政治経済レポート:OKマガジン(Vol.147)2007.6.24

参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです


国会の会期が延長されました。延長する必然性が感じられませんが、いずれにしても参議院選挙の公示は7月12日、投票日は29日で確定。日本の政治史の中で、極めて重要性の高い選挙となりそうです。

1.年金問題「3点セット」

「消えた年金」問題で年金制度に対する信頼が失われました。「消えた年金」と言うよりも「消えた信頼」と表現する方が適切です。

2004年の年金国会の折、年金数理計算(年金財政の将来計算)の根拠が不透明であり、恣意的な計算をしていることを明らかにしました。また、年金保険料の積立金がグリーンピアなど不要不急の箱物建設や目的外に流用され、多額の年金財源が回収不能になっていることも発覚。いずれも誰も責任をとらないまま今日に至っています。

そんな中で浮上した今回の「消えた年金」問題。不透明な将来計算、積立金の流用、そして「消えた年金」。年金問題「3点セット」と言ってよいでしょう。

ところで、「消えた年金」問題は昨年の通常国会で顕現化し、民主党が12月に調査要請書を衆議院議長に提出。今年2月、衆議院調査局から提出された報告書によって「5095万件の年金手帳記号番号が誰のものか分からない」ことが明らかになりました。

今から10年前(1997年)、年金加入者全員に基礎年金番号が割り振られました。生涯ベースの年金受給額を確定するには、基礎年金番号導入以前の加入記録も統合することが必要。しかし、過去の保険料納付記録(加入記録)とそれ以降の納付記録が統合されずに不連続になっていたのです。

こうした不連続の過去データが実に「5095万件」。要するに、誰が納めた保険料か分からないということです。空いた口が塞がりません。国民に耳障りの良い話は針小棒大に、耳障りの悪い話は控えめに公表するのが政府の常。公表ベースで「5095万件」ということは、実態は計り知れません。

2.消えた「100兆円」

6月11日の参議院決算委員会で安倍首相、柳沢厚生労働大臣に「5095万冊の年金手帳の持ち主が納付した保険料総額はいくらですか」と質問しましたが、「分からない」との回答。驚きです。

分からなければ計算すれば概ねのイメージは掴めます。計算の便宜上、「5000万冊」とします。年金保険料は徐々に高くなっていますが、とりあえず「ひと月2万円」と想定します。仮に年金手帳「5000万冊」の持ち主全員が「ひと月2万円」の保険料を納付したとすると、何と「1兆円」。

「5000万冊」の持ち主の勤続年数、つまり保険料納付年数は人によって区々です。「5000万冊」の平均が3年(36ヶ月)とすれば、納付された保険料総額は「36兆円」、4年(48ヶ月)ならば「48兆円」。ビックリするような規模ですが、これが実情です。

保険料を納付した人が誰か分からなければ、給付金を払う相手も特定できません。したがって、この保険料に見合った給付金は、本来支払われるべき人に支払われていません。

保険料を納付した人が平均寿命まで生きると、概ね納付した保険料並みの給付金が支払われるのが年金制度の基本的な仕組み。「36兆円」の保険料納付者が特定できなければ、給付金も概ね「36兆円」支払われていないことになります。「48兆円」の保険料が誰のものか分からなければ、給付金も「48兆円」が未払いのままです。

信じられないことですが、年金制度スタート以来、保険料と給付金の双方で「数10兆円」、いやいや、おそらく「100兆円」を上回る国民(納付者つまり受給者)の資金(保険料プラス給付金)が政府の資金繰りの中で使われてしまったようです。消えた「100兆円」と言えます。

質疑の中で安倍首相に「消えた年金」問題の規模の大きさ、事態の深刻さに対する認識を伺いましたが、あまりピンときていなかったようです。残念。

誰のものか分からない保険料総額について、柳沢大臣は「推計して回答する」と答弁しましたが、未だに回答はありません。

3.驚きの「ネズミ講」

ところで、上述の調査報告書の12頁から13頁にかけてあまりにも面白い(?)記述がありますので、この際、全文をご紹介します。

「保険料総額は、基礎年金番号に付番されていない、又は基礎年金番号に統合されていない年金手帳記号番号の記録ごとの保険料納付金額を集計しなければ算出できない。年金受給権は、加入期間等法律に基づく一定の支給要件を確認することにより決定するものであるが、保険料納付金額は支給要件ではなく、保険料納付金額についてすべてを管理する必要がないため、データとして保有していない。したがってお答えすることができない。」

この記述には3つの大きな問題が含まれています。第1に、保険料総額は「算出できない」「データとして保有していない」「お答えすることができない」としていますが、要するに、納付金額の記録がないということです。

年金制度を事業として考えれば、入出金、つまり、保険料納付金額と年金給付金額の双方の出納記録をつけるのは常識。保険料納付金額(入金記録)がないとは、空いた口が塞がりません。

換言すると、公的年金制度は自動的に加入者が増え、保険料も増え続けるので、出金つまり年金給付の方だけを管理していたということです。新たな顧客を次々と集めることで資金繰りをつけ、支払いも約束どおりに行わないという姿は、何と「ネズミ講」と同じ。少子高齢化で新規加入者が減少しているので、実際は「ネズミ講」よりもさらに危ない構造になっています。

第2に、「集計しなければ算出できない」と「データとして保有していない」という2つの記述は矛盾しています。

「データとして保有していない」ならば集計もできないはず。「集計すれば算出できる」ならばデータはあるはず。この矛盾を安倍首相に質しましたが、何のことか理解できない様子でした。残念。

第3に、「保険料納付金額は支給要件ではない」と明記してあります。驚きです。保険料納付の立証責任を加入者(国民)側に課し、領収書の提出を求めてきた政府の対応と矛盾します。「保険料納付金額は支給要件ではない」のですから、所属していた企業などを通じた加入記録、あるいは当該企業への在籍証明ができれば支給要件を満たすはずです。

そもそも、厚生年金加入者は所属企業による源泉徴収によって保険料を納付しているのですから、領収書はありません。領収書の提示を求めてきた社会保険庁の対応そのものが間違いです。

2004年の年金国会の際に不透明さを追及した年金数理計算(年金財政の将来計算)においては、今回明らかになった納入者不明の保険料と未支給の年金給付金は、計算上、全く考慮されていません。年金財政が状況が実情よりも底上げされて発表されていたようです。

不透明な将来計算、積立金の流用、そして今回の「消えた年金」の「3点セット」によって「消えた信頼」を取り戻すのは容易なことではありません。

質疑の中で、安倍首相は「日本の年金制度は賦課方式」と発言。そうであるならば、税金で制度を運営しても同じこと。社会保険料の納付は政府に巨額の資金を長期間預託することになり、ムダ遣いを誘発しています。この際、信頼を失った社会保険料方式による年金制度を廃止して、税方式による年金制度に移行することを推奨します。

(了)


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