先週末、安倍首相が突如、南スーダンの自衛隊PKO派遣部隊の撤退方針を表明。南スーダンは事実上の内戦状態に近づいており、自衛隊員の安全のためにも、日本が意図せざる紛争に巻き込まれることを避けるためにも、撤退は当然です。同時刻、森友学園も小学校開校から「撤退」を表明。これも当然。実態が明らかになった幼稚園も閉園すべきです。
1.情報公開法
孔子(こうし)と言えば、ほとんどの人が知っています。紀元前552年生まれ、紀元前479年没の春秋時代の中国の思想家、哲学者。儒家、儒教の始祖です。
社会が混乱し、秩序が動揺していた時代、物事の考え方、身の律し方、国の治め方等々、思想や哲学を探求したのが孔子です。
孔子の弟子たちは諸子百家の一家をなし、孔子と高弟たちの語録は「論語」としてまとめられました。「孟子」「大学」「中庸」と併せて儒教における「四書」をなします。
「論語」を愛読したり、参考にしている人も多いと思いますが、「顔淵」編の「第十二の七」に登場する「信なくんば立たず」はとりわけ有名です。
子貢問政、子曰、足食足兵、民信之矣、子貢曰、必不得已而去、於斯三者、何先、曰去兵、曰必不得已而去、於斯二者、何先、曰去食、自古皆有死、民無信不立。
子貢(しこう)は孔子の弟子です。子貢(しこう)が政治について尋ねました。孔子曰く「政治にとって重要なものは、食料、軍事力、信頼の3つである」。
子貢が「どれかひとつを犠牲にしなければならないとしたら、どれを犠牲にすればよいですか」と尋ねると、孔子曰く「軍事力である」。
子貢がさらに「もうひとつ犠牲にしなければならないとしたら、どちらですか」と尋ねると、孔子曰く「食料である。人の死は避けられないものだが、信頼がなくなれば人間社会が成立しない」と答えました。
ということで、政治にとって最も大切なものは信頼。「信なくんば立たず」は多くの政治家の座右の銘。小泉元首相もそのひとりでした。
狭義の政治のみならず、行政も含む広義の政治。つまり、政(まつりごと)は国民からの「信なくんば立たず」。政治家と官僚は常に襟を正して職務を遂行しなければなりません。
現在、国民の関心の的になっている森友学園問題。理事長が補助金申請を巡って詐欺的行為を行っていた疑い、あるいは学園の幼稚園における特異な教育方針等々の論点はさておき、政治家と官僚の側に国民の信頼を裏切るような不公正、不手際が多々ある点が大きな問題です。
例えば、森友学園に売却した国有地の売却価額が当初は不開示であった点。売却価額が不当に値引きされていたこと以前に、そもそも不開示が大問題です。
財務省は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下、情報公開法)」の「第5条の二のイ」を根拠に不開示は適切であったと抗弁していますが、3月9日の参議院財政金融委員会で問題点を指摘しておきました。
同条「二のイ」は次のように定めています。
「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」のうち、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」は非開示にできるという定めです。
この条文を手がかりに、読者の皆さんも是非お考え下さい。今回の事案で、売却価額を非開示にすることのどこが問題であったのか。私としては3点あると思います。
第1に、カッコ内には「国は除く」と明記してあります。国有地の売却は国と購入者の両方がいないと成り立ちません。したがって、そもそも国有地売却に関しては売却価額が非開示などということはあり得ない話です。
第2に、今回の売却価額を開示すること、つまり国が約8.2億円の値引きをしたことが公に知られることで、森友学園にどのような「正当な利益」を害するおそれがあったのでしょうか。
埋蔵物除去の作業費見合いの値引きですから、それが公になることは、小学校建設用地の土壌改善の努力をしている証。プラスにこそなれ、マイナスになることはありません。
埋蔵物があったことが知られると風評被害につながるとの口吻でしたが、本末転倒。実際には除去する意志がなかったからこそ、風評被害を理由にしたと推察できます。
森友学園がそれを主張したとしても、国つまり財務省は、上述のような考え方で当該主張を却下することこそ、国民の「信」に応える行政のあるべき姿です。
