第211回国会が始まりました。内外とも激動の2023年。国会の論点も多々あります。

明後日27日には、過日の岸田総理の所信表明演説に対する代表質問を行います。演説の項目に沿って真摯に質問させていただきますが、日本の経済や社会の抱える構造問題を議場の議員各位にも共通認識を持っていただけるような内容にしたいと思います。

午後1時からですので、ご興味があればNHK中継をご覧ください。

1.世界終末時計

昨日(1月24日)、人類滅亡までの残り時間を示す「世界終末時計(Doomsday clock)」の2023年「残り時間」が発表されました。その値は「90秒」。去年より10秒短縮され、過去最悪です。

ロシアによるウクライナ侵攻、ロシアによる原発攻撃、ロシアによる核兵器使用の現実実、中露の結託と米国との対立激化等を鑑みると、やむを得ない結果です。

世界終末時計の残り時間は、発表が始まった冷戦開始直後の1947年が「7分」、冷戦終結後の1991年が過去最長(良)の「17分」。今回の「90秒」の深刻さがわかります。因みに、直近3年間は「100秒」でした。

残り時間を毎年発表しているのは、米科学者が主宰発行する米誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」(原子力科学者会報)です。

ロシアによるウクライナ侵攻が現在進行形で行われていますが、同誌は核兵器使用の現実性が高まっていることを指摘しています。

ウクライナが核を放棄する代わりに米英露が安全保障を約束した1994年のブダペスト覚書をロシアが反故にして、原発まで攻撃対象にしていることを強く非難。もっともです。

また、コロナ禍によって米露の核兵器関連施設相互査察ができなくなっている点も不運としています。

同誌の声明はロシア語とウクライナ語版でも作成されました。さて、プーチン大統領は読むでしょうか。

東アジアにおける中国の核戦力拡大、北朝鮮の弾道ミサイル発射、核実験実施懸念等も、時間短縮の理由としています。

発表の記者会見で同誌ブロンソン会長は「世界は冷戦以来の危険な核の時代へ突入」「気候変動や新型コロナウイルスも人類の生存にとっての大きな脅威」と指摘しました。

多くの人が「そうだろうな」と思っているとは思いますが、科学者たちは「人々の想像以上に深刻」と受け止めているようです。

折しも同日、ポーランド及び英独3ヶ国が各14両、計42両のレオパルド等の戦車をウクライナに提供することを決定。米国も最新鋭戦車エイブラムス提供の見込み。今朝の英国BBCが報道しました。

ロシアが苦境感を強めることは必至であり、配備前に核兵器使用に踏み切るリスクが高まったと考えるべきでしょう。

世界終末時計の残り時間は、ノーベル賞受賞者を含む科学者や安全保障の専門家等が世界情勢を分析して判断しています。世界各国の指導者や各国国民に危機感を伝えるために、人類滅亡までの残り時間を比喩的に決めているものです。過去のメルマガでも取り上げていますが、少し復習します。

世界終末時計は、核戦争等による人類絶滅(終末)を午前0時に準(なぞら)え、終末までの残り時間を「あと何分何秒」と示す時計のことです。

日本への原爆投下から2年後、冷戦時代初期の1947年に米国の科学者等が危機を感じて始めた企画です。具体的には米国「原子力科学者会報」の表紙絵として誕生しました。

原子力科学者会は第2次世界大戦中に原爆を開発していたマンハッタン計画の参加者等が中心となって組織され、その機関誌である「原子力科学者会報」では核兵器の危険性について警鐘を鳴らしています。

開発して警鐘を鳴らすというのも不条理な話ですが、科学者もやってしまったことの重大さに気がついたということです。

終末時計の時刻は、当初、同誌編集主幹のユダヤ系米国人物理学者ユージン・ラビノウィッチが中心となって決めていましたが、同氏の死後は「会報」の科学安全保障委員会が協議し、時間の修正を行っています。

つまり、人類滅亡の危険性が高まれば残り時間が減り、低まれば残り時間が増えます。時計は「会報」の表紙に掲載されます。シカゴ大学にはオブジェが存在します。

科学安全保障委員会は、ノーベル賞受賞者を含む各国の科学者や有識者等14人で構成されています。

1989年10月号からは、核兵器のみならず、気候変動による環境破壊や生命科学等の脅威も考慮して残り時間が決定されています。

2.もう手遅れだ、皆さんさようなら

発表開始以来、これまでの推移を整理します。上述のとおり、最初は残り7分(1947年)からスタートしました。

創設後、ソ連が核実験に成功し、核兵器開発競争が始まったことを悲観して4分短縮して残り3分(1949年)。米ソ両国が水爆実験に成功した1953年には残り2分になりました。

