陸上自衛隊ヘリが宮古島近海で消息を絶って3日目です。乗員の無事を祈ります。このメルマガを書いている最中に、隣接する伊良部島海上で「人のようなもの」発見とのニュース。メルマガを読んでいただいている頃には事態は進んでいると思いますが、墜落原因がよくわかりません。海上で発見されたヘリの機体等は細断されており、低高度からの墜落とは思えない様相です。乗員救出と原因究明が急務です。
1.屋那覇島
今年2月11日に中国人女性が「日本の無人島を買った」とYouTubeで自慢したのを受け、ネット上で「中国の領土が増えた」等々の中国人による書き込みがあり、物議を醸しました。
購入対象になった屋那覇島は沖縄県島尻郡伊是名村に属する東シナ海の無人島です。自治体名である伊是名島の南西約1kmに位置し、面積0.74平方km、周囲約5.3km、標高12mの平坦な島です。
巨大な「タマン」(琉球方言でハマフエフキ)が釣れるため、釣り人の人気スポット。漁船をチャーターして訪れる釣り人も少なくありません。
かつては引き潮の時に伊是名島から歩いて行けたそうです。1990年代に漁船航行用に伊是名島との間に水路を掘ったため、今では歩いて渡ることはできません。
釣り船のために造った水路かどうかは知りませんが、水路を造ったために歩いて渡れなくなったというのはもったいない話です。
隣の島に歩いて渡れるというのは素晴らしい観光資源。それを失ったのは残念ですね。1990年代と言えば、バブルの余韻が漂い、開発ブームの延長線上にあった時期。水路造成の背景は推して知るべしです。
屋那覇島は沖縄最大の無人島。2023年現在、島の所有は国が8%、村が26%、民間が66%。美しい海岸は伊是名村の村有地で「屋那覇の浜」と呼ばれ、キャンプ、海水浴、シュノーケリング等の人気スポットです。
浜以外の土地はほぼ未開の原野。その一部には戦前に蘇鉄(ソテツ)から澱粉(デンプン)を取り出す施設がありましたが、戦時中に米軍によって破壊されて原野に還りました。
屋那覇島の観光開発を進める某ツアー会社は、ホリエモンこと堀江貴文氏に近いメンバーが運営に関与していると聞きました。コロナ前には、このツアー会社によって堀江氏ファンを含めた数百人規模のサバイバルキャンプツアーが行われていたそうです。
上述のとおり浜は村有地ですが、原野の過半は私有地。そして1960年代から80年代にかけて、原野をリゾート地として区分け販売する「原野商法」の舞台となりました。
未開の原野は約900区画に分割され、区画整理された立派な土地であるかのように綺麗に分筆。約700区画が私有地で、残り約200区画には虫食い状に村有地等が点在しています。
電気も上下水道もないのでリゾート地としての開発は事実上困難。要するに「詐欺商法」「原野商法」です。
「原野商法」の時期が去った後に、地元水産組合がエビの養殖池を作るために約700区画を購入。しかし養殖池が造られることはなく、集めた出資金1.2億円を流用して頓挫。
その後、その水産組合は実業家O氏とともに会社を設立し、同社が約700区画の土地を引き取りました。そして2021年、この会社が東京の投資会社に土地を売却。
当該投資会社は東京都港区にある中国ビジネスコンサルティング会社「義昌商事株式会社」。そして、同社は冒頭の中国人女性に土地を転売したという構図です。伊是名村役場によれば島の約半分はこの女性の所有です。
上記に登場したO氏は、周囲に対して屋那覇島を「詐欺師が蠢く島」と表現しているそうです。そういう島だからこそ、巡り巡って中国人女性に渡ったということでしょうか。
ひょっとしたらこの女性も騙されているのかもしれませんが、この問題は日本の安全保障上の懸念にもつながることから、物議を醸して今日に至っています。
官房長官はこの件について「領海基線を有する国境離島、有人国境離島などに該当するものではなく、(重要土地調査法等の)法律の対象とならない」と発言しました。
表向きはそう言わざるをえないでしょうが、放置はしておけません。離島のみならず、森林、水源地、さらには都心部の土地やマンションも含め、中国資本による買収は現在の日中関係からすると看過できない問題です。
しかし、不思議なことがあります。中国では土地私有は認められていません。日本企業が中国で事業を行う場合も、土地の使用権を得ているに過ぎません。一方、中国人や中国企業は日本の土地を所有できます。この不条理は解決する必要があります。
2.留保条項