第3は、同条文後段の但し書きに関連します。「ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く」と規定されています。
小学生の健康への配慮の観点から、埋蔵物があったことは開示すべき情報です。除去費分を値引きして学校設置者が除去作業を行ったことを開示することは、「公にすることが必要であると認められる情報」にほかなりません。
財務省には猛省を促します。「前例がある」と主張するので、現在それを提示するように財務省に求めていますが、このメルマガを書いている12日現在、未提示です。
仮に前例があったとしても、上述のように、そもそも国有地の売却価額を非開示にすることは法律の趣旨に反します。前例があったとすれば、前例も問題だったということです。
2.国有財産法
国有財産は行政財産と普通財産に分けられます(国有財産法第3条)。前者は公用のために使用している財産のこと。後者は、行政財産以外の国有財産全てを指します。
今回、森友学園に格安の約1.3億円(時価約9.5億円)で売却した土地も、地元自治体に(豊中市)に時価より高い約14億円で売却した隣接地も、いずれも上記の普通財産です。
国有財産法第22条の一には「公共団体において、緑地、公園(中略)の用に供するとき」には、「普通財産は(中略)地方公共団体(中略)に無償で貸し付けることができる」と定められています。
釈然としません。隣接する2つの区画。片方は森友学園に異常な値引きの超格安で売却し、かつ売却価額は不開示。
片や、豊中市が公園のために取得した土地は、財務省が鑑定した時価を伏せたうえで、豊中市には時価より高い価額で売却。
国は何を考えているのでしょうか。本来は豊中市に無償で貸与するべきです。財務省及び国土交通省(当該土地の所有者)は言語道断です。
さらに、一昨年豊中市が国から約7.7億円で購入した別の土地(給食センター用地)にも埋蔵物があったことが判明。
国は売却時にそのことを開示しなかったことから、豊中市は約14.3億円の埋蔵物除去費を負担しています。
その一方、森友学園には、上記の値引きとは別に、これまでの工事でかかった除去費見合いとして既に約1.3億円を支払い。当然ですが、実際に除去したか否かは確認できません。
不思議なことに「1.3億円」は値引き後の森友学園への土地売却価額と同額。つまり、森友学園は自己資金なしで小学校用地を取得できたことになります。
一連の日付けは次のとおりです。森友学園が土地購入の希望を示したのが昨年3月24日、国が既往の除去費見合い約1.3億円を支払ったのが4月6日、国が埋蔵物除去費見合いの減額見積もり約8.2億円を提示したのが4月14日、国と森友学園が約1.3億円で売却契約を締結(売却価額は非開示を決定)したのは6月20日。
話はこれで終わりません。
森友学園が国から支払われた約1.3億円で、土地購入代金約1.3億円を即金で払っていたと思いきや、実は払っていませんでした。
国有財産法第31条には次のように規定しています。すなわち「普通財産の売却代金又は交換差金は、当該財産の引渡前に納付させなければならない」。
不思議に思って調べてみると、この条文の但し書きは次のように定めていました。
「ただし、当該財産の譲渡を受けた者が公共団体又は教育若しくは社会事業を営む団体である場合において、各省各庁の長は、その代金又は差金を一時に支払うことが困難であると認めるときは、確実な担保を徴し、利息を付し、5年以内の延納の特約をすることができる」。
森友学園の支払いは、この但し書きに基づいて分割払いになっていました。しかも担保はこの土地そのもの。つまり、自己資金ゼロで土地を取得し、逆に約1.3億円が国から支払われたという構図です。
さらによく調べてみると分割払いの期間は10年間。法律に定める5年を超過。この点を財務省に質すと、国有財産特別措置法第11条によって10年まで延長できるそうです。
実によくできた仕組みですが、森友学園自身がこういう仕組みを熟知していたとは思えません。財務省または国土交通省側が提案したと考えるのが妥当でしょう。
ずいぶん親切なことですが、その一方で豊中市には国有財産法で認められている無償貸与規定を適用せず、時価よりも高い価額で公園用地を売却。