科学者によるパグウォッシュ会議が開催されるようになり、米ソ国交回復が実現すると5分戻って7分(1960年)。さらに米ソが部分的核実験禁止条約に調印して12分(1963年)。

しかし、フランスと中国が核実験に成功し、第3次中東戦争、ベトナム戦争、第2次印パ戦争が発生すると再び7分に短縮(1968年)。

米国が核拡散防止条約を批准すると3分戻って10分(1969年)。米ソがSALT(第1次戦略兵器制限交渉)とABM(弾道弾迎撃ミサイル)制限条約を締結して12分(1972年)。

ところがその後、米ソ交渉が難航し、MIRV(複数核弾頭弾)配備、インドの核実験成功によって3分短縮されて9分(1974年)。

米ソ対立激化、国家主義的地域紛争の頻発、テロリストの脅威拡大、南北問題、イラン・イラク戦争等によってさらに短縮されて7分(1980年)。

軍拡競争に加え、アフガニスタン、ポーランド、南アフリカ等における人権抑圧等も反映して短縮が進み残り、4分(1981年)。さらに米ソ軍拡競争激化で残り3分(1984年)。

ところが、米ソ中距離核戦力(INF)廃棄条約締結によって3分戻り、残り6分(1988年)。湾岸戦争はあったものの、東欧民主化、冷戦終結でさらに4分戻って残り10分(1990年)。そして、ソ連崩壊、ユーゴスラビア連邦解体で7分戻って残り17分(1991年)。過去最長となって、最も人類滅亡の危機が遠のきました。

しかし、そこからは短縮の一途。ソ連崩壊後もロシアに残る核兵器の不安で残り14分(1995年)。インドとパキスタンが相次いで核兵器保有を宣言して残り9分(1998年)。

米国同時多発テロ、米国ABM条約脱退、テロリストによる大量破壊兵器使用の懸念から残り7分(2002年)。北朝鮮核実験、イラン核開発、地球温暖化進行で残り5分(2007年)。

オバマ大統領による核廃絶運動で1分戻って残り6分(2010年)となったのも束の間、核兵器拡散の危険性増大、福島原発事故を背景とした安全性懸念から再び残り5分(2012年)。さらに気候変動や核軍拡競争のため残り3分(2015年)。

そして、核廃絶や気候変動対策に消極的なトランプ大統領が登場した2017年。残り時間が少ない中で、30秒短縮されて残り2分30秒となりました。

2018年、前年に北朝鮮やイラクの核兵器開発が露呈したうえ、トランプ大統領の言動やツイート外交による混乱激化、米中対立が過熱し始めたために「冷戦時より危険な状態」として前年からさらに30秒短縮して残り2分。その時点では、1953年と並ぶ過去最短、過去最悪となりました。

核問題だけではなく、気候変動問題も深刻化。世界各地で異常気象や自然災害が頻発し、気温上昇は危険な水準に近づいていました。しかも、トランプ大統領はパリ協定離脱方針を発表。

そして2019年。残り時間は前年と同じ2分でしたが、科学安全保障委員会の科学者は「もう手遅れだ、皆さんさようなら」との絶望的コメント。ブラックジョークと言いたいところですが、ジョークとも思えません。

世界各国における核戦争の危機、進む環境破壊、広がる不寛容等々、「新たな異常事態(ニュー・アブノーマル)」と表現されました。米中露3ヶ国が「ニュー・アブノーマル」の中心であることは言うまでもありません。

同年11月4日、米国はパリ協定離脱を正式表明。それに先立つ8月2日、中露に対抗して、米国は中距離核戦力(INF)廃棄条約も脱退。

脱退直後にミサイル実験を行ったのに続き、同条約で制限されていた地上発射型中距離弾道ミサイルの発射実験を初めて実施。エスパー国防長官は実験直後に「開発完了次第、欧州、アジアの同盟国への配備を協議する」と発言。