GATSはWTO(世界貿易機関)の「サービスの貿易に関する一般協定」の略称です。WTOには日本を含む164ヶ国が加盟しています。
GATS第2条は最恵国待遇、第17条は内国民待遇を規定しています。最恵国待遇とは「他国に与える待遇と同等の待遇を与えること」、内国民待遇は「他国民を自国民と同等に待遇すること」を意味します。
最恵国待遇及び内国民待遇について、米中両国を筆頭に留保を付している国がある一方、日本は何も留保していません。とくに土地取引、土地所有が典型例です。
その結果、例えば日中関係で言えば、中国人及び中国企業は日本の土地を所有できますが、日本人及び日本企業は中国の土地を所有できません。
現在の状況を見直す(土地取引に留保を付す)ためには、影響を受ける加盟国との外交交渉やWTO閣僚レベル会議において4分の3による承認が必要です。
不思議なことも起きています。2020年11月署名(2022年1月発効)RCEP(地域的な包括的経済連携協定)において、日本は土地取引に留保を付したうえで、1925(大正14)年制定の外国人土地法が関係していることを申告しています。RCEPには中国も加盟しているので、GATSとの関係で矛盾が生じています。
TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定)についてもRCEPと同様です。
因みに、外国人土地法は外国人又は外国法人に対して勅令によって土地に関する権利所有を禁止・制限することが可能な法律です。戦後、実際にこの法律の規定が発動されたことはありません。
諸外国のGATS留保状況等についても整理しておきます。米国では、連邦政府所有地及び開墾された土地所有は米国民のみ、一部州では非米国民の土地所有制限、非居住非米国民の土地購入制限、及び非米国民による公共用地購入及び入札参加制限が行われています。
英仏はGATSに留保は付していません。一方、英国では外国人土地取得に関する規制がないのに対し、フランスは国防目的での土地所有権制限が可能です。但し、内外無差別です。
中国は、上述のとおりGATSにおいて外国人土地所有不可という留保を付けました。そもそも国内的に外国人土地所有は原則不可。土地は国家に帰属し、外国企業の現地法人等は一定の制限下で土地使用権を得ることのみ可能です。
韓国は日本の外国人土地法を参考に1998年に外国人土地法を制定。外国人による土地賃借・所有は原則可能ながら、特別な許可が必要であり、賃借・所有が保障されるものではありません。また、軍事目的及び文化財・自然環境保全のために、事前許可・事後報告等の諸規制が課されています。
ロシアのGATSにおける留保状況は不明です。外国人土地所有は原則可能ですが、国境周辺等特定地域及び農地・港湾用地の土地取得は不可。特定地域として、大統領令でウラジオストク市、ハバロフスク市を含む380ヶ所が指定されています。
豪州では外国人土地所有は原則可能。しかし、外国投資政策ガイドライン及び外資買収法に基づく審査、及び外国投資審査委員会(FIRB)の認可が必要です。
タイでは外国人・外国企業の土地購入及び所有は許可されません。土地のリース、ビル所有及びコンドミニアムの部分的所有は認められます。
このように、各国とも様々な制限がかかっている中で、日本は大らかです。と言うよりも「無防備」「平和ボケ」です。
以上の情報をもとに、3月17日参議院財政金融委員会と28日予算委員会でこの件に関する質疑を行いました。次項はその内容を合体整理した内容です。ご興味があれば、詳細は議事録をご覧ください。
3.GATS第14条の2
(大塚)1994年GATS締結時に米国や中国は土地に関して留保条項を付けましたが、日本は付けませんでした。一方、2020年RCEP締結時には日本も土地を留保したうえで、関連国内法として大正時代の外国人土地法を申告しました。GATSでは留保せず、RCEPでは留保した理由を伺います。
(外務大臣)我が国及びその時点の交渉相手国を取り巻く経済社会状況、我が国経済界の具体的ニーズ、さらには交渉参加国間の利害バランス等を踏まえ、留保の要否を検討しました。GATS交渉時にはその時点の状況を踏まえて総合的に判断し、土地取引に関する留保を付さなかったのに対し、RCEP交渉時にはその後の状況変化等々を踏まえて留保を付したということです。