さらには、埋蔵物の存在を告知せずに売却した給食センター用地では購入価額の倍の除去費を豊中市に負担させているのは、いったいどういうことでしょうか。
豊中市の市議や弁護士が、今月22日に近畿財務局を背任容疑で大阪地検に告発するそうです。当然です。森友学園の件のみならず、給食センターの件も告訴事案に含めるべきでしょう。
必要とあらば、豊中市の原告を全面的に支援したいと思います。
3.施政の姿勢
さらに、埋蔵物除去費見合いの価額積算は国土交通省(大阪航空局)が行ったことは報道でも明らかになっています。
積算経験のない大阪航空局が行ったことも奇異ですが、その積算の内容はもっと奇異です。
対象用地は全体の60%(校舎部分と校庭の一部)、杭打部分は9.9m、それ以外は3.8mまでの土砂を、埋蔵物混入率47.1%という仮定で入れ替えることを想定。
当該土砂に土砂の公定単価を乗じて積算した価額が約8.2億円。
9.9mから埋蔵物が掘り出されたという森本学園の申告に基づく積算です。私が森友学園ならば、用地全部を9.9mで計算するよう要望しますが、積算結果は約8.2億円。
当該分を減額した土地価額が、既往の除去費用として森友学園が申請した約1.3億円とほぼ同額。不思議なことです。
用地全部を対象に9.9m換算で除去費を積算すると土地の評価額がマイナスになってしまうため、適当な金額に着地するよう国土交通省と森本学園が交渉して決定した積算内容と推察できます。
説明に来た国土交通省某幹部にこの点を質したところ、「そのとおりです」との正直な回答。
「そうであるならば、委員会でそのように答弁するように」との当方の要請に対して「わかりました」との素直な回答。感心しました。
ところが、翌日(先週木曜日)の委員会で実際に質問すると「客観的な積算に基づく」との回答に終始。感心して損をしました。
嘘の上塗りのうえに約束も守らない国土交通省某幹部。これでは信頼は生まれません。言語道断、許しません。
「信なくんば立たず」。国土交通省某幹部はもはや官僚として不適格です。
さらに、別件も取り沙汰され始めました。平成25年12月13日に施行された国家戦略特区法に関わる事案です。
この法律は、特区に指定された地域で取り組む事業に関して、法律や規制の例外を認めるというもの。考え方としては理解できます。
「経済社会の構造改革を重点的に推進する」「産業の国際競争力を強化する」「国際的な経済活動の拠点の形成を促進する」ことが目的です。
現在、全国で10ヶ所が特区指定されており、そのひとつが「広島全県及び愛媛県今治市(愛媛全県ではなく今治市のみ)」。
昨年12月15日、今治市の特区において「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」が定められました。
この決定に対して、日本獣医学会は「構想の内容はいずれも既存の16獣医学系大学で既に取り組んでいるものばかりであり、新規性はない」との見解を表明し、反発。
しかも、公募は今年1月4日から11日までの1週間。新たに大学を創るという公募です。1週間では、もともと検討していた先以外は応募できるわけがありません。
案の定、公募に応じたのは、従来から今治市で獣医大学設立を計画し、過去何度も申請しつつ必要性が認められずに却下されていた加計学園という学校法人のみ。
獣医大学を新たに設置すること自体を否定するつもりはありません。必要性があると国が判断するのであれば、堂々と当該法人に対して認可をすればよいこと。わざわざアリバイづくりの公募を行う必要性は感じられません。
しかも、話を難しくしている点が2点。同法人理事長が首相と懇意であり、昨年も何度か面会。特例決定直後の12月24日にも夫人を伴って会食。
面会や会食が悪いとは言いませんが「李下に冠を正さず」というのが、公人たる者の身の処し方です。
さらに、同法人に今治市が約37億円の市有地を無償譲渡することを3月3日に決定。
豊中市も今治市も地方交付税交付団体。つまり、赤字自治体です。片や、その自治体に国が高く土地を売りつける。片や赤字自治体が学校法人とは言え、土地を無償譲渡する。支離滅裂です。
李下に冠を正してしまった首相には、説明責任があります。首相の「施政の姿勢」が支離滅裂で信のない政(まつりごと)を増殖させています。
(了)