会での経済政策論戦の重要なテーマです。

ところで、選挙結果は株式市場に影響を与えなかったという見方をお伝えしましたが、株価に影響を与える人事には大きく影響します。

その人事とは日銀総裁人事。日銀総裁は衆参両院の同意を得たうえで内閣が任命します。両院で与党が多数派の場合には、与党が了承すれば人事は決まり。しかし、今回の選挙で参議院は野党が多数派となったことから、野党の了承がなければ人事を決定できません。とくに、参議院での第一党となった民主党の事前の同意が不可欠となりました。

次期総裁には、異常な超金融緩和政策を正常化する手腕が求められます。異常な超金融緩和政策を行わざるを得ない理由のひとつは異常な財政赤字。つまり、政府の資金繰りのための国債管理政策上の必要性。国債消化のために人為的に超低金利を維持しなければなりません。逆に言えば、財政健全化を実現しなければ、異常な超金融緩和政策を正常化することはできません。

また、超低金利は家計の利子収入を減らし、家計から銀行、政府に大規模な所得移転をもたらしています。

以上の事情を踏まえると、財政健全化の推進に意欲があり、国債管理政策に配慮した超低金利政策を行わない人でなければ次期総裁は務まりません。もちろん、中央銀行本来の使命である物価安定は当然の目標。加えて、財政健全化、物価安定を実現する過程において、経済に混乱をもたらさない手腕が求められます。手腕とは、市場に対する円滑な説明能力、その背後にある理論的専門性です。専門性を伴わない言葉の遊びのような説明能力では困ります。国民や市場の信頼や期待を裏切るような言動も許されません。

これだけの条件を満たす人はなかなか見当たりませんが、いずれにしても、従来のように政府・与党や財務省に媚びる人では国会の同意は得られないでしょう。

8月にも利上げがあると言われていますが、サブプライム問題の影響もあって難しいかもしれません。しかし、いずれは通らなくてはならない道。次期総裁の任期中には必ず直面する問題です。

謝りなき経済政策、誤りなき国会同意人事に努めて参ります。

(了)


戻る