(大塚)安全保障は、軍事面だけではなく、食や水の安全等も含め、総合的に確保される必要があります。日本の森林や水源地が中国資本等に買収されています。また、日本人や日本企業は中国の土地を買えない一方、中国人や中国企業は日本の土地を自由に買えるという非相互主義的な状況は改善が必要です。1994年GATSで留保を付さなかった理由は「総合的判断」との答弁でしたが、その当時、どのような議論が行われましたか。
(財務大臣)そういうことは余り議論にならなかったと思います。
(大塚)1994年頃は、日本はバブルが崩壊して不良債権処理が徐々に問題化しつつあったものの、まだ住専国会前のタイミングでした。地価の反転上昇や外国投資に対する期待感が財界人や政治家の間にあり、かつ中国・韓国・台湾等が経済的・政治的観点から競争相手だとは思っていなかった時期です。情勢認識の甘さが、日本は留保を付さないという事態を招いたと思います。大臣はどういう印象を持たれますか。
(財務大臣)当時は安全保障が今日ほど切実な状況であると考えられていなかったのだと思います。日本の国力が落ちつつある中にあって、気持ちだけは昔ながらの大国意識を持っていたことが、条約等について細かくチェックし、留保を付けるとか付けないとか、そういう議論にならなかった背景ではないかなという気がいたします。
(大塚)しかし2020年RCEPでは留保を付けました。つまり、今は留保をしなければならない状況ということです。今後何らかの手を打つ必要があります。例えばGATSには第14条の2「安全保障のための例外」という条項があります。安全保障上の重大な利益保護のために、例外措置を講じることは妨げられないという趣旨の規定です。この条文解釈については、政府答弁も徐々に変わってきています。かつては「留保していないので外国人の土地取得だけ規制するのは困難」という答弁でしたが、2021年4月20日の参議院外交防衛委員会の答弁は「いかなる措置がこれらの例外に該当し得るかについては、当該措置の具体的内容、必要性等を踏まえ、個別の規定に照らし検討し、ケース・バイ・ケースで判断する必要がある」と変わってきています。変わったのは良いことですが、日本を取り巻く環境変化を鑑みると、対応が遅すぎます。例えば、屋那覇島のような離島について昨年施行された重要土地調査法の対象にする考えはありますか。
(担当大臣)重要土地等調査法附則第2条に5年後の見直し規定を置いています。法の執行状況や安全保障を巡る内外情勢等を見極めて、更なる政策課題について検討を進めます。安全保障を巡る内外情勢が、法成立または施行時に前提としていた状況から著しく変化した場合には、5年を待たず必要な検討及び見直しを行います。
(大塚)中国に対してはGATSとRCEPのどちらが有効ですか。
(外務大臣)中国はGATSとRCEP両方の締約国ですので、中国との関係では両方の協定が効力を有しています。
(大塚)つまり、留保している条約と留保していない条約の両方が有効だという矛盾した状況です。GATS第14条の2「安全保障のための例外」を適用して日本の置かれている状況を改善するつもりはありますか。
(首相)我が国の重要土地等調査法は「ダミーとして日本企業が使われることもある」「土地所有者の国籍のみをもって差別的な取扱いをすることは適切ではない」という有識者会議の意見や提言等を踏まえ、調査や利用規制の対象を外国人・外国法人に限定しない内外無差別の枠組みとしています。まずは本法を着実に執行し、実態把握を進めます。GATS第14条の2の活用については、今後の法の執行状況あるいは安全保障を巡る内外情勢を見極めた上で検討を進めます。
(大塚)総合的な安全保障は、土地にとどまらず、食料やエネルギーの確保、経済や産業の強化、それを支える人材育成等が行われてこそ成り立ちます。総合的な安全保障について認識を伺います。
(首相)御党は昨年に引続き、今通常国会においても総合的経済安全保障施策推進法案を提出されていると承知しています。私自身も、政府としても、外交、防衛のみならず、経済、エネルギーや食料等を含めた総合的な観点から安全保障政策を進めていくことが重要であると認識しています。また、国家安全保障戦略を踏まえてセキュリティークリアランス制度の検討を私から政府内に指示したところであります。こうした方向性は御党の法案とも軌を一にすると考えています。
国会質疑の概要は以上のとおりですが、今日の日本の状況には、日本の事業者や土地所有者等の無節操さ(国の安全保障上の懸念など「自分たちには関係ない」という姿勢)等も影響しています。
儲かれば土地でも島でも森林でも売ってしまうという国民の体質改善も、総合的安全保障の重要なポイントです。
(了)