こういう状況では、世界終末時計の残り時間が過去最短、過去最悪となるのも必然でした。

3.秒単位入り

そして2020年1月、残り時間はとうとう秒単位で表現される段階に入り「100秒」と発表されました。コロナ禍が本格化する前でしたが「1947年の開始以降、最も終末に近づいた」とのコメント。

核拡散や気候変動対策の遅れ、さらにサイバー空間における偽情報拡散が理由に挙げられました。

イラン核合意崩壊、北朝鮮の核兵器開発、米中露の核拡大が理由とされ、「核兵器の脅威は高まっている」「危険な状況への緊急対応が必要」と指摘。

その年は11月に米大統領選を控える中、「サイバー空間における選挙キャンペーンに関する偽情報によって関係機関や国家間に不信感を植え付ける」との指摘は的中。国家間どころか、米国民の中で深刻な分断を招きました。

「虚偽・誇張・誤解」は科学的見解への「深刻な打撃」につながると指摘。また、高度な偽動画「ディープフェイク」は、真実を損なう深刻なリスクとされました。まさしくそのとおりでした。

そして2021年1月、残り時間は「100秒」に据え置かれましたが、前年にはコロナパンデミック、米国大統領選挙、そして香港騒乱もありました。

「パンデミック危機において、各国政府は科学的助言を無視し、人々の健康を守ることに失敗した。核兵器や気候変動という人類の脅威に対処する準備もできていない」との声明が発表されました。

2022年1月、再び「100秒」に据え置かれたものの、「核兵器,パンデミック,気候変動,生物学的脅威,人工知能や近年急速に拡散される偽情報など,地球を脅かす新たな課題は山積している」とのコメント。「核戦争が起これば,他のどんな問題もどうでもよくなってしまう」と絶望的なコメント。

残り時間が据え置かれたことには一定の根拠があります。地球上の核兵器の90%を占有する米露両国で将来の軍備管理を交渉する新STARTの5年間延長が決まったことです。

また、短距離ミサイル発射を繰り返す核保有国北朝鮮も、この時点では、長距離弾道ミサイルの実験を再開していませんでした。

しかし一方で、イラン核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」が再び暗礁に乗り上げたこと、イランが濃縮ウラン備蓄を続けていること、米中露の軍拡競争再開及び極超音速ミサイルや核兵器の近代化推進、北朝鮮のプルトニウム製造再開、インドとパキスタンの核武装強化と関係緊迫化など、残り時間短縮になってもおかしくない動きもありました。

あまりに悪いメッセージとならないよう、あえて残り時間を据え置きにしてくれたような気もしますが、2023年はやっぱりさらに短縮。「90秒」になりました。

21世紀の世界は今後どうなるのか。かつて一世を風靡したノストラダムス(1503年生、66年没)の大予言ではどうなっていたか興味深いところですが、ブルガリアの大予言者ババ・ヴァンガ(1911年生、96年没)は21世紀初頭に第3次世界大戦が勃発すると予言しています。

「ババ」はブルガリア語で「おばあちゃん」の意味。欧州では信奉者が少なくありません。子供の時に竜巻に飲み込まれ、激しい砂嵐で両目を失明。以来、予知能力を発揮。生前本人は「不思議な生き物が未来の出来事を教えてくれる」と話していたそうです。

残り時間がさらに短縮されることのないようにしたいものです。前号でお伝えした2023年のイアン・ブレマーの「世界10大政治リスク」を再述して締めたいと思います。リスク軽減に微力ながら貢献できるよう、職務に精励します。

第1位「ならず者国家ロシア」キューバ危機より高い核使用リスク、第2位「最大化する習権力」恣意的な決定や不安定な政策、第3位「テクノロジーによる社会混乱」フェイクニュース等の影響、第4位「物価高騰の波」各国金融引締による景気後退、第5位「追いつめられるイラン」デモ参加者に対する暴挙。

第6位「エネルギー危機」供給不足と価格高騰、第7位「途上国成長への打撃」世界景気後退に伴う途上国経済危機、第8位「米国の分断」2024年大統領選挙に向けた対立激化、第9位「デジタルネイティブ世代の台頭」世界や社会の力学変化、第10位「水不足」人的被害と紛争への発展。

第9位の「デジタルネイティブ世代の台頭」は、リスクというより希望と考えたいところですが、彼らが世界の混迷に新たな解を見い出すか、SNS上のフェイクニュース等から受ける悪影響が拡大するのか、注視していきます。(了)