参議院議員・大塚耕平(Ohtsuka Kouhei)がお送りする政治経済レポートです
総選挙が終わりました。ご協力、ご支援頂きました皆様に、心から御礼申し上げます。結果を真摯に受け止めつつ、得票率では拮抗したことを励みに、捲土重来、頑張ります。今後の政治や政策のあり方をお考え頂くために、ひとつの視点をお示ししておきたいと思います
1.「小さな政府」と「国民負担率」
今の日本の財政状況を考えると、「小さな政府」という方向性は、どこが政権を担っても共通の方向性だと思います。何しろ、公表されている国と地方の長期債務(期間1年以上の借金)だけで約700兆円、短期債務や隠れ借金を含めると1500兆円は下らないと言われています。
ところが、不思議なことがひとつあります。税金と社会保険料の負担を合算して「国民負担率」と言いますが、政府、とくに財務省は、「日本の国民負担率は諸外国に比べて低い」ということを一貫して主張しています。「だから、もっと税金や社会保険料を負担してください」という理屈です。
・・・ということは、今の日本は「小さな政府」の状態にあるということでしょうか。そうであるとすれば、「小さな政府」を目指すというのは妙なことです。
国民の皆さんは、「国民負担率がそんなに軽いという感じじゃないけどなぁ・・・」というのが実感ではないでしょうか。
2.「国民負担率」に含まれない「負担」
家計(サラリーマンや自営業者)も税金と社会保険料を払っています。所得から税金と社会保険料を差し引いた額が可処分所得です。
この可処分所得ですが、全部自分の自由になるお金かというと、そうではありません。可処分所得の中から貯蓄をしたり、民間保険の保険料を払ったりします。これらは、老後や病気になった時に備える意味もありますので、言わば、個人的(私的)な社会保障の保険料と言えます。つまり、政府が「諸外国に比べて低い」と主張している「国民負担率」に含まれない「負担」です。
企業についても同じようなことが言えます。企業にとって、収入(売上げ)からコスト(費用)を差し引いた額が利益です。利益の中から税金を払います。一方、コストの中心のひとつは人件費ですが、広義の人件費はいわゆる給与のことだけではありません。
給与以外に企業が負担する社会保険料があり、「法定福利厚生費」とも言います。この部分は、政府の言う「国民負担率」の中に含まれています。ところが、これ以外に、「非法定福利厚生費」という「負担」があります。社宅や社内教育、退職金や企業年金の「負担」がこれに該当します。
この「非法定福利厚生費」の部分は、政府が「諸外国に比べて低い」と主張している「国民負担率」の中には含まれていません。
以上のように、家計も企業も、いわゆる「国民負担率」に含まれない「負担」を負っていることが、国際比較では相対的に低い「国民負担率」以上の負担感を感じている理由かもしれません。
3.数字以上の負担感の理由
政府による「国民負担率」の国際比較によれば、アメリカ33%、日本36%、イギリス48%、フランス64%、スウェーデン71%です。スウェーデン並みまで許容するなら、日本の「国民負担率」は今の倍まで引き上げられることになります。
スウェーデンの国民は、なぜ71%でも我慢できるのでしょうか。日本の国民は、なぜ36%でも負担感が重いのでしょうか。
その理由はふたつあります。ひとつは、前の項目で述べた「国民負担率」に含まれない「負担」の問題です。この「負担」も含めたベースで国際比較をしないと、本当の負担感は分かりません。
スウェーデンの場合、高い「国民負担率」ではあるものの、老後や病気になった時には社会全体で面倒をみてもらえるので、個人的な蓄えはあまり必要ないということかもしれません。そうでなければ、71%という数字はなかなか信じられません。
あるいは、「国民負担率」を高める根拠とするために、日本の政府お得意の数字や統計のゴマカシをしているのでしょうか。確認する必要がありそうです。
もうひとつは、歳出の側で「国民負担率」に見合ったサービスが受けられていないということです。歳出の中にムダなものや不要不急の支出が含まれているため、社会保障サービスが十分ではないということかもしれません。
いずれにしても、政府が公表している「国民負担率」をベースにした国際比較は相当慎重に行う必要がありそうです。
分かりにくい内容かもしれません。しかし、この問題をよく整理し、理解しておかないと、与党が3分の2を占めた国会で安直に「国民負担率」を高める方向の議論が進みそうです。
少し表現の仕方を変えます。「今でも小さな政府だと主張している一方で、小さな政府を目指すというのはなぜですか?」ということです。
何だかクイズのようですが、このクイズの答え、来週からの国会でも改めて議論してみたいと思います。
(了)